「若いころは50歳で引退するってずっと思ってた。そこから先は、のんびり暮らすぞって。いかんせん、20代、30代がものすごく忙しかったから。いざ50歳になったら、引退なんてとんでもない。まだまだじゃないって(笑)。55歳を過ぎたときに、“この職業って、引退がない”ってことに気づいた。ふっと先輩方を見上げたら、誰も引退されてないじゃんって」
7月11日に56歳のバースデーを迎えた藤井フミヤ。誕生日のちょうど1週間後に、チェッカーズとしてデビュー35周年、ソロデビュー25周年を記念したアルバム『FUMIYA FUJII ANNIVERSARY BEST“25/35”』(L盤・R盤)をリリースした。25年のソロ活動の中で生まれた277曲の中からファン投票によって選ばれた100曲をほぼ発売順に収録している。
「ファンのみんなは(投票できる10曲を選ぶことが)結構、大変だったみたい。“あの曲は、誰かが票を入れてくれるだろう”とか、いろいろな葛藤がありつつ、曲を選ぶために棚から歴代のCDを取り出して聴くとか、当時を思い出すとか、そういう作業がそれぞれの家で、部屋で行われたことが、今回のベストを出したいちばん大きな意義になったと思います」
スペシャルサイトには、100位までの曲の順位が発表されている。ファンならずとも多くの人が知る藤井フミヤの代表曲『TRUE LOVE』は8位、『Another Orion』は10位と意外ともとれる結果に。また、トップ10に入っているファン選りすぐりの曲に触れると、藤井フミヤ=デビュー当時から変わらないキーの高さと、その歌唱力をいかしたバラードのイメージを持つ人は驚くはずだ。
「これまでアルバムを聴いたことがなかった人がこの順位を見たら、知らない曲ばっかりで逆に聴いてみたいと思うよね。それが、今回のプロモーションの目的のひとつ(笑)。聴いてもらったら、バラードの人じゃないとわかる」
1位に輝いた『ALIVE』(’97年発売のアルバム『PURE RED』に収録)は、ともにチェッカーズとしてデビューし、現在はフミヤとの音楽ユニット・F-BLOODや元チェッカーズのメンバーと組んだバンド・アブラーズで活動する弟、尚之のために書いた曲だと言う。
「尚之にちょっと落ち込むことがあって、そのときに書いた曲。頑張れって思いを込めて。でも、そのことを尚之は知らないし、彼のために歌ったこともない(笑)。
曲には大きさっていうのがあって、この曲は、ライブの途中でちょっとやる感じじゃなくて、コンサートの最後とか、アンコールの1曲目とかラストとか、そういうポジションにいるから目立つんだと思う。必ず、みんなで大合唱になる応援歌だから」
振り返ることってあまりない
実は、弟のために書いたというこの曲のエピソードを思い出させてくれたのは夫人だったそう。
「“忘れたの?”って言われて、そういえば、そうかもって(笑)。かみさんのほうが、よく覚えてる」
その夫人について語った、笑福亭鶴瓶がホストを務める『チマタの噺』(テレビ東京)に出演した際のトークが話題になった。
「うちのかみさんは、チェッカーズを組む前のバンドのころから(自分を)知っているわけ。コンテストで勝ち抜いて全国大会に行ってデビューを勝ち取ったときも、チェッカーズという名前でデビューするときも知ってる。ずっと“オレは運がよかったんだな”と思ってたけど、“いや待てよ。ひょっとして運がいいのは、オレじゃなくて……”と話をしたら、鶴瓶師匠もそうなの。
師匠も、笑福亭になる前の学生のころからお付き合いをしていて、“それ、オレも思ったことあんねん”って(笑)。
これには後日談があって、番組を見ながら奥さんが旦那さんの肩を叩いて“ほら”って言ってる夫婦が何組かいたって(笑)。奥さんがそう言える夫婦は円満だねって話。うちのかみさんは、どうなんだろう? “私がラッキーだから”とかは思ってないかも」
夫人と同じように、どんなときも藤井フミヤの隣に寄り添ってきたのは“歌”だ。「過去を振り返るのは得意ではない」と語ったこともあったが、改めて、デビューからを思い起こしてもらうと、
「この25年とか、35年を振り返ることって、あまりないし、記憶がない(笑)。ほとんど忘れてる。特にチェッカーズのころの10年なんて、メンバーと会って話をすると“えっ、そんなことあった?”って(笑)。忙しすぎたっていうのもあると思う。
意外とうれしかったこととかって忘れるよね。いや、さすがに子どもが生まれたときのこととかは、覚えてるよ。なんとなく楽しかったことは、ことごとく忘れていく。嫌なことは思い出すけどね。でも、現状がよければ、悪いことも勉強になったというか、糧になったと思う。もし、現状が悪かったら、恨むこともあるだろうけど。すべては今のためにあったんだと思う」
ソロになった時点でなにをしてもよかった
ロックバンドとして世に出るはずが、アイドルとしてデビュー。本人いわく「チェックの衣装が女の子の人気に火をつけた」と、想像以上の歓声を浴びたチェッカーズでの10年を経て、ソロに。
「不思議と不安なんてなかった。すがすがしい気持ち。バンドが解散するって大変なのよ。2人組でも話をまとめるのが大変なのに、7人もいたからね。
ソロになった時点で、ゼロだった。レコード会社もない、所属するプロダクションもない。オレ何屋さんになってもよかったの。ただ、歌を歌うんだろうなという気持ちはあったけど」
本格的なソロ活動をスタートさせた1曲目が、『TRUE LOVE』。石田ひかり、筒井道隆、木村拓哉、鈴木杏樹、西島秀俊らが出演し大ヒットしたドラマ『あすなろ白書』の主題歌だ。
「ありがたい、ラッキーな曲。ソロ1曲目で代表曲ができちゃった。いまオレが死んでもワイドショーで『涙のリクエスト』は流れない、『TRUE LOVE』だよね。一生、歌っていく曲だと思う。一時は、歌いすぎて封印しようかと思ったくらいだけど、今はもう、国民が歌える曲にしてやれって(笑)。『TRUE LOVE』の『上を向いて歩こう』(にしていこう)計画っていうのが俺の中にあるんだよね」
すでに国民的ソングになっているともいえる名曲を生み出した藤井フミヤに聞いた、歌うこととは?
「歌がなくても、生活していける。衣食住があったうえにプラスされるものだから。でも、歌ってすごいパワーを持っている。恋をしているときも、失恋したときも歌がある。孤独なときも歌がある。歌って、都合のいい道具かもしれない。寂しいときは、寄り添ってくれるし、勝負に勝つぞっていうときは士気を高めてくれる。なんて言うのかな、それぞれの感情に寄り添う道具というか。そういうふうに寄り添えるような、時代の大衆とともにあるような曲を作って、歌えるように頑張りたいと思います」
9月からは、ソロ活動をスタートさせてから1年も欠かすことなく続けているツアーがスタートする。題して『藤井フミヤ 35th ANNIVERSARY TOUR 2018 “35 Years of Love”』。
「今回は、ベスト盤からソロ曲と、尚之が参加するからチェッカーズと、F-BLOODの曲をまぜこぜにして、いいとこ取りのライブになると思います。パフォーマンスはいつもその場のノリだけど、比較的激しいライブが多いんだよね。だから、ツアーが始まるときれいな身体になるのよ。コンサートがトレーニングみたいな。若いときみたいにライブで脱いだりはしないけどね(笑)。いつまでこんなに動けるかなとは思ってるけど。
ずっとツアーを続けていることが健康維持の秘訣になってる。世界の歌を追い求めるみたいな番組を見たときに、90歳くらいの農夫のおじいさんがえらくいい声で歌ってるの。それを見たときに“歌えるんだ、(そこまで)いけるかも”と思って。科学とか医学の力を借りてもいいし(笑)、渋い爺さんになって歌っていたいね」
5年後も、10年後も。きっと、その先も。
TRUE LOVE
「覚えてなかったんだけど、最初に「ドラマの主題歌を歌ってくれ」と言われたときは、断ったみたい(笑)。イギリスに住もうかっていう話もあったから、「まだ、ソロ活動しないんで」って。でも、柴門ふみさんの作品で『あすなろ白書』と聞いて、「いいですよ」って返事した。一生懸命、知ってるコードで作った曲だから、すごく単純なコードでできているんです。ギター初心者の教則本にも載ってる。初めてギター買って、彼女に歌った曲が『TRUE LOVE』ですって人多いよ。結婚式でもよく歌った。中には離婚している人もいるかもね(笑)」
弟・尚之さんとの仲
「F-BLOODを結成したことで、一生、近距離で人生を送ることになったと思う。小さいときから、ずっと仲がよかった。なんでも、分け合って。パンツも共有してはいていたし(笑)。あぁ、こんなことができるんだと思ったのが、去年、20周年を記念してF-BLOODでツアーをやったとき。ライブが終わってビールを飲もうと思ったときに春巻きが1本だけあって「1本か」と思って、半分かじったのを尚之に渡したら食べるわけ。これができるのって、夫婦と兄弟だなって。だって、息子(フジテレビのアナウンサー・藤井弘輝)に渡しても無理だもん。藤井アナは食ってくれないよ(笑)。尚之と楽屋が一緒で、まったく会話がなくても、気にしないもんね、兄弟だから」
お父さんが藤井フミヤ
「うちの子たち(息子さんと娘さん)は、物心ついたら父親のコンサート会場にいる感じだからね(笑)。どういう感じなんだろうね。家では、鼻歌すら歌わない。カラオケに連れて行ったこともない。仕事以外で、父親の歌って聴いたことないと思うよ」
趣味は料理
「ひとりでワインを開けて前菜からメインまで4〜5品作って食べる。奥さんと作り合いっこもするよ。「オレ、前菜はこれ作るから、次作って」とかって話しながら。冷蔵庫にあるもので作るから、レシピがないんだよね。例えば、ジャガイモがあったら、薄く切ってローズマリーと玉ねぎ、ベーコンかソーセージで炒める。自宅にはハーブを5〜6種類植えてる。バジルとかイタリアンパセリとか。カレーも自分でスパイスを調合して作ってる。煮込む欧州カレーじゃなくて、インド風カレーだけど」
藤井フミヤとは
「藤井フミヤのジャンルって、ちょっと難しい。ロックアーティストでもないし、大きく言えばポップスだろうね。オレ、キングオブポップは桑田佳祐さんだと思ってる。九州出身のミュージシャンって、スタイリッシュな人が多いのよ。短パンにTシャツで歌う感じがない。田舎もんだからかもしれないけどね。足の先から、頭までモダンだったりするのが、九州出身のミュージシャンの気質なのかもしれない。それは、この先も変わらないと思う」
■アニバーサリーツアー開催
『藤井フミヤ 35th ANNIVERSARY TOUR 2018 “35 Years of Love”』
詳細は公式サイト https://www.fumiyafujii.net