体操女子パワハラ問題で、新たな問題点が浮上してきた。それは『体操女子2020東京五輪強化選手(以下、2020)』というプロジェクトをめぐる疑惑である。
「もともと『ナショナル選手』という制度があるのに、さらに新たな枠組みを作る必要があるのか、そもそも疑問でした。強化選手は知らぬ間に入れ替わるし、『味の素ナショナルトレーニングセンター(以下、NTC)』使用規定が突然、変更されたりします。どういう経緯で始まったのかも不明なまま。女子強化本部長が牛耳っているのは明らかでしたし……」(体操関係者)
『2020』は、リオ五輪で体操女子がメダルをとれなかった反省から始まった制度とされている。東京五輪に向けて、メダル獲得のために選手を強化するのが狙いだ。現在14名の選手が入っている。しかし、『週刊女性』が『日本体操協会』に情報開示を求めると、いくつもの疑問点が見えてきた。
'17年の段階では《強化本部員より推薦、強化本部長の承認を得た選手》が対象者とされていた。それが'18年になると、なぜか強化本部員の権限が消滅して《強化本部長の推薦を得た選手》に変更されている。その強化本部長とは、渦中の塚原千恵子氏だ─。
「彼女に気に入られないと、参加できないってことですよね? “女帝”と言われてもしかたがない絶対的な権力を協会が与えてしまいました。
だから私たちは彼女の顔色をうかがうしかないんです。しかも年間を通じてNTC及び『塚原体操センター』での強化合宿に参加できる者という条件もあって……。彼女のおひざ元で練習していたら、言いたいことも言えなくなりますよ」(同・体操関係者)
NTCの使用法についても不思議な話がある。速見元コーチは会見で、強化本部長から「『2020』に入ってないから、NTCは使えない」と言われたと述べた。しかし、利用規定には『2020』を優遇するとはない。
「内村航平選手や白井健三選手が使用を申請しても、『2020』が合宿をしているからという理由で断られたこともありました。恣意的な運用ですよね。塚原夫妻がNTCという素晴らしい施設を私物化しているとしか思えません」(スポーツ紙記者)
JOCからの助成金はどう使われる?
日本オリンピック委員会(以下、JOC)からの助成金がどう使われているかも不透明だ。'17年度は約3071万円、'18年度は約5269万円がJOCから『2020』に支払われているが、内訳を見ると'17年は《12回の月次合宿と2回の海外合宿の14事業》、'18年は《月次合宿及び海外合宿2件を予算計上済》と記載されているだけ。
『週刊女性』は、詳細な内訳や管理方法、資金に関する強化本部長の権限などを明らかにするよう協会に求めたところ、
「問い合わせが殺到しているため、1件1件に対応するのが困難です」
と明確な回答は得られなかった。これでは女帝が自分の思うままに助成金を使っているのではないかと、体操界で勘ぐられてもしかたがない。
9月11日放送の『スッキリ』(日本テレビ系)に生出演した塚原光男副会長が『2020』についても話した。
だが、この発言を「間違いだらけだ」と厳しく指摘するのは、バルセロナ五輪・銀メダリストの池谷幸雄氏。彼が体操関係者に確認すると、現場からはこんな声があがってきた。
「光男氏は『2020』にはトップ選手はみんな入っていると言っていましたが、実際はナショナル、ジュニアナショナル選手の半分くらいしか入っていません。宮川選手だけが拒否していたかのような言い方はおかしい。
『2020』自体が年間を通した合宿を行っている実態がないし、強化内容もよくわからない。納得できるプロジェクトではなかったので、入ることに不安を感じた選手やコーチも多かったはずです」(現役の体操クラブコーチ)
宮川紗江選手は『2020』コーチ陣のほとんどが朝日生命関係者なので、入ると引き抜かれるのではないかと恐怖を感じたと話していた。これに対して、光男氏は「朝日生命のコーチは11人中3人しかいない」と反論したが、
「『2020』のコーチには朝日生命関係者が6人います。その中の2人はJOCの専任コーチでもある。3人という数字にどんな根拠があるのかまったくわかりません」(前出・体操クラブコーチ)
光男氏は『2020』の強化内容に関しては、コーチたちと話し合って決めているとも述べていた。
「話し合いなんてないですよ。ほとんどのことは、知らない間に決まっています。意見を言えば、協会に“協力的ではない”というレッテルを貼られるだけですから。私たちは塚原夫妻と意見を言い合えるような立場ではないんです」(体操協会関係者)
パワハラ新証言も
千恵子強化本部長のパワハラについても、新たな証言が出てきた。
「『2020』のトライアウトを受けるには年齢制限があります。うちの選手ははずれていたので受ける権利がないのはしかたがないと思います。
でもナショナル選手なのにNTCの利用時間に制限がかかるのは納得できません。抗議しましたが、とりあってくれませんでした。それなのに、うちの選手より下の成績の選手がNTCの利用で優遇されています。
結局、千恵子先生のお気に入りにならなければダメなんです。紗江ちゃんとは違う形でいろいろな選手がパワハラを受けているんですよ」(別の体操クラブコーチ)
光男氏は、宮川選手が強化合宿から「世界選手権、頑張るんだ!」と元気に帰っていったから、私たちが逆告発されるのは想定外だったとも話していたが、
「合宿から帰ってきたときの紗江ちゃんは、今までに見たことのないような顔をしていたそうですよ。選手の気持ちとか表情とかがわからない人たちなんですかね……」(前出・体操クラブコーチ)
9月7日に第三者委員会が設立されたが、真相解明にはまだ時間がかかる。日本体操協会は10日に会見を開き、調査が終わるまで光男副会長と千恵子強化本部長の職務を一時停止すると発表した。
選手たちがのびのびと競技に打ち込める日は、いったいいつになるのだろうか─。東京五輪まであと2年。体操界は“選手ファースト”を徹底してほしいものだ。