「もともと金持ちだと思ってたんだよ。確か自分が不動産業の社長とか言ってたな。週に5、6日、飲みに行ってたから。全部、あいつにおごってもらってたよ。
普段はジャージとかスウェットとかだけど、見栄っ張りだからスーツでキャバクラに出かけることは多かったね。“きょう、仕事だったんだ”って言ってさ。20万円くらいのオーダーのスーツ作りに行ったりね。自分を大きく見せようとするんだよね。ブランド物のバッグ持って時計とかして、金持ちアピールはやばかったね」
知人男性が、そうつまびらかにする容疑者像。
千葉県警松戸署は'18年9月11日、JAとうかつ中央・松戸南支店(千葉県松戸市)から同年6月15日に現金700万円を盗んだとして、元同支店出納担当係長の松永かおり容疑者(53)を逮捕した。
同日県警は、松永容疑者が着服した金だと知りながら700万円を受け取ったとして、松永容疑者の次男で無職、西弘樹容疑者(22)を組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反(犯罪収益等収受罪)で逮捕した。
毎回どこからか現れる700万円
冒頭の容疑者像は、西容疑者のそれだ。知人男性は、西容疑者が金を手に入れる際、その現場近くで待っていたことがあったと詳細を明かす。
「あいつ、金がなくなるとだいたい600万~700万円くらい、毎回どこからか持ってきてたのよ。紙袋にガバッと入れて持ってくるんだよね。どういう経緯でそんな大金を手に入れているのか不思議でしょうがなかった。
お母さんが働いていたJAの支店あるじゃないですか。その近くに作業服を売るチェーン店があるんですけどね、そこの駐車場に車を止めるんですよ。それでいつも、車から弘樹だけ降りて“お金を下ろして待っている銀行員の田中さんから受け取るだけ”って言っていましたね。
車から降りて5分~10分で戻ってくると、大金の入った紙袋を持っていた。本人は19歳のときから不動産会社を経営しているとか言ってたけど、全く働かず遊んでいるし、どう考えたって無職のプー太郎。本当にナゾでしたね」
1年間で1億円近くを盗んでいた
逮捕容疑の日時、西容疑者はJAの支店裏口で、母親から現金を受け取っていた。
「1年間かけて9633万円盗んだということですね。今回の逮捕事案となった700万円は最も明らかな証拠があった入り口にすぎない。残りの約9000万円はこれから再逮捕なり、追送致なりしていくことになると思います」
と捜査関係者。共犯関係については
「息子のことを溺愛しているような母親ですね。だから息子から言われることはしかたない……みたいなところがあったようです。金を無心されて、息子のためだと思って盗ってしまったって感じですね」
とみている。息子が母親に暴力をふるったり、母親に金を盗ってこいと脅していた形跡はなく、見えてくるのは息子を溺愛する母親が犯罪に手を染めたという愚かな関係。
その結果「勤続35年でした」(JAとうかつ中央担当者)と長く務めた職場を6月29日付で懲戒解雇になり、すべてを失った。にもかかわらず息子への甘さは以前のままで、事件発覚後の9月6日、母親は、家を出て暮らし始めていた息子のもとを訪ね、
《弘樹へ 大丈夫ですか? 掃除をしに来たんだけど留守なので帰ります。連絡して下さい。まってます。お母さんより》
というメモを残している。
容疑者一家は父親と逮捕された母親、長男と逮捕された次男の4人家族。両親が共働きでした、という近隣の女性住民は、
「親子でケンカしているのは聞いたことがないです。むしろ家族仲よくテレビを見て、談笑している声は聞いたことがあるので、家族仲がいいんだなと感じていました」
と証言する。
ウソだらけの人生
西容疑者は本来であれば今年3月に大学を卒業する予定だったが、単位未取得で退学。もともと、周囲には大学生だと身分を明かすことはなかったという。周辺との人間関係もウソで塗り固めた、実に薄っぺらい関係性で、
「本当にあいつ、飲みに行くのが好き。でも1人でいるのが嫌いなやつだから、基本1人で飲みに行かないし。3万円あげるから飲みに付き合ってよとか言ってくるんですよ」
と前出の知人男性。母親から700万円を受け取った翌週6月22日にひとり暮らしの自宅でJAの帯封がついた100万円の札束でピラミッドタワーを作っていたという。
「母親が盗んだ金は、ほぼ飲み代で消えているんじゃないかな。俺が見た中で、1日最高額は100万円超え。キャバクラの“推し”の女の子の誕生日に店を貸し切ってドンペリあけて、女の子7~8人つけて大盤振る舞いって感じでした」(前出・知人男性)
ウソつきすぎて本人もよくわからない
あぶく銭は、女遊びやギャンブルで簡単に溶ける。西容疑者のその場しのぎのバカ騒ぎも、ただ金を溶かすだけだった。
母親の悪事がバレ、勤務先を懲戒解雇になったことで、西容疑者のあぶく銭の蛇口は止まった。その後の切羽詰まった西容疑者の様子を、前出の知人男性が振り返る。
「母親が捕まる前、弘樹はこう話していた。父親も不動産をやっていて、そのお金関係は全部母親がやっている。その仕事が回らなくなって、お金がなくなって、弘樹の資産も母親に使われたって。それも1億8000万円。後輩には8000万円とか言っていたから、もうウソつきすぎて本人もよくわからなくなってる。父親の仕事もウソ。
最初、弘樹は母親に金をもらうとき『事業をやるから開発費が欲しい』ってお金をもらっていたんだけど、それもウソ。税理士になるとか言ってたけど、全然勉強とかしてないしウソ。突然、株の話とかし始めて、ノートにびっしり書いてるんだけど、それもウソなんだよね。結局、見せかけだけの“やってますアピール”をしたいのか、妄想癖なのかわからないけどね」
ただ、着服がバレて母親が懲戒解雇されてからは、就労意欲をチラッとだけ見せたという。
「とび職人をやったんだけど、1日で辞めた。面接行って、作業着とか水筒とか買って、明日から行くんだって言って、現場に行ったら熱中症になりかけて倒れて、もう行かなくなっちゃった」(同)
母親が着服した現金の使い道を前出・捜査関係者は、
「すべて次男に渡したと話しています」
と明かす。一方で、
「次男はまだ何もしゃべっていないですね。否認というよりは黙秘に近い状況。ふてぶてしいやつです」
と、あきれ果てる。
大学には入ったが、遊びほうけて単位を取らず、結局は中退。あげくの果てに遊ぶ金を母親にねだって、親子もろとも真っ逆さまの転落人生。
1年間、3つの金庫のうち1つをまったくチェックせずに、松永容疑者にまかせっきりにしていたJAも脇が甘すぎたーー。