JR一ノ関駅から徒歩約10分、殺された及川ヨシコさん(80)の自宅敷地内にあるアパートに男が入居したのは2014年8月のことだった。
ところが、2か月後の10月に男は窃盗罪で収監された。
出所は'16年6月。収監中ということもあり家賃を滞納し続けていた男は、そのことに対する詫びは一切なく、ヨシコさんに、誤字脱字だらけのラブレターを送りつけていた。
獄中から届く変態ラブレター
その内容が、ド変態級のしろもの。
品位のかけらもなく、矢で貫いたハートマークを乱発する幼稚さ……例えばこんな感じだ(※以下、編集部で補足したカッコ内を除き原文ママ)。
《いつだてどんなに遠くはなれていても決してヨシコのことは忘れないよ ヨシコのこと大好きになってしまったから今更らあきらめるなんて決して出来ないことだよ》
このあたりはまだおとなしいのだが、やがて文面はエスカレートし、
《ヨシコの心ろを性感体(帯)マッサージでほぐしてあげたいしね すごくヨシコのこと愛しているからいしょになったらきっと優しく性感体マッサージをしてあげるよ》
《ヨシコのことをだいてやりたいから ほしいからヨシコのことが 優しくだいてやりたいヨシコのことを(中略)必らず帰たらヨシコの性感マッサージしてあげるよ ね ヨシコ忘れないでね クンニング(クンニリングス)もしてあげるよ》
と変態性をはらみ、さらに、
《ヨシコの一番大事な所ろもマッサージやクンニングをしてやりたいしね》《心から愛しているから 好きだからSEXがしたいよヨシコと》
という“獄中妄想記”。
計2通の手紙では、やたら『クンニング』を連発している。さすがに気が引けたのか『SEX』の文字は雑に横線を引いて消してあるが、読めるのだから消した意味がない。
そして事件は起きてしまった
男は'16年6月に出所したものの、同年9月にはまたしても窃盗の疑いで岩手県警一関署に逮捕された。それなのに、いつまでもアパートの退去手続きをとらないため、及川さんは家賃の支払いなどを求める訴訟を同年10月に盛岡地裁一関支所に提訴。その裁判に、手紙は証拠として提出された。
逮捕され、収監されても、いずれ出所する。その時期に及川さんが怯えていたことを、及川さんの同級生の女性の息子(50代)が聞いていた。
「今年の6月ごろ“もうすぐ刑務所から出てくるから”と心配していましたね。警察にも相談に行って、見回りをしてもらったり、防犯カメラをつけたりしていたのに……」
及川さんの嫌な予感は的中し、事件は起きてしまった。
捜査関係者が概要を伝える。
「及川ヨシコさんの知人から、及川さんと連絡がとれないと署に連絡がありました。一関署の警察官が訪問したところ、8月20日午前11時50分ごろ、遺体を発見しました。
自宅2階の寝室で布団の上に横になり、布団がかぶせられていました。首や胸などに10数か所の刺し傷があり、腕などにも防御創が認められた」
県警捜査本部は8月25日、殺人の疑いで無職・佐藤仁一容疑者(74)を逮捕した。その容疑者こそが、冒頭の変態ラブレターを送りつけていた張本人だ。
佐藤容疑者は8月15~16日、殺意を持って及川さんの頸部、胸腹部などを鋭利な刃物で執拗に突き刺し、失血により死亡させて殺害した。凶器は見つかっておらず(9月1日現在)、容疑についても否認しているという。
今年8月から佐藤容疑者は、及川さん宅から徒歩2分、直線距離で約150メートルになる別のアパートで生活をはじめた。及川さんが殺された直後、平然と地区の区長のところにあいさつに来たという。
「“今度こちらに越してきましたのでよろしくお願いします”ということでした。服装もキチッとしていたし、疑うところは特になかったですね」
区長を務める70代男性は振り返る。ただ……と付け加える。
「部屋に上がったとき、キョロキョロと周囲を見渡して、落ち着きのない人だなとは思いました。やっぱりおかしい人だったっちゃね」
出所後も不審な行動を
地区の区長宅以外でも、佐藤容疑者が周囲をぶらつく姿が見られていた。カラオケ喫茶の男性店主(69)は、
「自転車でウロウロしているのを見たよ。最近は、麻生財務相がかぶるようなツバの広い帽子をかぶっていたけど、周囲をキョロキョロ見回して、挙動不審だった」
'14年10月に、自らが経営するスナックで佐藤容疑者に現金を盗まれたという被害女性も、出所後の佐藤容疑者を目撃したという。
「私がたまたま昼間にお店に用があって行ったのよ。そうしたら、佐藤が私の店の前で鍵穴をじっと見つめているの。私に気づいたらサッサと行っちゃってね。また盗みに入ろうと考えていたのよ、きっと」
どこまでも懲りない男だが、及川さんも被害に遭っていた。
「今年7月に刑務所から出所してきた佐藤容疑者は、及川さんが経営するアパートに侵入し、警察に通報されていたようだ」(全国紙社会部記者)
刑務所から差し出した変態ラブレターに綴った思いが届かず、74歳の佐藤容疑者は80歳の及川ヨシコさんへの憎しみを募らせたのか。手紙にはこんな一節もあった。
《ヨシコに本当に捨てられたら死ぬしかないよ(中略)ヨシコの所にしか帰る所がないもん どこにも行く所がないもん ヨシコのことが好きだ大好きだから》
こんな品性下劣な手紙で口説かれる女性などまずいないだろう。
関係者によると、及川さんは「はっきりモノをいう人」「気性が激しくお金にはきちっとした人」と周囲の目には映っていた。
及川さんと付き合いのあった生け花の先生をしていた知人女性(70代)は、
「明るく話をする人でね、暗い部分をあんまり見せないの。お話も上手で、みんなを楽しい方向に持っていく人でした。お花の先生をやりながら、以前は飲み屋をやられていたから、お話も上手だったんだと思います」
そんな及川さんに恋をした佐藤容疑者は、とにかく金がなかったようだ。
周囲の飲食店に顔は出すものの、世間話を続けるばかりでいっこうに注文はしない。店主が気の毒に思ってサービスでコーヒーを出すと、行為に甘えて来店を繰り返し「もう来なくていい」と言われる始末。金には不自由していたとみられる。
捜査関係者によれば、及川さん宅の玄関は施錠されており、窓から佐藤容疑者は侵入したとみられる。
刃物を持ち、一方的に思いを募らせた女性の寝室に侵入した古希の男は犯行直前に何を思ったのか……。