【連載・地下3回】地下芸人数珠繋ぎ。第三回目のゲストは、子供から大人気? の虫食い芸人・佐々木孫悟空さんです。皆さん、初めに伝えておきますが、かなりスゴいです! だって虫を食べるんですから。しかも生で。想像を絶する世界に皆さん耐えられるでしょうか? とにかくスゴい! でも、お見せ出来ない部分は、オブラート(モザイク)に包みますので、ご安心ください。芸歴27年目の地下芸人界のムツゴロウならぬ、ムシゴロウ! とくとご覧あれ!

<佐々木孫悟空さんの地下スペック>

・芸歴27年
・年収:5万円~500万円
・夢:方南町に遊園地とお城を作ること
・座右の銘:別れた女はみな恋人
・ライバル:即席コンビの相方である、よしえつねお

待ち合わせ場所は聖蹟桜ヶ丘

 8月某日。待ち合わせは、京王線・聖蹟桜ヶ丘駅改札前。

 佐々木孫悟空さんは取材を申し込むと快諾してくれた。そして、集合場所と時間だけ伝えられて取材日を待つ。

 はたして当日、先方に会えるのかなと多少の不安があったが、その必要はいっさいなかった。

――あれ、虫食い芸人、佐々木孫悟空さんですよね?

佐々木「あっ、そうです。よくわかりましたね!?」

――わかりやす過ぎですよ! この格好で来たんですか?

佐々木「もちろん。戦いはもう始まっていますから」

――戦いって(笑)。で、今日はどこで虫を食べてくれるんですか?

佐々木「食べる前に採るんです! 採ってその場で食うんですよ!!」

――そ、その場で食べる!?

佐々木「それが、虫の一番美味しい食し方なんです!」

ーー決めポーズありがとうございます……。とりあえずここだと目立つので、さっそく移動したいんですが、どちらに行きましょうか?

佐々木「多摩川です」

――な、なるほど……。

佐々木「虫の聖地、多摩川です」

――わっ、わかりました。多摩川ですね、行きましょう!

戦場へ

 猛暑から少し解放され、秋の気配が感じられたこの日、記者も含むアラフォーおじさんたちは、夏休みの自由研究に出かけるがごとく多摩川に向かうことになった。

 そこで、歩きながら佐々木さんにいろいろ聞いてみた。

――佐々木さんが虫に目覚めたのはいつなんですか?

佐々木「小学校二年生の時ですね。いじめっ子にアブラゼミを食べさせられて……」

――それは、ひどい。相当、まずかったんじゃ。

佐々木「それが、美味しかったんですよ。こんなにウマいものがこの世にあるのかって」

――美味しかったんですか!? それは、いじめた相手も拍子抜けしたのでは?

佐々木「ええ、恐れられましたよ。逆に人気者になりましたね。その日からアダ名が“虫王”ですよ」

――虫に詳しいから、虫博士とかはありますが、まさか虫を食うから虫王とは。

佐々木「変人扱いされるんですが、自分ではグルメだと思っているので」

――グルメ……、ですか。ちっ、ちなみに今まで食べた中で一番美味しかったものってありますか?

佐々木「やっぱり、星乃珈琲のホットケーキですね」

――グルメですね………。

佐々木「あんなに美味しいものはないですよ」

――サソリとか、ゴキブリとか出てくると思ったんですが。

佐々木「ホットケーキじゃダメですか?」

――すっ、すみません。目力がすごいですね!

 他愛もない会話をすること10分、ようやく本日の「戦場」である多摩川河川敷に到着した。到着するや否や、佐々木さんが姿を消した。

――あれっ、佐々木さん? 佐々木さ~ん??

佐々木「お待たせしました!」

――こっ、この格好は?

佐々木「孫悟空をイメージしています。戦うときはいつもこの格好なんです」

――そうなんですね。最初の格好が衣装じゃないんですね。たしかに、この格好で待ち合わせじゃなくてよかったです……。でも、いよいよって感じがします。

佐々木「さぁ、虫狩りの始まりだ! 虫はタンパク質、ミネラル、ビタミンなど栄養の宝庫です!」

--栄養足りてます……?

放たれたアラフォーおじさんたち

 というわけで、昆虫採取が始まった。

 ここから30分ほど捕獲作業に専念し、採った昆虫をその場で食べるというわけだ。

 途中、お見せできない部分は、しっかりとオブラート(モザイク処理)に包みますのでご安心を!

――なんかハンターの眼になってきましたね。

佐々木「……」

――今日はどんな虫を?

佐々木「……」

――ちなみにどのようにして食べるんですか?

佐々木「黙ってついてきなさい」

ーーはっ、はい。多摩川に『極悪』(*衣装にプリントされている文言)か……。

 このあと、昆虫採取に専念した佐々木孫悟空さん。多摩川を縦横無尽に駆け回る姿はサバンナのライオンを彷彿とさせた。それは、少し大げさかな………。

 大人になってここまで真剣に虫と向き合えるなんてなかなかない。

 おや、何かを捕まえたようです。

佐々木隙あり!!!!!!!!!!

--なんだろうな、このミスマッチな風景。もしかして、衣装間違えたのかな……。

捕獲した虫を確認している

――どうですか? 収穫は?

佐々木「まずまずですね」

――今、どんな虫を?

佐々木「バッタとかトンボとか、キリギリス、あとはセミとかですかね」

ーーなかなか採れていますね!

――ちなみに隣の方も捕獲したんですか?

佐々木「そんなわけないでしょ! あ、紹介しましょう、本日のアシスタントの桂君です!」

――今、紹介? そういえば、途中からひとり多いなとは思っていたのですが……。

佐々木「彼には今日、食事の時にもアシスタントしてもらいますので」

――食事って……(笑)。

佐々木「では、桂さんもよろしくお願いします! ではそろそろ食べてみましょうかね」

佐々木「これがセミ、生で食べるのが一番おいしいんですよ」

ーーミーンミーン鳴いていますね。ていうか、泣いているんでしょうか。しかし、佐々木さん、獣の顔ですね……。

佐々木「これは、ショウリョウバッタ。日本で一番大きなバッタですよ」

ーーしかし、バッタより歯の方が気になっちゃって。すみません。

佐々木「これがトノサマバッタ。河川敷に多くます。天敵はスズメバチやカマキリです」

――完全に顔が稲川淳二さんですね。

佐々木「よく、言われます」

――あっ、聞こえていましたか、すみません。

多摩川で調理

――では、これをどうやって食べるんですか?

佐々木「まずは、素揚げしましょうか?」

――ダイレクトに?

佐々木「素揚げが皆さんも抵抗なく食べられるかなと思いまして……」

――えっ? 食べるんですか? 僕らも??

佐々木「嫌なんですか??」

――いっ、いや、もちろん食べますよ……。あれっ、さっきの衣装? デジャブ?

佐々木「じゃあ、揚げますね」

 怖気づく筆者やカメラマンを尻目に、手際よく調理する佐々木孫悟空さん。昆虫は生、素揚げ、天ぷらの三種類で楽しむという。

――意外に見た目は、悪くないですね。なんか、甘えびみたい。

佐々木「これがね〜、カリカリしていて美味しいんですよ」

佐々木「これが、天ぷら!」

――これも野菜のかき揚げみたいですね。

佐々木「隠し味は塩ですよ〜」

そして実食へ

――また、悪い顔になってきましたよ!!

佐々木では、いただきます!

※刺激が強すぎるため、モザイク加工を施しました

――食べてますね……。というか、口の中にいる。

佐々木「美味しい、美味しい。あ、記者さんもどうぞ!」

――は、はい。(食べると)あっ、カリカリしていて美味しい! 甘いですね。ホント、甘エビみたいですね。

佐々木「セミもうまいですよ!」

佐々木「セミはね、生が一番なんですが、とりあえずは素揚げのもので。

 ちなみにミーンミーン鳴くのはオスだけなんですよ。オスは鳴くために胸の部分にある発音器官が発達していて、そこから音を出しているんですよ。それで、メスをおびき寄せているんです。

 セミは成虫になってからの命は、1〜2週間ですから短命というイメージがありますが、幼虫のときは3年から17年も生きているんですよ。短命どころか昆虫の中では長生きなんですよ、実はね」

――食べながらよくそんなこと言いますね。見えてくる絵づらがスゴすぎて、全然知識が入ってこない……。しかし、スゴい!

 この後、カメラマン(大の虫嫌い)さんも、食べることになり、大騒ぎの一幕がありましたが、河川敷での実食も無事に終わった。

 最後、帰り際にふと公園に立ち寄った一行。

 しかし、この後、衝撃の瞬間を見ることになる……!

刮目!!!!!

 ん?

 
佐々木何度も言いますが、やはり、セミは生が一番うまいんですよ

――ミーンミーン言ってますね………。

佐々木「オスですね」

――冷静ですね…………。しかし、スゴい。セミを生で食べるとは……。

 このあとバッタも生で完食。佐々木孫悟空さん、本当にスゴいです!!

――ちなみに今まで、食あたりとか内臓に異常が見つかったとか、健康面で影響はなかったんですか??

佐々木「まったくなし。いたって健康です」

――食べられないものはないんですか?

佐々木「かに、えびはダメなんですよ。泡を吹いて倒れたことがありまして」

――甲殻類のアレルギーなんですね。無敵だと思っていたので、なんか親近感がわきました。

※刺激が強すぎるため、モザイク加工を施しました
※刺激が強すぎるため、モザイク加工を施しました
 
佐々木満腹満腹!

 実は、長州力のものまねで人気を浴びた、長州小力さんが所属する「西口プロレス」の創始者でもある佐々木孫悟空さん。

 ご覧のように虫をたらふく食べたあとは、公園のアスレチックのネットをハンモックに見立てて小休止。その姿が、蜘蛛の巣にかかった稲川淳二に見えてしまい、つい条件反射で捕まえてしまった。

 
 この日、公園で佐々木さんの虫の実食を見ていた親子がいた。興味津々に近寄ってきているように感じた筆者が振り返ると、一目散に公園から逃げ去っていたのだった……。

 *お断りしておきますが、昆虫食という文化は日本にもまだあり、アフリカやアジアなどでも日常的に食べられています。

<ライター・新津勇樹> ◎元吉本新喜劇所属。芸人、役者時代の人脈を活かし、体当たり取材をモットーに既成概念にとらわれない、新しいジャーナリスト像を目指して日々飛び回る。