この夏、日本映画界に革命を起こしたといっても過言ではない、映画『カメラを止めるな!』の勢いが止まらない。6月23日公開時は東京都内のミニシアター2館のみだったが、SNSや口コミで話題を呼び、47都道府県180館以上で拡大公開されることに。
製作費はわずか300万円。商業用作品は初めての新人監督と新人俳優たちによる、低予算ゾンビサバイバル作品にもかかわらず、大作がそろう夏の全国映画動員ランキングでベスト10入りする快挙を成し遂げたのだ。
8月16日現在で、動員数は40万人超え。そこで異例ずくめの同作品でメガホンを取った上田慎一郎監督(34)と主演を務めた濱津隆之(36)に取材を決行! 実は2人はこの作品にたどり着くまで、紆余(うよ)曲折があったそう。
濱津「もともと吉本の養成所(NSC東京校11期)に通い、養成所時代に知り合った人とコンビを組んで1年ほど芸人活動をしていました。活動はというと、シアターDという100人ほど入る劇場にたまに立つぐらい。もともと’80~’90年代のヒップホップが好きだったこともあり、音楽の世界への未練が捨てきれないことや、先のことをひとりで考えすぎて生き急いでしまった結果、芸人は辞めることに。それでDJ活動を始めたのですが、そっちも長くは続きませんでしたね」
上田「今でもかなりポジティブな性格ですが、20代のころはポジティブの塊みたいな人間で。当時流行(はや)っていたmixiの岡本太郎コミュニティなどに『岡本太郎を超える!』といった書き込みをするなど、自信しかなかった(笑)。それで地元(滋賀)からヒッチハイクで上京したのですが、20~25歳ぐらいまでは悪い大人たちに騙されまくりでした。ネズミ講で200万借金したかと思えば、自費出版の誘いにそそのかされてまた200万借金をして……。それで一時は、代々木公園でホームレスをしていたほど」
しかしそんな遠回りをしてきたからこそ、この作品を撮れたと語る。
上田「この作品はワークショップに参加した人の中から不器用そうな人たちを選抜したので、出演者は何かに挫折した人が多いと思います。目標に対してまっすぐ進めない……それは僕を含めてですけど(笑)」
濱津「DJを辞めたあと、この先何をやろうかと考えたときに、芸人時代にコントで役になりきることの楽しさを思い出して、役者の道に進みました。いろいろ挫折したからこそ、本当にやりたいことが見えたような気はします」
上田「プロデューサー役の竹原芳子さんという方は、少し前まで大阪で裁判所勤務をしていて、演技は今回が初めて。経験は浅い人たちばかりだけど、だからこそ出せるパワーはすごくあるなと思います」
13日放送の『痛快TVスカッとジャパン』(フジテレビ系)にキャスト陣がゲスト出演するなど、早くもさまざまな広がりを見せている。
上田「自分だけでなく、キャスト陣にこうして声がかかるのが、自分のこと以上にうれしい。みんなにはぜひ売れてほしいです。自分の作品以外で主演をするようになったら、寂しい部分もあるけど、“やりやがったな!”って刺激になるでしょうしね。将来、お互いが活躍して、大きなステージで一緒に仕事ができるようになったら最高だなって思います」
同時期に同じくノーマークな状態から口コミで人気に火がついたDA PUMPの『U.S.A.』とともに語られることも。この作品に“ダサかっこいい”のようなキャッチフレーズをつけるなら?
上田「実はこの映画にも“ダサかっこいい”ってセリフが出てくるんですけど、僕自身ダサいって言われるものを一生懸命やることがカッコいいと思っている部分があるので、そこは共通しているかもしれません。この映画にキャッチフレーズをつけるなら……“ポンコツの逆襲”とかかな(笑)。器用に生きられない人たちならではの純粋さ、パワーが今の時代に求められているのかなって思います」
全国拡大公開など、想像していなかった展開が続々と起きているだけに、『流行語大賞』や『紅白歌合戦』の審査員などもありうるのでは?
濱津「『紅白歌合戦』ですか……場違い感が半端ないですね(笑)」
上田「僕はこれまで、さんざん失敗してきた人間なので、今さらカッコつけるつもりはありません。“映画監督だから”と変に仕事を選ぶようなことはしたくないと思っているので、もしオファーがあるなら、いろんな仕事に挑戦してみたいですね。ときにはバッシングされることがあったとしても、それすらも取り込んで、今後も面白い映画を撮っていきたいです」
■映画『カメラを止めるな!』
“37分ワンシーン・ワンカットで描くノンストップ・ゾンビサバイバル!”……を撮ったヤツらの話。出演/濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、秋山ゆずき ほか。現在、大ヒット公開中!