健康のために飲み物にもこだわり、基本はだし汁をお茶がわりに飲んでいる。お茶に梅干しを入れたり、白湯にはちみつを入れたものを飲むときも 写真協力/石澤真実

 NHK『きょうの料理』、『あさイチ』などでおなじみの料理研究家・清水信子さん。丁寧でわかりやすい語り口で、旬の素材を生かした簡単でおいしい和食の基本を伝えている。79歳の今も現役で、テレビやラジオ、雑誌などで活躍中だ。

 清水さんがおひとりさまになったのは、平成2年、がんを患っていた夫を見送ってから。子どもはなく、ひとり暮らし歴は28年。

「夫の闘病中、私は仕事も続けていました。東京の病院で治療ができなくなった夫が(三重県)四日市の知り合いの病院に転院してからも……。

 もともと夫は“僕にかまってくれなくていいんだよ。仕事をがんばって”というタイプ。いつの間にかひとりで生きていく術が身についた私に安心したのか、“もう別の次元に行くからね”と言って旅立ちました。亡くなってから1度も夢にも出てきません。そんな夫と会話がしたくてお墓参りは毎月、行ってるの

 仕事をするときは、いつも一生懸命。どんな仕事でも、受けたからには決して手を抜かない。

 例えば、雑誌の仕事で「冬のほうれん草料理」を求められたとき。撮影は夏にするので、やせこけたほうれん草しか手に入らない。すると清水さんは、冬に出回る根の赤い丈夫なほうれん草を探すため、都内スーパーから築地市場まで駆けずりまわる。

仕事場でもあるキッチン。大好きなラジオを聴きながら、仕事をすることが多い。ラジオは各部屋に1台ずつ置いてある 写真協力/石澤真実

「先生、身体をこわすからやめてください」と言われても、1把のほうれん草にもこだわり、納得できるまでとことんやるのが清水さんの仕事の流儀であるから。

 仕事で充実した日々が続いていたが、夫の死後は気持ちがガクンと落ち込んだ。でも、それを救ってくれたのも仕事だった。

「夫が亡くなって、本当につらくてどうしようもなかったとき、編集の人が“先生、本1冊、作ろう!”って声をかけてくれたの。私は夢中にならないと本は作れない性質。だから、それで助けてもらえたようなもの」

 愛犬・ウリがいたことも、おひとりさまの暮らしを支えてくれた。

「前に飼っていた犬はよく噛む子で悪い子だったけど(笑)、2匹目のウリはとてもいい子だったの。尻尾をふまれていても、“痛いんだけど”って、上目づかいで見ているだけ。ビション・フリーゼっていう犬種のミックス犬だった」

 ある日、スーパーに買い物に行き、ウリを店頭につないでおいたら、誰かに連れ去られてしまい行方不明に。必死に探していたら、地元の新聞販売店の人が折り込みチラシを作り、配ってくれた。そのかいあってウリは1か月後に発見され、天寿をまっとうした。

 以来、寂しくても年齢を考えて犬を飼うのはやめてしまったが、親身になってくれたので新聞販売店は変わらずそこ、と決めている。

「人生って、悲しんで生きていても一緒でしょ。だったら私は、いつでも笑って、楽しんで生きていきたい。そして、会った人に“2度と会いたくない”というのではなく、“もう1度会いたい”って思ってもらえる人になりたい」

毎日、万歩計をつけて外出。午後の散歩では、5000歩を目標に歩くようにしている 写真協力/石澤真実

 清水さんは、本当はちょっぴり元気がないときでも、人と会うときは意識してはつらつと振る舞う。心のメンテナンスはどうしているのかと聞くと、大好きなユリの花を玄関に活けたりするなど、いくつか逃げ道を作っておくのだそう。

「誰もくれないから、自分でご褒美を用意しておくの(笑)。仲よしのきょうだいがいても、子どもや孫ができたら自分の身内のほうが可愛いのは当たり前。自分は自分で独立しなきゃいけないと思うのよ」

 おひとりさまで生きるからこそ、健康管理には人一倍、気を遣っている。

「1日3食、毎日きちんと食べること。地産地消で、旬のものを食べるのがいいのよ。年をとったら、なおさら身体に合ったものを食べることが大事。肉も魚もバランスよく。国産のいい食材を選んでいます」

 食事を手作りすることも、健康の秘訣。1人分を作るのは効率が悪くなったりもするので、卵焼き器を使って2切れ分の煮魚を作り、余った1切れ分を煮汁ごと保存袋に入れ、冷凍するなど工夫も欠かさない。

 翌朝食べるものを、晩ごはんを準備しているときに作っておけば、朝もラク。作り置きしたり、冷凍してあったものを2~3品、小さな器ごと大鍋の中に、並べ入れ、湯せんで温めるだけで朝食のできあがり。お茶がわりに“だし汁”を飲むことも長年、実践している健康法のひとつ。

「朝、起きたらだしをとって、温かいのをまず1杯、ゴクッと飲みます。胃腸を通っていくのがわかると、“今日も元気だな”って実感できるんです」

 身体の冷えを防ぐこと、甘いものを控えることも続けている。特に甘いものは体内に乳酸が出て、余計に疲れてしまう。健康に配慮しているおかげか、数年前に行った病院の検査では、「腸年齢は20代」だった。

「今はこうして元気にやっていますが、これから本当に働こうと思っても、あと10年もないと思ってるの。だからこそ、日本の大事にしてきた食生活や食文化を、親から子へ、後世に伝える仕事をやっていきたい。そして、人生の終いをきちんと生きていきたいのです」


〈PROFILE〉
しみず・しんこ ◎料理研究家。基本の和食から、簡単なお惣菜、懐石料理まで、上品な味つけとわかりやすい指導で人気。NHK『きょうの料理』をはじめ、テレビ番組、雑誌でも活躍。著書に『基本の和風こんだて―おいしい手間をかけましょう!』、『いいことあったら「ハレの日」ごはん』、『和食かんたんおけいこ帖』など多数。