※写真はイメージです

 昼間の職業は解体工だった。

「この仕事は現場に行くことが多いので、作業着のような格好で仕事しますから、まあ地味な感じです。メガネもかけていませんでした」

夜は華麗に変身して……

 同僚がそう証言する男は、仕事が終わると様子を一変。日中の地味な作業着を脱ぎ捨て、まるでステージ衣装のような目立つ格好に身を包んで夜の民家に侵入し、窃盗に手を染めていたという。

 通常の感覚なら、目立たない格好をしてことに及ぶのが盗人稼業だが、あべこべに派手に着飾るとは、ずいぶんと変わり者もいたものだ。

 捜査関係者が明かす。

「派手なシャツを好む。おしゃれ系の、度の入っていないメガネをかけているということで、捜査員の間では“だてメガネのまつもと”と呼ばれていました」

 埼玉県警は9月6日、住居侵入・窃盗の疑いで、埼玉県朝霞市に住む解体工、松本尚利容疑者(37)を逮捕した。

 逮捕容疑は5月31日午後7時半ごろから翌午前4時半ごろまでの間に、朝霞市内の高齢男性がひとりで暮らす民家に忍び込み、現金6万9000円とキャッシュカード、携帯電話1台などを盗んだ疑いが持たれている。

 容疑者の雇用形態はアルバイト。同僚には「まっちゃん」と親しまれ、現場監督には「マック」と呼ばれていた松本容疑者の評判は、手癖ほど悪くはなかった。

「すごいまじめだったよ。お金のトラブルもないよ。むしろ同僚に1万円貸したとかそんな話を聞いたぐらいだから。おとなしいし泥棒する感じの男には見えなかったけどね」

容疑者は解体工事事務所に住み込んでいた

 そう証言するのは現場監督だ。事務所の2階に寝泊まりしていたそうで、

「家賃はとりあえず電気代だけってことで月に1万円払ってもらったけどね。前科があるということを明かしていてアルバイトとして雇っていたけど、金に困るような給料じゃないと思うけどな。結構もらっているはずなんだよ」

 と首をひねりながらつけ加える。夜、派手な格好で事務所に出入りする姿は、同僚や近所の人に目撃されていない。

2回も盗まれた

「俺が寝ていたところから、財布を置いていたところまで、4メートルもないんだよ。だけど、気づかなかった。もうあれだよね、プロだよね」

自宅縁側の鍵は開けたままで、ここから侵入されたと男性はみている

 そう話す被害男性(78)に接触できた。5月31日の夜のことをはっきりと覚えているという。

「イスの上にズボンをかけて置いたんですよ。財布と携帯電話はポケットに入れたまま。それで俺、寝るの早いからさ。だいたい午後7時とか7時半とかに寝ちゃうから。

 あの日は夜11時半くらいにトイレに起きたんだよ。そしたらイスにかけていたズボンが落ちてるんだよ。何でだろうなと思って、朝起きて確認してみたら財布と携帯がなくなっていて、泥棒に入られたなって気づいたんですよね

 後から考えると、実はその半月前、5月12日にも、男性は泥棒に入られていたという。

「そのときは財布だけでした。盗まれたことに気づかずに、翌朝、近くのスーパーに買い物に行ったんですよ。レジの近くでポイントカードを出しておこうと思ってポケットに手を入れたら、財布がないんだよ。

 どこかで落としちゃったと思って、前日に行った店とかにも行って、財布届いてないですかって聞いたんだけど、“届いてないです”ってことでした。ただ、いま思うと、そのときも今回と同じように、イスからズボンが落ちていました」

 まさか泥棒に入られているとは露知らず、男性はどこかへ落としたものと思い、その際には警察には相談しなかったという。

 6月1日、盗まれたことに気づいた男性は、銀行や郵便局のキャッシュカードを止め、クレジットカード会社に盗難の連絡をし、知人に“交番に行ったほうがいいよ”と言われ警察署に行った。

 まんまと泥棒に成功した容疑者だが、男性が大変な思いで後処理をしているそのころ、あまりにもずさんなミスを犯していたのだ。

「犯行直後、盗まれた携帯電話から7回の発信が認められました」

 と捜査関係者。かけた相手のひとりが、すぐさま判明することになる。

 というのも、被害男性は盗まれたその日に、携帯電話の番号を変えずに、新しい機種を購入したからだ。

 そこに、知らない女性から電話がかかってきたという。

「たぶん盗んだ携帯電話で、容疑者はその女性に電話をかけたんだと思います。その女性から“泥棒に入られたでしょ?”と言われたので、何で知っているのかと思ったら、“松本と昔、一緒に暮らしたことがあります”“2月に出所したばかり”と言っていました。

 今回に関しても“またやりやがった”とか言ってましたよ。今はその男はどこにいるのか? と聞いたら“家がないからわからない”って」

被害男性は携帯電話と財布を新調したと話す

 逮捕の一報が被害男性に届いたのは9月7日の朝8時57分。着信履歴が、携帯電話に残っていた。

「犯人が捕まったことは聞いたけど、それ以外は何もないね。何も戻ってきてないよ。電話も盗まれて登録しておいた電話番号がわからなくなって、それがいちばん困るんだよ。まあ、俺が鍵をかけなかったのが悪いんだけどね」

 男性は長年、犬を飼っており人が近寄れば必ず吠えて教えてくれたため、鍵をかけなくても大丈夫と思っていた。しかし、その愛犬は昨年10月、死んでしまったという。

「周囲からは“ちゃんと鍵をかけないとダメだよ”って改めて言われました。盗られるものなんてないから、逆に来てくれよ、なんて冗談言ってたんだよ。それがまさか本当に来るなんて……」

 と、男性はがっくりと肩を落とす。

 被害金額は、

「1回目に盗まれたときは5万5000円で2回目は6万9000円。俺は大工の親方をやっていて、現場で道具とか材料が足りないと買い足しに行くことがあるから、いつも5万~6万円は財布に入れている。充電式のドライバーもないから、たぶん盗まれた。

 俺はほんと、ガクンときたよ。今はもう年で、仕事も少ないから、生活がやっとなのに……。クレジットカードも止めないといけないから焦るし、再発行は同じ番号はダメなんですよ。だから(暗証番号を変更するのにも)苦労しましたよ

 松本容疑者とは全く面識はないという。

 同容疑者は取り調べに対し、容疑を認めているというが、なぜピンクのだてメガネと派手なシャツで犯行に及んだのか。個性的なスタイルで怪盗を気取るような泥棒の美学でもあったのか、それとも変装したつもりだったのか。

「変装のつもりではないでしょう。そのあたりはこれからの捜査になります。まぁ、好んでいたというのはあるんでしょうね。好みでなければ、だてメガネとかはかけませんからね」(前出・捜査関係者)

 どんな格好をしても泥棒は泥棒にすぎない。