近年はSNSの充実で、地方からも全国的な人気を獲得するコンテンツが誕生している。これからも確実に地方からスターは生まれ、それらの命は、東京のエンタメ観では見つけられない場所で産声をあげています。そんな輝きや面白さを、いち早く北海道からお届けします(北海道在住フリーライター/乗田綾子)
8月中旬、北海道札幌市のわくわくホリデーホールで行われた、ハロー!プロジェクトの所属アイドルによる合同ライブ「Hello! Project 20th Anniversary!! Hello! Project 2018 SUMMER 〜ALL FOR ONE〜」に行ってきました。
モーニング娘。のメジャーデビュー年に生まれた女性アイドル集団・ハロー!プロジェクトは、今年で誕生20周年。現在は名前に西暦がつくようになった「モーニング娘。'18」を筆頭に、6組のグループが活動しています。
ところで、このハロー!プロジェクトのライブですが、実はここ北海道で“東京と違う現象が起きている”ことを、皆さんはご存知でしょうか。
その現象とはずばり「北海道のハロプロライブは女性客が多い!」
AKB48のブレイクによって女性アイドルブームが巻き起こった2010年代。その熱は男性ファンだけでなく多くの女性ファンも生み出し、今や自身が女性アイドルファンだと公言する女性は、普通の存在になりました。
しかし、その流れを踏まえても、北海道のハロプロライブは東京よりもなぜか、女性客の比率が圧倒的に高いのです。実際にハロプロのアイドルたちも、北海道のステージ後は毎回このような感想をブログにつづっています。
《北海道では、客席に降りると、いつも黄色い声援を送ってくださいます! 今日は、特にすごかった!!!笑》(モーニング娘。’18 12期オフィシャルブログ「飯窪春菜さん 羽賀朱音」より)
《ステージに立っていても黄色い歓声に負ける!と思うほどのあの熱気、みなさんの喜ばれる姿がとても嬉しかったです。》(アンジュルム 和田彩花オフィシャルブログあや著「北海道」より)
AKB48や乃木坂46など、人気グループが多数存在する現代アイドルシーンの中で、なぜ北海道女子は、ハロー!プロジェクトに熱狂しているのか。その理由を他アイドルの動向とともに探ります。
北海道女子が会いに行きやすいハロプロ
今や同性からの支持も集まることが当たり前になった、女性アイドル。
その活動は多岐にわたり、特にアイドルファンではないという方も、女性アイドルが登場するCMやファッション誌、また関連の芸能ニュースなどを、生活の中で目にする機会は結構多いのではないでしょうか。
しかし、これだけアイドル文化が身近になったように思える今でも、首都圏から離れるほど、メジャーアイドルと人々の距離は遠いままです。
実際に、2018年上半期のオリコンシングルランキングで1位を獲得したAKB48は、北海道でのグループ単独コンサートがここ3年間、開催なし。
続けて2位を獲得している乃木坂46も、北海道での単独コンサートは現時点で2013年に一度行われただけという状況です。
また彼女たちの活動を支えている握手会に関しても、実は上記の2グループを含めた「48グループ」「坂道シリーズ」と呼ばれるプロジェクトで、北海道において定期開催しているのはAKB48(年2回)だけになります。
メディアで報じられるライブや握手会の賑わいとは相対して、憧れながらも会いに行けないという状況が、少なくとも北海道という地域では現在進行形で存在しているのです。
しかしそんなアイドルファン不毛の地でもある北海道で、ハロー!プロジェクトは今や、メジャーアイドル随一の“会いに来てくれるアイドル”になりつつあります。その秘密はライブ回数の多さ。
例えば北海道では各グループが年に1~2回単独ライブを行っている他、冬休みと夏休みの期間には、今回、私が観にいったようなハロー!プロジェクト総出演の合同ライブが、年2回開催されています。
もともとハロー!プロジェクトの所属アイドルは、枠組みが誕生した90年代当時から、ライブ活動(興行)を、“活動の基本”に据えています。
それは00年代前半のブーム時も同じで、当時のモーニング娘。や松浦亜弥さんなどはあれだけのメディア露出をこなしながら、同時に各地でのライブ活動も頻繁に行っていました。
そして20周年を迎えた現在でもその伝統は受け継がれ、ホールツアーはもちろん、ここ数年は若手グループによるライブハウスツアーも頻繁に開催されるようになっています。
ライブハウスのステージを普段の活動に組み込んだことで、ハロプロはホールツアーや握手会で、普段回ることのできないような地方でも、定期的にパフォーマンスを見てもらうことが可能になりました。
昔から生歌での歌唱を基本とし、ステージに強いアイドルを育ててきたハロプロならではの特性。
それがここにきて“会いに行けない”地方の潜在的アイドルファン、特にライトな応援が多かった女性ファンに、良い形で結びつきつつあるといえます。
地方女子にとって、上京のストーリーを重ね合わせやすい存在
『ASAYAN』(テレビ東京系)を見ていた世代の方はよく知っているかもしれませんが、ハロー!プロジェクトの生みの親となったモーニング娘。の1期生は、もともと5人中4人が首都圏以外の出身者でした。
中澤裕子さんは大阪から、石黒彩さん・飯田圭織さん・安倍なつみさんの3人は北海道から上京してアイドルになり、そのストーリーはテレビでも毎週放送されていました。
そして今のハロー!プロジェクトのアイドルたちも、現役で活動する55人のメンバー中25人、実に4割以上が、首都圏以外の地元から上京してきた女の子になります。
彼女たちがアイドルとして地元で行うライブは“凱旋公演”となり、ステージのアイドルはいつも涙ながらに、地元への想いを伝えます。
現在のメジャーアイドルを見てみるとその名前からしても、東京に完全に腰を据えるタイプ(AKB48・乃木坂46など)、もしくは最初から地域密着に向けてしまうタイプ(SKE48・NMB48など)と、それぞれの愛するべきホームが最初からはっきり決まっている傾向にあります。
その中でハロー!プロジェクトの特徴というのは、誕生の経緯的にも「地方から東京に自分の夢を背負って上京してきた」という女性アイドル像を、すでにひとつ確立していることです。
東京で大きな夢を叶えていくだけでなく、地方出身者が東京から全国を回ることによって、何気ない地方のライブも夢の続きの特別なステージになる。
そして現在も地方で暮らす女性たちにしてみれば、東京で頑張っているステージの女の子たちは純粋な憧れであるだけでなく、時には自身が叶えられない夢を託す存在にもなっているかもしれません。
ハロプロの歴史とは「地方の女性たちが東京で頑張ってきた歴史」
先日の「Hello! Project 20th Anniversary!! Hello! Project 2018 SUMMER 〜ALL FOR ONE〜」北海道公演でも、ハロー!プロジェクト誕生20周年の記念企画として北海道出身のモーニング娘。1期メンバー・飯田圭織さん、そして同時期に活動していた2期メンバー・矢口真里さんがOGゲストとして登場。
そして2人は、モーニング娘。時代に歌っていた「たんぽぽ」「恋をしちゃいました!」「ふるさと」の3曲を披露しました。
会場のファンはイントロが流れると、自然と飯田さんと矢口さんが所属していたユニット「タンポポ」をイメージする黄色のサイリウムを点灯し、飯田さんはその光景を「地元札幌というのもあり、涙が出てきそうでした」と後のブログに綴っています。
ハロー!プロジェクトの歴史とは、地方の女性たちが東京で頑張ってきた20年の歴史でもある。東京から遠く離れた北海道での大声援や、出身メンバーにかけられたたくさんの「おかえり」の声は、その確かな証明のようでもありました。
ちなみにハロー!プロジェクトは現在、9月26日に20周年イヤーの記念シングル「YEAH YEAH YEAH/憧れのStress-free/花、闌の時」のリリースを予定しており、同タイミングですでに「全国各地の皆さまに会いに行きます」との告知もされています。
東京では見えにくい、地方に“会いに来てくれるアイドル”。
そんなハロー!プロジェクトのアイドルたちと地方ファン、そして地方女子ファンの大切な時間は、これからもまだまだ続いていきそうです。
乗田綾子(のりた・あやこ)◎フリーライター。1983年生まれ。神奈川県横浜市出身、15歳から北海道に移住。筆名・小娘で、2012年にブログ『小娘のつれづれ』をスタートし、アイドルや音楽を中心に執筆。現在はフリーライターとして著書『SMAPと、とあるファンの物語』(双葉社)を出版している他、雑誌『月刊エンタメ』『EX大衆』『CDジャーナル』などでも執筆。Twitter/ @drifter_2181