主要駅は人々でごった返す可能性大

 東京五輪の開催期間、都心の主要駅はパンク寸前! 大混乱から逃れる方法とは? 訪日外国人の数は過去最高を更新、さらに五輪開催ともなれば、国内外から観戦客が集中するのは必至。はたして東京の交通網は耐えられるのかーー?

観客の移動と通勤ラッシュがブッキング

 警察が規制できる道路とは異なり、より多くの観光客が利用する電車は歯止めがきかない。市民の通勤・移動にも広く影響を及ぼす可能性がある。

「首都圏の電車ネットワークの利用者数は通常時で1日平均800万人。最も競技が多い日の観客は約70万人と予測されていますから、乗客が1割弱増えることになります」

 そう話し、衝撃的なデータを明かすのは、中央大学の田口東教授。数理モデルを使って実社会の課題を計算する交通工学の専門家だ。田口教授らは、五輪開催時の鉄道の混雑状況を推計する広域シミュレーターを開発、公開している。

「現在、想定されている競技スケジュールを見ると、約15の会場で開始時刻が朝8時30分~10時となっている日もあります。その中には定員8万人を誇る新国立競技場(オリンピックスタジアム)も。つまり、通勤ラッシュ時に多くの観光客が重なる。朝6時から9時台で乗車率200%を超える電車が、現状の50%ほど増加する計算になります

 たとえ1割弱の乗客増であっても、田口教授は「甘く見てはいけない」と釘を刺す。

 オリンピック・パラリンピック観戦客の輸送については、JRが60%、東京メトロが10%を担う。そこで問題視されるのが、通勤客も観戦客も乗り換えに利用する主要駅。特に、新宿駅、東京駅、永田町駅などは注意が必要だという。

「競技場に近い大きな駅、特に多くの競技場が集うベイエリアに向かう永田町駅を含む有楽町線は、大混雑が予想されます。地下鉄のホームで、五輪観戦客を含めた多数の観光客が右往左往する状況ともなれば、ホームは大混乱に陥ります。単に人が増えるのではなく、勝手がわからない人が増えるということを忘れてはいけません」

 入場規制が必要な事態になれば、観光客、通勤・移動客、双方に大きな痛手となってしまう。この状況を回避するには、

「観戦客の増加に伴う混雑は、乗り換え駅など主要駅で生じるもの、競技場の最寄り駅で生じるものと2つのパターンがあります。それぞれの対策を講じなければいけません」

 と田口教授は強調する。では、何をどうすればいいのか? 前者について田口教授は、

「通常客の通勤時間をスライドさせるなど大胆な対応が必要でしょう。朝の通勤ラッシュそのものを緩和させるしかない」

 と話し、さらにこんな提案をする。

「在宅や職場以外の場所で勤務可能な『テレワーク』などが増加しています。それをいかして、出勤時間をスライドさせるのではなく、出勤そのものをなくすような取り組みを行うべきでしょう。働き方改革を促進させる意味でも、こういった機会を前向きにとらえてほしい」

 田口教授によれば、時差出勤や休日の振り替え、テレワークなどで、通勤客を2~3割減らすと主要駅での大混雑は防げる計算になるという。

 その効果は五輪期間だけにとどまらない。

「首都圏では1日平均800万人が満員電車に揺られています。そのうち半分、400万人がテレワークを行うことができたら、人々はもっとストレスなく働けるのではないでしょうか。在宅勤務で通勤に必要なくなった時間を、自分の趣味などにあてる。もし400万人が1日に500〜1000円使えば、さまざまな場所で20億から40億円のお金が回ることになります

 単に混雑を緩和させるのではなく、五輪をきっかけに「過酷な働き方をやわらげる政策を行ってほしい」と田口教授は言う。

最寄り駅、近隣駅からの道のりに工夫を

 一方、後者の場合、最寄り駅からのアクセス分散がポイントになる。

「例えば、新国立競技場の最寄り駅は千駄ヶ谷駅ですが、国立競技場駅、北参道駅、信濃町駅からも徒歩約10分以内でアクセスが可能。少し遠くなりますが新宿駅も。最寄り駅に一極集中させるのではなく、近隣駅に集客を分散させることで、会場周辺の混雑を防ぐしかない

 とはいえ、炎天下に歩き続けると体力の消耗は避けられず高齢者や子どもにとっては大きな打撃。最寄り駅を利用したい人も少なくないはず。

新国立競技場までの道順にどういった仕掛けができるかが重要です。例えば、新宿駅からは徒歩30分ほどかかりますが、道すがら五輪関連のイベントを行い、限定グッズなどを売るお店が数多く並んでいたらどうでしょう? 

 さらには、新宿御苑を開放、園内にゲートを設けてその入場口で荷物チェックをすますことができれば、最寄り駅を使わず、新宿から徒歩での移動を選ぶ人は増えると考えます」

 大混雑のなか、会場口で荷物チェックのため立ち往生するより、五輪に沸く街中で観光をしながら、比較的すいている場所で荷物チェックをすませ会場に入る……。歩いたほうが五輪気分を満喫できるうえ、混雑緩和になりお金まで落ちる。そんなことがアイデア次第で可能だ。

「混雑を逆手にとって、東京や日本のPRをできるよう工夫すればいい。国内外から多くの観光客が訪れるのですから、単なる遠回りではなく、会場までの道順にいろいろな日本の表情を知ってもらい、観光客が行きたくなるような機会をつくる。そういった柔軟な発想があってもいいのでは?」

 五輪開催まで2年、されど2年。膨らみ続ける予算をセーブするためにも残された時間のなかでいかに知恵を絞り汗をかくかが試されている。


〈識者PROFILE〉
田口東さん
中央大学理工学部情報工学科教授。工学博士。数理モデルを使って実社会の課題を計算する専門家として、通勤電車の遅延計算モデルなどを構築。首都圏交通ネットワークのスペシャリストとして現在、多方面で活躍中