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 日本人の平均寿命は、昨年の厚生労働省の調査によると男性81・09歳、女性87・26歳と男女ともに前年を上回り、延びる一方。90歳の親から60歳の子どもに相続するような『老老相続』が問題になってきている。

相続の話は親から振って

「手続きをした半年後に相続人が亡くなってしまい、同じ手続きをもう1回やらなければならなくなった。費用も2倍かかってしまった。こういったケースも増えつつあります」

 と話すのは、司法書士の大石裕樹さん。さらに両親が認知症を患い、法的な手続きをとることができなくなり、トラブルに発展する例も少なくない。こういった事態を避けるためには、どうしたらいいのか。

「両親が元気なうちに財産を明らかにしたうえで家族会議を開くことです。とはいうものの、日本人はこういった席を設けるのが大の苦手。うっかりそんな話を息子や娘が持ち出せば“俺を殺す気か”“お父さんを死んでいるかのように扱った”と言われかねません。なので、親から“相続について話したい”と、言い出すのがベストです。

 このような家族会議の場合、感情的にならないためにも法律をわかっている専門家を同席させて法的にも間違いのない形で話し合うことが大切です

 さらに家族会議を開いたうえで、遺言書まで作成しておけば、親族同士がもめることはまずないという。

ニーズが高まりつつある『家族信託』

 しかし、認知症や介護されている状態で、すでに話し合いができないというケースもある。

「両親と子どもたちがともに介護が必要な高齢者の場合、子どもではなく孫の代が相続する『代飛ばし相続』も増えています。しかも相続が多岐にわたったり、親などが保有する資産の運用を望んでいる場合は、『家族信託』もおすすめです」(大石さん)

『家族信託』とは、財産を管理・運用・処分する権利を、信頼できる家族や弁護士などの専門家に託す手法。2007年に『信託法』が改正され、それまで信託銀行が専門に扱った信託業務を誰でも行えるようになった。

「例えばアパートを信託する場合、所有者が第三者に管理を信託することで家賃収入を配偶者、子ども、孫の代まで贈与することができます。しかも、アパートが両親などの名義の場合、認知症などで意思能力が働かなくなると賃貸契約や修繕工事を行う際に支障をきたします。こうしたアクシデントも事前に回避できます」(大石さん)

 さらに『代飛ばし相続』の場合、子ども世代、孫世代を巻き込むため人間関係が崩れるとトラブルになりやすく、遺言書に書かれていない想定外の出来事も起こりうる。また、

「遺言書は本人が死亡するまで効力を発揮できないため、認知症などで生前の財産管理に支障が起きた場合、仮に後見人を立てたとしても財産を運用することができません。『老老相続』が増えてくれば『家族信託』のニーズはますます高まるのではないでしょうか」(大石さん)

 まだまだなじみのない『家族信託』だが、興味のある方は一般社団法人『家族信託普及協会』や一般社団法人『民事信託推進センター』など専門の機関に相談してみてはいかがか。


〈PROFILE〉
大石裕樹さん
司法書士。全国に日本有数の拠点を持ち、弁護士、税理士、社会保険労務士といった、あらゆる専門家が所属している『ジェネシスグループ』の代表