生活力や経済力に困窮しているきょうだいを裕福ではないきょうだいが支えることで、共倒れになる『きょうだいリスク』。経済格差が開く今の日本の縮図のような現象だが、“ひきこもり”という問題も、この現象に拍車をかけている。
「なんであの子ばかり」と不仲に
内閣府によると仕事や学校に行かず半年以上、自宅に閉じこもっている15歳から39歳を対象とする、ひきこもりの推計はおよそ54万人。職場になじめなかった、就職活動がうまくいかなかった、人間関係がうまくいかなかった、などが理由でひきこもってしまった人たちの実態が、相続にも暗い影を落としつつある。
「ひきこもりは決して子どもや若者だけの問題ではありません。ひきこもりのまま50代を迎える子を持つ親たちも高齢となり、待ったなし。そのしわ寄せが『きょうだいリスク』となって押し寄せてきています」
と話すのは、『働けない子どものお金を考える会』のメンバーでもある社労士の浜田裕也さん。
ひきこもりの子どもを持つ親の会の勉強会で講師を務めることも多い浜田さんは、現状をこう話す。
「50歳を過ぎたひきこもりを持つ親たちは、自立できない子どもの行く末を案じて、きょうだい間の相続が不平等になるケースがとても多い。取り分が少なくなり、“なんであの子ばかり……”という気持ちになって仲が悪くなり、中には絶縁するケースもあります。
こうした現状を踏まえて国も40歳以上のひきこもりについて本格的な調査を開始しました。実態が明らかになるのはこれからですが、ニートなども含めるとかなりの数いると思われます」(浜田さん)
高齢の父親が亡くなった場合、当初は配偶者の遺族年金などで細々と暮らしていくことはできる。しかし配偶者まで亡くなると、ほとんどの子どもは生活保護などに頼らなければならないと思われる。
「そのまま平均余命まで生きた場合、年金以外に2000万から3000万円かかるケースがほとんど。親としては死ぬに死ねない。このまま放置しておいたら、大きな社会問題になりかねません」(浜田さん)
『負担付き遺贈』の活用を
はたして、この問題に解決の糸口はあるのか。
「親が亡くなった後、きょうだいがいるなら、できるだけ面倒を見てほしいというのが親の本音。ところが親代わりになってといった頼み方をしても感情を逆なでするばかり。月に1度様子を見に行ってほしい、役所に行けないので一緒に行ってほしいなど、具体的にしてほしいことを決めておくことも大切」(浜田さん)
そういった具体的なことを遺言書の中で明記する『負担付き遺贈』という方法もあるという。
「遺言書の中で何かを強制するような文言は、法的に効力が認められません。月に1度様子を見に行く、役所に同行するの2つを実行するなら、◯万円相続すると明記する。もし履行されない場合は“お金を返せ”と、ほかの相続人が訴えを起こすことができます」
と話すのは司法書士の大石裕樹さん。しかし相続する財産がある家庭は恵まれている。相続する財産もなく持ち家もない場合は、ことはさらに重大である。
「生活費は切り詰めることができても、住まいの値段は切り詰められません。もちろん、きょうだいで支えていかれる家族もいらっしゃいますが、家賃補助などの取り組みも国や自治体は考えていくべき」(浜田さん)
きょうだいの多かった時代は長子が問題を調整し分担することもできたが、いまや少子化が進み1人当たりの負担は増すばかり。未婚率も上がっており『きょうだいリスク』は深刻さを増すばかりだ。
〈PROFILE〉
浜田裕也さん
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー。『働けない子どものお金を考える会』のメンバーで、ひきこもりやニートなどの子どもを抱える家庭の相談を受けている
大石裕樹さん
司法書士。全国に日本有数の拠点を持ち、弁護士、税理士、社会保険労務士といった、あらゆる専門家が所属している『ジェネシスグループ』の代表