セクハラ、パワハラ、モラハラ、ドクハラ、アカハラ、マタハラ……。ここ最近、さまざまなハラスメントが問題視されるようになってきたが、“メシハラ”なる嫌がらせも出現した。
上司命令で昼食にハンバーガー20個を完食
GPSを使い残業の証拠などを自動で記録できるダウンロード無料のスマホアプリ『残業証拠レコーダー』を運営している日本リーガルネットワーク(本社=東京都中央区)が募集したブラック企業に関する苦々しいエピソードを綴った体験談で、卸・小売業に勤務する30代の男性は、こう訴えた。
《大食いチャレンジと称して所長が大量に買ってくる昼食の処理を任されるようになりました。最初はコンビニ弁当2つ程度だったのが、いつしか菓子パン15個、ハンバーガー20個、(外食ならば)ラーメンの替え玉12個、と量がエスカレートしていきました》
まさに“メシハラ”。先進国の企業で、このような後進的なことが行われているというお粗末さ。さらに、この男性は退職にあたっても、屈辱的な扱いを受けたという。
《秘密厳守の名のもとに「今後永久に、どんな手段でも自分が受けたことを公表しない」という誓約書にサインを書かされて退職しました。さらにいえば、そのとき、営業所長は手が痛いといってサインを書かず、自分の署名欄に、私に代筆させました。思い出しても苦しいです。涙が出てきます》
まるで証拠を残さない防御策のような、営業所長の姑息なやり口。本来、働き手の自由であるはずの退職に関しても最近は、“退職ハラスメント”が横行しているという。
前出・日本リーガルネットワークの代表取締役で弁護士でもある南谷泰史さんは、
「“辞めたいけど辞めさせてくれない”という話は多く、辞めるのに上司の許可が法律上、必要だと誤解している人もまた多いんです。退職届を受理してくれないという事例もありましたが、受け取るかどうか、許諾する権利は会社には一切ありません。“できれば残ってほしい”と説得するのは自由ですが、拒否はできないんです」
にもかかわらず、退職届を放置されたり、目の前でシュレッダーにかけられたりといった出来事も! だからだろうか、従業員に代わって会社との連絡をとりもつ『EXIT』という退職代行サービスが繁盛しているという。
運営するセンシエス合同会社(本社=東京都新宿区)の代表、新野俊幸さんと岡崎雄一郎さんによると、
「月に200~300件ほどの依頼があります。相談になりますと、その3~5倍はありますね。20~40代が多く、たまに50代も来ます」
と、退職代行を求める人の多さを報告する。
「“それくらい自分で言いに来いや”とか、罵声を浴びせられることはあります」
と新野さん。岡崎さんも、
「“社会人としてどうなんだ”とか“無責任だ”とか、本人の代わりに怒られるようなものです」
と苦々しく笑う。
被害者が追い込まれる現状
直接退職を伝えられないほど、上司との関係がぎくしゃくしているケースは多い。
セクハラ被害で退職を決めた女性は、
「自分のデスクにあるものは、上司を思い出してしまうので全部捨ててください」
と『EXIT』に伝えたという。顔も合わせたくない相手に辞表を渡すのは苦痛だ。
神職にパワハラを受け、考えるだけで息苦しくなり出勤できなくなった神社の巫女。歯科医にカルテの角で額を殴られたり“クビにするぞ”と怒鳴られた受付係の女性。会社に経理の仕事をすべて押しつけられ、辞めると経理の仕事が回らないからと退職を受け入れてもらえない女性……。
直接退職を伝えるのもうんざりする状況に置かれた人たちが、『EXIT』に救いと出口を求めてくるという。費用は正社員5万円、アルバイトは4万円。
《その後、私は負け犬のように退職に追い込まれました》
と、嫌な思いが今も心に張りついているのは、運送・物流業の30代女性だ。
《入社当時からあらゆるセクハラを受け続けました。新人なので先輩に食事に誘われ断れず、食事後に抱きつかれたり、メールでセフレを強要されたり、胸、お尻、首、耳、股間まで通りすがりにいろんな人に触られました》
6年目で女性は壊れ病院へ。会社幹部に訴えたが、威圧されるだけだった。後日、
「本人たちはそんなことをしていないと言っている」
と突き放された。
20代の女性は新卒で入社した旅行会社でひどい目に遭ったという。夏前に壊れた空調がそのまま放置され、ラップトップパソコンを使っている上司だけが空調の効く部屋に行き、デスクトップパソコンを使っていた若手は夏場の灼熱地獄の部屋で、デスクワークを余儀なくされたという。
アトピー性皮膚炎が悪化したというその女性は、
《その姿で接客するわけにもいかず、スカーフを巻いて仕事をしていたのですが、一日が終わる頃には汗と血でスカーフが首に張り付き、スカーフは血だらけでした》
会社が新しい空調にしたのは、10月だった。
外食産業で働いていたという20代の男性は、
《朝6時から深夜2時まで働いて、次の日のシフトがまた朝の6時でした。移動にタクシーを使うしかないですが、タクシー代は出ません。残業代を規制するためにタイムカードもフルタイムでは押すことはできなかった》
などと、さんざん。身体が先にだめになるか、心が折れるかの20時間労働……。とても平成とは思えない、劣悪な環境である。
タイムカードがなかったり打刻ができなかったりするケースは今の時代でも多く、その際、力強い証拠能力を発揮してくれるのが、前出の『残業証拠レコーダー』だ。
前出・南谷さんは、
「裁判では、退社時間を証明できれば残業の証拠になってきている。GPSに関しては、過労死の認定で裁判所や労基署(労働基準監督署)がよく証拠として使っています」
と、自分を守るために、泣き寝入りしないために、悔しい退職の思いを引きずらないために、会社に自分の人生を台無しにされないためにも、客観的な証拠が重要になると訴える。それさえあれば、
「残業代請求は従業員側が圧倒的に有利な統計になっています。会社側には労働時間を管理する義務があります。社用パソコンのログイン・ログオフ、飲食店の場合はシフト表と営業時間、運送業者ならタコグラフが証拠になることもあります」
と南谷さんは続ける。
「社会の目線は、ブラック企業に厳しくなっている。パワハラ認定も、使用者にとって厳しくなってきています。裁判所は従業員側を保護するようになってきています」
と世の中の意識の変革や裁判所の変化を明かす。
日本にどれだけのブラック企業があるのか見当もつかないが、退職代行サービス『EXIT』が繁盛し、『残業証拠レコーダー』のダウンロードが増える限り、どんなに政府が働き方改革を声高に訴えようが、“労働後進国”日本の夜明けは遠い。