「現場検証で警察が凶器のナイフを探しているとき、逮捕された男はニヤニヤと笑いながら、アパートの前に座ってその様子を見ていました。連行時は周辺のヤジ馬をずっとにらみつけていました。いずれは帰ってくるって考えると怖いです」
事件現場近くの女性住民は、声を震わせながらそう話す。
当時少年Cだった男の素顔
連行された男は、埼玉県川口市東内野在住の無職・湊伸治容疑者(45)。逮捕容疑は殺人未遂。8月19日の夕方、自宅アパートの駐車場で事件は起きた。
「駐車場に関するトラブルから口論になり、犯人が自家用車から警棒とナイフを取り出し、32歳男性の右肩を殴ったうえ首を折りたたみ式ナイフで刺しました。警棒は金属製で3段式のもの。ナイフは刃渡り8センチ、全長19センチのもの」
と捜査関係者。男が争う声に驚いたという近隣男性が、そのときの状況を伝える。
「網戸にしていたら、すごい声が聞こえてきたんです。“てめぇこのやろう”って。そのうちボンボンと車を叩く音が聞こえてきて、気になったので外に出ました。
そうしたら男が被害男性に馬乗りになって、殴り合っていました。2人とも地べたに寝そべってもみ合っている感じで、何を言っているのかわかりませんが、逮捕された男が一方的に怒鳴っている感じでした」
首を切りつけられた被害者は、一緒にいた知人に止血されながら110番通報した。
逮捕された湊容疑者の来歴がほどなく明らかになると、周辺住民に戦慄が走った。
今から約30年前、東京都足立区で起きた『女子高生コンクリート詰め殺人事件』。
1988年11月、アルバイト帰りの女子高校生(当時17歳)を4人の少年が誘拐し、監禁。40日以上にわたり暴力と陵辱の限りを尽くし、死に至らしめた事件。
少年らは少女を輪姦し、殴る蹴るなど凄惨なリンチ、さらに少女の手足などにライター用オイルをかけて焼くといった行為を日常的に繰り返した。ついに少女は「殺して、殺してよ!」と、泣き叫んだというが、彼らはその姿を見て笑い転げていたという。
暴行により少女の顔は腫れあがり、食事も与えられない日が続いた。死の直前は自力で歩くこともできず、監禁されていた家の2階から1階のトイレに行くにも数十分かけて這って下りるほどだった。
「少年たちは少女に回し蹴りをしたり、遺体の処理方法をふざけて話し合いながらなぶり殺し、遺体をドラム缶にコンクリ詰めにして遺棄したんです」(全国紙社会部記者)
コンクリートの中にあった少女の遺体の体重は10キロ近くやせ細り、全身に殴打やヤケドの痕、顔面は変形陥没していたため指紋から少女と特定するしかなかった。
裁判の判決は「被害者の身体的および精神的苦痛・苦悶、ならびに被告らへの恨みの深さはいかばかりのものであったか。まことにこれを表現する言葉さえないくらいである」と断じた。
その犯行グループのひとり、当時16歳だった少年Cが湊容疑者だった。
湊容疑者は当時、弁護士との接見の中で「殴っている最中、なぜ殴っているのか自分でもわからなくなる。暴力が止められない」と、その凶暴性を明かしており、心理鑑定では「他者に対する想像力が欠如しており苦痛や幸福といったものへの配慮が非常に乏しい」と指摘されていた。
1991年7月、少年Cに下された刑は、懲役5年以上9年以下の不定期刑だった。
いつ出所し、その後どこでどう暮らしてきたのかはつまびらかになっていないが、出所後の一時期、ムエタイジムに所属し、プロとしてタイレストランのムエタイショーに出演していたことがあったという。当時を知るジムのスタッフが明かす。
「'97年ごろから2年くらい、本名で所属していましたね。プロとして2、3戦したと思いますが、試合のセンスはなかった。ジムの生徒が“コンクリ事件の犯人じゃないか”と噂するようになりフェードアウトしていきました」
そんな湊容疑者が事件現場のアパートに引っ越してきたのは今年6月のことだった。結婚予定だという同年代の女性も不動産会社の契約の席に同席していたという。無職なのに「自営業」と伝えていた。
まるで理性を知らない野獣
近隣トラブルは入居後すぐに始まった。
近くに住む20代の男性は、
「見た目は普通のおっさんです。夕方になると毎日、自分の車の前に立っていました。通行人をにらみつけて、車の周りをちょろちょろ歩いてまた車の前に戻る。そのうちに“キョエーッ”とか奇声をあげはじめたので、クスリでもやっているんじゃないかなと思って、近寄らないようにしていました」
事件現場を散歩コースにしているという男性は、
「アパート住人が、加害者の車の横で車をUターンさせようとして、“てめえ何してるんだよ、この野郎”って、突然、理不尽に恫喝された」
と話す。別の近隣住民は、
「知り合いは、駐車場のバイクを蹴り飛ばして倒したところを見たそうです」
と証言。近隣主婦は、
「私の知り合いが車で駐車場にきたときに、“ライター貸してくれ”って車に寄ってきたそうです。“持ってない”と伝えると、チッと舌打ちされて“使えねぇな”と罵られた」
と明かす。
理不尽極まりないケンカのふっかけかたや、そのキレっぷりは何も変わっていなかった。それは理性を知らない獣性といっていい。
おまけに真夜中に床を蹴りつけるような音を立てたり、怒鳴り声が隣近所に響くこともたびたびあったという。
あまりの騒音にストレスを感じ、湊容疑者に苦情を訴えたという人物に、そのときの会話の様子を聞いた。
「私が訴えても謝罪などは一切なかった。それどころか、キョロキョロとして目が泳いでいるというか、何かこちらが言っても、“大丈夫、大丈夫”って繰り返すばかり。こっちの質問には答えず、“君、何年くらい住んでんの”とか“公園はどこだ?”とか会話が成り立たないんです」
早朝の散歩中に嫌な思いをした、という女性がいる。
「私のほうを見るので、ちらっと見たりするじゃないですか。そうしたら、ガンを飛ばすようにこっちをにらみつけ、目をそらしても、目をそらさないでずっと見ているんです」
そして、こんな驚かせ方もするんです、と続ける。
「すれ違いざまに、大きな咳ばらいをするんです。駐車場から家に入るまでずっと見張られて、わざと咳ばらいをされた人もいます」
そのおぞましい過去は逮捕されるまで知らされていなかったが、隣近所には怪しい人物として恐れられていた。
「警察から戻ってくることに不安はあります。今、近所では“犯人が帰ってきたらすぐ教えてね”と声をかけ合って注意しています」(近隣住民)
コンクリート詰め事件の犯行グループ4人のうち、主犯格の元少年Aは2013年に振り込め詐欺で、少年Bは'04年、逮捕監禁及び傷害致死の疑いでそれぞれ逮捕されている。