清野裕彰警部補の献花台にはたくさんの花束のほかに野球ボールなども手向けられている

 9月23日、神奈川・東戸塚フットボールパーク。オーストラリアン・フットボールの公式リーグの試合前に、選手・関係者全員が黙祷を捧げた。宮城県警仙台東署東仙台交番で刺殺された清野裕彰巡査長(33)=警部補へ2階級特進=が日本オーストラリアン・フットボール協会に所属していたからだ。

熱き警官の死に無念

 同協会担当者の話。

「清野さんが所属していた専修パワーズの試合もやる予定だったのですが、中止になったため、別の試合の前に黙祷を行いました。清野さんが事件で亡くなったことは本当に残念でなりません」

 日本国内の競技人口は高校・大学を含めて200人くらいで認知度は低いが、オーストラリアではラグビー、クリケットと並ぶ人気スポーツで、18チームによるプロリーグもあるほど。清野さんは学生時代、専修大学の専修パワーズの主将を務め、2008年のインターナショナルカップでは日本代表の副主将としてチームを引っ張ったという。

 同協会は公式サイトで《常にチームメイトを鼓舞し、全力でプレーする姿が仲間の心に残っています》と追悼した。

東仙台交番は、取材時にはブルーシートで覆われ交番内をうかがうことはできなかった

 清野さんは9月19日未明、落とし物を届けに来た体で交番にやってきた東北学院大3年の相澤悠太容疑者(21)に刺され、命を落とした。

 清野さんは、地元で生まれ育ち、高校時代は甲子園を目指していた。

「東北学院高校の硬式野球部で副主将を務め、最後の夏は2年生主体のチームを牽引しました。背番号『3』でファースト。県大会の2回戦で敗れましたが、その年の県代表は当時、高校2年のダルビッシュ有投手を擁する東北高校でした」(地元記者)

おとなしいミリタリーマニア

 襲撃現場で別の警察官に射殺された相澤容疑者は、清野さんの高校の後輩にあたる。自宅は事件現場から約700メートルと近く、両親と弟との4人暮らし。

「小さいころはうちに遊びに来たこともあるんだけど、小学校に上がってからは来なくなったね。うちは猫を飼ってたんだけど、あの子が猫アレルギーになったもんでね」

 そう記憶を呼び起こすのは、近所に住む遠戚の女性(80)。

「まじめな感じだったね。普段はあまり笑顔とか見せなくて、会話もあまりなかった。しゃべらないほうだったよ。おとなしくて、積極的にコミュニケーションをとる子ではなかったね」

 と、振り返る。

 事件後に、容疑者が在籍する東北学院大が「自分からコミュニケーションを図る学生ではなかった」「個人的に連絡し合う仲間はいなかった」と記者会見で明かした人物評と合致する。

 さらに、卒業論文のテーマとして「憲兵制度」を希望したこともわかり、交番襲撃時に複数のエアガン、刃物、予備弾倉で完全武装していたことからミリタリー(軍事)マニアとみられている

 相澤容疑者が、人生のどの時期に変容したのか明らかになるのはこれからだが、前出の女性は容疑者の変容前の一面を次のように明かす。

相澤悠太容疑者(高校の卒業アルバムより)

「動物は好きだったね。それからね、よく弟と仲よく庭で土を掘っていて、穴掘りが好きだったんじゃないかな。

 高校生のころまでは生き物をいろいろ飼っていたみたい。ウーパールーパーとか。中学・高校と部活動は生物部で飼育に力を注いでいて“今日はお母さんがウーパールーパーの水槽の水を取り替えてくれるんだ!”とうれしそうに話してたこともありましたね

 容疑者宅の庭には多くの花木が植えられ、手入れは容疑者の母親の役目という。 近所の古参住民は、

「相澤さんの家の前を通るときに“あの花の名前、なんていうんですか?”などと雑談したことはあります。そうしたら相澤さんのお母さんは“私も名前はわからないのよ”なんて言ってましたね。とても明るい女性ですよ。よくおしゃべりしました。今は家の前を通っても真っ暗で、弟さんがかわいそう。大学受験を控えているはずだから

 近隣の主婦は、「事件後、ご家族は1回も見ていませんね。自宅に電気もついていないですし、車で出かけているみたい」と話す。

 地元紙は、容疑者宅近くの公園で、エアガン用のBB弾が落ちていたことや、迷彩服姿の若い男の目撃情報があると報じている。容疑者宅から徒歩5分圏内にある周囲約170メートルの小さな公園で、直径6~8ミリのBB弾を探すと、砂場に白いBB弾がひとつ残されていた。同公園近くに住んでいる女性は、

「私はこの公園では、そういう迷彩服の若い男を見かけたことはありませんけれど……」と話した。

両親が息子の犯行を疑って出頭

 事件発生の少ない住宅地の交番で起きた今回の襲撃刺殺事件。警察がまだ被疑者を特定できていない段階で「うちの息子かもしれない」と仙台東署に出向いたのは、ほかならぬ相澤容疑者の両親だった。その理由のひとつが、自宅にあったナイフがなくなっている、というもの。

「交番を襲ったさまざまな武器を両親は自宅で確認していた可能性が高い。だから息子の犯行を疑えた」

 そう読み解くのは民放報道局ディレクターだ。

容疑者宅から徒歩5分圏内にある公園の砂場に落ちていたBB弾

「お父さんは普段あまり見かけませんが、お母さんは以前3年間ほど地区の区長をやっていてカラッとした印象のいい人でした。お子さんが小学生のころから教育熱心で“学校に遅れるわよ!”と怒鳴り声が近所まで聞こえたり“近所の塾をやめさせて、バスで遠くの塾に通わせるの”などと話していたのを覚えています」(前出・遠戚の女性)

 容疑者本人が死亡しているため、動機や武器の調達経路の解明などには時間がかかるとみられる。

 人付き合いが苦手でまじめな男が一体、何がきっかけで武器マニアに変貌し、交番を襲撃するまでに凶悪化してしまったのか。

「本物の銃を入手するために警察官を襲った、というのが捜査本部の見立てです。裏づけのためにパソコンを解析している。いずれ具体的な発表があるでしょうが、本当の闇が解明できるかどうかはわかりません」(前出・報道局ディレクター)