若い子育て世代や、一家の大黒柱にも病魔は容赦なく襲いかかる。家族とのあり方に悩む患者と、彼らを支え、“第二の患者”とも呼ばれる家族。その関係を考えるーー。
働きざかりの親ががんになったとき、仕事やお金の問題も大切だが、それにもまして子どもを含めた家族についての問題は切実だ。
子どもがいるがん患者同士でつながろうと、『キャンサーペアレンツ』を立ち上げた西口洋平さん。
現在、がんの告知を受けてから3年半目。胆管がんのステージ4を生きている。
がんが判明したのは35歳のとき。
開腹してみたら、米粒状のがんが広がっていたため手術ができず、そのまま閉じた。完治しない、5年生存率は低い、これから受ける抗がん剤治療は延命のため……。「いつまで生きられるのか」と、西口さんは目の前が真っ暗になったという。
実家の両親は手術に立ち会い、妻とは主治医からの説明を聞いた。しかし、幼稚園児だった娘には言えなかった。
手術はできなかったが、以前から悩まされていた下痢の原因になっていた胆管の詰まりを処置したところ、症状は改善。食べ物はおいしく、便も出る。だが、身体は元気なのに、がんだと思うだけで気持ちは沈む……。
身体と心があべこべの状態になった。
「とりあえずまだ死なないだろう」と、なんとか復職を果たすと「このままでいいのだろうか」という気持ちが、日に日に大きくなっていった。
ある日ふと、周りに同世代のがん患者がいないことに気がついた。
ちょうどそのころ、国立がん研究センターの発表で、「18歳以下の子どもを持つがん患者が、全国に5万6000人いる」ことを知る。
「僕だけじゃないんだ、と思いました。子どもが小さいと仕事を辞められないし、どう伝えるかっていう問題もある。みんなどうしているんだろう? 単純にそういう話がしたいと思いました」
2016年4月、西口さんは、SNSを使った交流サイトを立ち上げる。最初は、たったひとりで始まった会だったが、マスコミやネットニュースで取り上げられ、会員数が増えていった。
オフ会も開いてみると、会員同士ふみこんだ会話ができるようになり、ネット上でのやりとりも活発になった。
子どもを連れてくる人もいるため、家族同士のコミュニケーションも広がっている。
活動を通して、西口さんの家族との関係も変化した。
「妻が普通に接してくれるようになりました。変に気を遣われるより、そのほうがありがたい。“しんどいときは僕から言うから”って、妻には伝えています」
子どもが小学生になり、ようやく自分ががんであることを話すことができた。
「病院のベッドの上でげっそりやせた姿ではなく、元気に仕事復帰してから話したので、子どももそれほど深刻には受け止めませんでした。
今、4年生ですが、図書館から借りてきたがんの本を、読み聞かせしてくれることもあります。ふだん、がんの話はしないんですけど、子どもなりに気にかけてくれているんですね」
現在、『キャンサーペアレンツ』は、2000人を超える大所帯となっている。
「活動を続けていくうちに、僕のベクトルも変わりました。いまだ社会には、がんに対する偏見や誤解があり、患者は生きづらさを抱えている。それを今変えなければ、将来もし子どもががんになったときに、また同じことが繰り返されると思ったんです」
かつての患者会は、がんの種類別に分かれ、情報交換をするのが主な目的だった。が、SNSの時代になり、ひとりひとりの声が発信できる今の時代だからこそ、みんなでつながって形にしていきたいと西口さんは語る。
「この活動が、僕のエネルギー源になっていることは間違いありません。出会えるはずのない多くの仲間たちができた。がんになってよかったとは決して思わないけれど、数少ない喜びのひとつにはなっています」
西口洋平さん ◎キャンサーペアレンツ代表 35歳で、胆管がんのステージ4と判明。手術はできなかったが、働きながら、週1回の抗がん剤治療を続けている。2016年4月、『キャンサーペアレンツ』を設立。現在、会員数は2100人となった。