「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。ライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「良いヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。

有働由美子アナウンサー

第6回 有働由美子

 NHKの新人アナウンサーは、地方局でアナウンサー修業を開始すると聞いたことがあります。入局わずか4年目で有働由美子アナウンサー(以下、ユミコ)が東京進出を果たしたということは、どれだけユミコが優秀だったかわかるというもの。それ以来、私はユミコ・ウォッチを始めたのです。

 ユミコのイメージをたずねたら、元NHKの看板アナウンサーで、紅白の司会をはじめ、ニューヨーク勤務、女性管理職も経験するなど輝かしいキャリアの一方、親しみやすく、さっぱりしている、独身であることを自虐し、ユーモアのセンスにも富んで好感度抜群という答えが返ってくるでしょう。

 しかしながら、ユミコ・ウォッチャーの私はそうは思えないのです。人気、実力ともにNHKの歴史に残るような人材だろうと思いますが、自虐キャラに潜むプライドの高さを感じるというか、ちょっと面倒くせぇ人なんじゃないかと思わされることがあります。

 男社会の日本では、オジサン受けするかどうかは、仕事の評価にも関わってきます。オジサンたちが若く美しい女性を好むことは説明するまでもありませんが、それではその種類ではない女性が美人よりもオジサン受けする方法がないかというと、そんなことはないのです。

 美人ではない女性がオジサンの心をつかもうと思った時、一番簡単なのが自虐なのです。オジサンたちは、美人と接する時、うれしさと同時に嫌われたくないと強く思うので、少なからず緊張しています。こんなことを言ったら、嫌われてしまうかもと話題選びにも慎重になってしまう。その点、自虐を仕掛けてくる女性は、ラクチンです。「モテない」とか「結婚できない」と自分から話題を振ってくれる女性には、堂々と「そういうところがダメなんだよ」と説教口調で言えるから。

「遠くの親戚より近くの他人」ということわざがありますが、隙の無い美人より、上から目線で物を言わせてくれる自虐キャラのほうが自分に従順な気がして、オジサンにはかわいく見えてくるのです。

 ユミコがどんな理由で自虐キャラを選んだのかわかりませんが、女子アナは前に出てなんぼですから、それを処世術として使うことを否定する気は全くありません。男性だって、好きでもないオジサン上司に一生懸命合わせているはずです。

 でも、もうやめてもいいんじゃないですかね?

ユミコがバラまいている価値観

 20代の女性の「結婚できない」自虐は、ほとんどの女性が一度は陥る自意識過剰ですから、罪がない。しかし、国民的アナウンサー・ユミコの自虐は「看板アナウンサーになるほどに仕事ができても、結婚をしていない女性は一人前でない」という価値観をバラまいていることにつながっていきます。

 なんといってもユミコは高キャリアですから、自虐することで「謙虚な人」と思われて自分の株を上げることができます。しかし、ユミコの自虐は一般の独身女性を「すごいキャリアがあるわけでもないのに、独身なのは恥ずかしい」と間接的に貶(おとし)めていることに気づいていないのです。自虐が結果的に自分より弱い立場の誰かを傷つけるかもしれないと想像できないのだとしたら、無意識なだけにタチの悪いヤバさだと思います。

 フリーとなったユミコは、10月から『NEWS ZERO』(日本テレビ系)のキャスターに就任します。そのお披露目会見でも、ユミコは「結婚できない自虐」全開。「嫁に出してくれたNHKの方にも立派にやってるなと言っていただけるように」とコメント。この日着ていた白い衣装を「中途半端なウェディングドレスみたい」と結婚をこれでもかと絡めてくる。記者会見も目立って何ぼですから、意図的にネットニュースになりそうなワードを選んでいるのでしょう。

 しかし、問題だったのは「置屋の女将」発言です。同番組には若い女性のキャスターたちも出演しますが、ユミコは「完全にキラキラする人たちと、置屋の女将みたいな感じ。そういう構図になるんだろうなと思っていました」と発言。

 置屋とは芸者や遊女を抱えている家のことを指します。人気商売を芸者さんになぞらえることはよくあり、オファーが多いことを「お座敷がかかる」と言ったりします。テレビに出る人は究極の人気商売ですから、そういう意味で使ったのだと思いますが、このたとえは不適切ではないでしょうか。

不用意な「置屋の女将」発言の裏にあるもの

 芸者や娼妓の世界と言えば、宮尾登美子センセイの独壇場ですが、代表作の一つ『陽暉楼』(文春文庫)を読むと、置屋の女将はカネのために、嫌がる芸者に無理やり客を取らせるのが当然のこととして描かれています。「置屋の女将」は、「自分の利益のために、性接待をさせることも辞さない」存在でもあるのです。このような言葉を不用意に使ってしまうのは、ユミコがずっとオジサン的な視線で、物を見てきたからではないでしょうか。置屋の女将はオジサンから見れば、カネを握らすと芸者をあてがってくれる便利な存在なのですから。

 後輩の女性キャスターにしても、先輩が自虐をしていたら返答に困るでしょうし、長く働き続けたい女性ほど、自虐が受ける風景を見たら、年を取ることが怖くなるでしょう。ユミコの自虐を面白いと思っているのはオジサンだけで、女性は誰もトクをしないのです。

 ユミコはNHKを退職する際、今後はジャーナリストとして活動するという趣旨のコメントを出しています。社会の不平等や不正にメスをいれるべき存在が、女性を貶めるオジサン目線というのは、いかがなものか。

『NEWS ZERO』は「日本を良くするために」というテーマで始まった番組だそうです。女性がニュースのメインキャスターとなるのが珍しい日本で、来年50歳を迎えるユミコが堂々とキャスターを務めることは若い女性に大きな希望を与えることになり、ひいては「日本を良くすること」につながっていくと私は思います。

 だからこそ、もう余計な自虐はしないでほしい。十分な知名度もキャリアもあるのに、いつまでもオジサンにかわいがられないといけないと信じているとしたら、未成熟という意味でヤバい女ではないでしょうか。

 ユミコのヤバさがどう変化するのか見極めるために、私は毎日『NEWS ZERO』を見たいと思います。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。他に、男性向け恋愛本『確実にモテる世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。