第1回 受動喫煙防止のルールをめぐる美しい分煙のあり方とは?
国の受動喫煙対策を強化する『改正健康増進法』の成立を受けて、『週刊女性』7月31日発売号でタバコを取り巻く新たな波を取り上げたところ、大きな反響をいただいた。
そこで、さらに詳しく分煙社会の“いま”を検証する新たなシリーズをスタート。私たちの生活はどう変わっていくのかを徹底検証していく。
国際オリンピック委員会などの要請により、タバコのない五輪に向け6月には東京都が、7月には国がそれぞれ受動喫煙対策を強化する条例と法案を成立。公共の施設など屋内は原則禁煙となるため、非喫煙者からは歓迎の声も。一方で、喫煙するためには専用室を作らねばならず、店内にあまりスペースのない中小の飲食店などからは反対の声が上がっている。
飲食店などで進む分煙パターンとは?
では、いま飲食店ではどのような分煙対策をしているのだろうか。検証してみると、大きく分けて4つの分煙パターンが見られた。
ファミリーレストランなどでよく用いられているのが『エリア分煙』。喫煙席と禁煙席を仕切りや植栽などで分ける方法で、エリアの境目となる席は煙が流れ込みやすいのが難点だ。
コーヒーチェーン店などで増えているのが『個室による分煙』。煙やニオイが非喫煙スペースに流れないため受動喫煙率は最も低いとされている。ほかにはファストフード店などで見られる、階数で喫煙、非喫煙を分ける『フロア分煙』、ランチタイムなど短時間に人が集中する時間のみを禁煙とする『時間分煙』などがある。
「いろんな分煙パターンがありますが、都の条例だと都内の飲食店の85%は禁煙になるとみられています。おそらくこれからは『個室による分煙』が増えていくでしょうね」
と教えてくれたのは、事情に詳しいジャーナリストの須田慎一郎さん。
また、分煙が進む一方で、改正健康増進法の成立を受け、大手チェーンなどは全面禁煙の取り組みも加速。ファミリーレストラン『サイゼリヤ』などは、2019年9月までに約1100店舗全店での全席禁煙とする方針を打ち出した。
「最近は自宅でしかゆっくり吸えないと嘆く愛煙家の方もいらっしゃると思います。特に家族やパートナーがいらっしゃる場合は、家庭の生活空間での分煙環境をどう作るかが問題ですよね。自宅にいるときくらい、吸う側も吸わない側も気持ちよく過ごしたいじゃないですか。
例えば“子どもが寝たら喫煙可”とか、飲食店での例を参考に分煙してみるのもいいと思います」(須田さん)
分煙が進む一方、喫煙可能な店側は、タバコを取り巻く現状をどう見ているのか。
東京・麻布十番にあるバー『Be Spoke』。12坪ほどの店内には9席のカウンターと5名ほどが座れるテーブル席がある。
従業員は雇っていないため都の条例にはあてはまらず、条例施行後も店内での喫煙も可能だ。もちろん、喫煙者のみならず非喫煙者も多数来店。すると客同士でこんな気遣いが行われているそう。
「厨房に強力な換気扇を用意しているくらいで特別に分煙対策はしていないのですが、逆にお客様同士が気を遣われていますね。例えば、煙の方向を気にして吸う方は換気扇の近くの奥の席に、煙が嫌な方は煙が来ない席を選んで座っていただいたりと、お客様が工夫してくれています」
と話してくれたオーナーの設樂誠さん(42)。吸う側と吸わない側の譲り合いにより、心地よく時間を過ごせると評判で、オープンから10年、煙をめぐるトラブルなどは1度もないという。
シガーバーも兼ねているため、飲食店での禁煙の動きには、やはり否定的だ。
「正直なところ、あまり歓迎はできませんね(笑)。お酒とタバコのマリアージュを楽しむお店ですので。店内でタバコを吸うのが完全にダメとなったら、圧倒的に売り上げは落ちると思いますし、お店の経営も難しくなる懸念があります」
周囲の飲食店も相次いで禁煙に。喫煙者の駆け込み寺のような存在にもなっている。
「ここ麻布十番では食事ができるお店は、ほぼ禁煙になってきているんです。バーは一服しにきているお客様も多いので、そこを取り上げないでほしいです」
吸わない人が納得することが大切
喫煙者と非喫煙者。分煙が進むいま、どこで折り合いをつけるべきなのか?
「新しい分煙社会では、吸わない人が納得することが大切です」
と、須田さんは提案。
「東京だけではなく、千葉市など自治体によっては受動喫煙防止に関する条例を制定する動きが見られるため、都市部では吸う側の意識が高くなってきています。しかし、地方や特に60代以上の高齢者は、子どものときから当たり前に喫煙環境があったわけですから、この分煙の流れについていけてない人も多いんです。まだそのあたりの意識が低いため、どう変えていくかが問題だと言えます」
日本たばこ産業(JT)が発表した2018年『全国たばこ喫煙率調査』によると、喫煙率は2017年の調査に比べ、男性で0・4%減(20万人減)、女性で0・3%減(17万人減)となり、推計で1880万人(男性1406万人、女性474万人)という結果に。
全体では減少傾向だが、20代、30代、60代の男性で喫煙率が横ばいもしくは上昇している。JTは今回の調査から、加熱式タバコも対象にするという文言を入れたのも一因と言えるだろう。
「JTが飲食店の喫煙・非喫煙エリアを想定した『加熱式たばこ使用時の粉じん濃度調査』を実施したところ、非喫煙エリアで加熱式タバコを使用した場合、タバコ不使用時と粉じん濃度がほぼ変わらないという結果が出ました。
加熱式タバコは火を使わず、紙巻きタバコと比べて煙やニオイがほとんどないことから、若者を中心にユーザーが急増しています。愛煙家の方は、TPOに合わせて使い分けるのもいいのではないでしょうか」(須田さん)
新たな製品が生まれ、それをどう位置づけていくのかはこれからの課題のひとつ。
吸う人と吸わない人がマナーを守って暮らせば、分煙を取り巻く流れは、さらに心地よいものになってゆくのかもしれないーー。
(取材・文/加藤麻江)
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