愛しているからといって、相手を縛り付けることでいい関係が築けるわけではない(写真はイメージです)

 こんにちは。生きやすい人間関係を創る「メンタルアップマネージャ(R)」の大野萌子です。

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 夏休みを通じて、いつもより長く、夫婦一緒の時間を過ごした方も多いかと思います。帰省や旅行など、楽しい思い出とともに、よりよい関係を深められたらベストかと思いますが、実際は、なかなかそうはいかないものです。

 ちょっとした会話のやり取りでイラっとしたり、価値観の相違を目の当たりにして心底うんざりしてしまうような場面に遭遇することも、少なからずあるのではないでしょうか。

 少しでも関係性に葛藤を覚えた方は、単に、混雑や疲労で疲れていたからだけで片付けずに、あらためて夫婦のあり方を考えてみるのによい機会かと思います。

共依存になっていませんか

 家族や夫婦だから愛情があって当たり前と思いがちですが、そもそも愛情とは何でしょうか。

 実は、この「愛情」にこそ、トラブルの原因が潜んでいます。

 愛情と一口に言ってもさまざまなとらえ方があると思いますし、一概に定義できませんが、依存関係を「愛情」とはき違えてしまうケースがあります。相手にわかってほしい、認めてもらいたい、愛されたいなど相手に依存する気持ちです。

 基本的に人間関係の中でも、家族、夫婦、恋人は、依存関係が強くなりがちです。これが過度になってしまうと共依存の関係をつくり出してしまう原因の1つとなります。共依存は、自分と他者との境界があいまいになり、お互いが必要以上に干渉したり、傷つけ合ったりしてしまう関係性です。

 たとえば、

・相手の機嫌が悪くなったときに、その状況を自分の責任だと抱え込む(自己否定)
・なぜ〇〇してくれないの?と相手をコントロールしようとする(責任転嫁)

 という具合に、自分基準ではなく、相手基準で物事をとらえるので、自分の感情を抑えたり他人に押し付けたりして、建設的な人間関係が築かれにくいのです。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 そして、依存と攻撃は表裏一体で、依存度が高い人ほど、攻撃性は強くなります。

 自分と相手の境界があいまいで、相手のことをまるで自分のことのようにとらえてしまうため、わかってもらえなかったときや意見が違うときなどに、必要以上に裏切られたという気持ちやショックが大きくなります。

 それが相手への悲しみや怒りとなり、攻撃性を高めてしまうのです。

あなたの「共依存度」は?

 以下のことを夫(妻)の顔色をうかがわずに抵抗なく自分1人で決められますか?

1. 服装や髪型
2. 友人
3. 自分のスペースの整理整頓
4. 持ち物
5. 趣味
6. 休日の予定

 意見を聞いたり、経済的な問題などを調整することが必要なときもあると思いますが、上記のことを1人で決められない場合、もしくは、相手から必要以上に口出しが出る場合は、共依存度が高いといえます。

 自分はそう思っていなくとも、すべてに口を出されると、1人で決断することを恐れるようになります。干渉されることは愛情のようでいて、実は、本当の愛情や尊重とは違います。

 しかし、執着とわかっていても、自分に強くかかわってくれるという誘惑を断ち切ることも、また難しいのです。

 相手にイライラしたり失望したりするのは、知らず知らずのうちに共依存関係に陥ってしまっている可能性があるのです。

心地よい関係性を保つための5つのコツ

 夫婦といえども他人ですから、まったく同じ感覚、考えを持つということはありえません。同じ方向に無理矢理向かせるのではなく、お互いが心地よい距離感と関係性を保つために大切なことをお伝えしたいと思います。

1. 現実を見る

 夫(妻)とはこうあるべき、という理想はあると思いますが、理想と現実は異なるものです。ありたい姿を追い求めるのも成長には必要かもしれませんが、あまり現実離れしていると苦しくなるだけです。

「○○するべき」と思ってしまうことが、現実との乖離がある証拠です。

2. 昔の出来事にとらわれすぎない

「あのときこうしてくれなかった」「裏切った」など、過去の出来事にとらわれすぎると相手に対しての思いやりは生まれにくく、ことあるごとに、相手に懺悔させたい気持ちにかられるものです。

 これは、「こんな思いをするのは、あなたのせい」という非常に暴力的な行為です。これから先も一緒に生きていくのでしたら、過去の出来事にとらわれすぎずに、自分の中で折り合いをつけていくしかありません。

3. 「100%」はない

 完璧主義の方ほど、白か黒かで判断しがちです。こういう形でなければダメと思えば、窮屈になりがちです。ほどほどを意識して、ある程度、自分の思いがかなえられればOKという気持ちを持つことが大切です。幅を持たせることができれば、気持ちに余裕ができます。

4. 罪悪感に縛られない

 当たり前ですが、夫(妻)に言わないことがあってもよいのです。それは、ウソをついていることとは違います。考え方が違うのは、裏切りではありません。心配だからというきれいごとで片付けられがちですが、すべてを知りたいというのは支配感情でもあります。

 お互いに、それぞれ個人の時間や思いがあることを尊重するべきです。ですから、自分自身の時間を大切にすることを心掛けてください。

5. ソフトランディングを目指す

 急激に関係性を変えるのは、無理があります。少しずつ変化させ、失敗したら違う方法を試みて、あきらめずに折り合える地点を模索していくことが必要です。おだやかに、感情に巻き込まれずに、時間をかけることも大切です。

 ずるずると嫌な関係を続けていくのではなく、こうありたいという自分の信念や考えを持って、夫(妻)との適切な距離(物理的・精神的)を育んでいってください。適切な距離感が生まれれば、心地よい関係ができ、お互いの信頼と絆を深めていくことになると思います。


大野 萌子(おおの もえこ)◎日本メンタルアップ支援機構 代表理事 法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。現在は防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで年間120件以上の講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書に『「かまってちゃん」社員の上手なかまい方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。公式HPコラムサイトでも執筆中。