菅義偉官房長官は2度、小泉進次郎自民党筆頭副幹事長(当時)は3度、選挙中に沖縄入りした。保守政党関係者は、
「日本政府の支店を作ろうとしているのか、と思いました。政府の言いなりで、大きな力に飲み込まれているような印象を受けました。私は佐喜真側ですが、投票は迷いました」
と選挙後に本音を漏らした。
とにかく辺野古に基地を作らせないこと
自民・公明などが後押しする佐喜真淳氏に大差をつけ勝利した玉城デニー氏(58)は4日、新知事に就任した。
沖縄国際大学の前泊博盛教授は、
「選挙前、政府は次の知事によって来年度の沖縄振興予算を決めると言ってきたんです。しかし県民は政府からのイジメをはねのけ玉城さんを選んだ。民意は安倍政権にNOを突きつけたということです」
と選挙結果を分析する。
玉城氏が明確な争点にしたのは、米軍普天間飛行場の辺野古移設問題。今年8月に亡くなった翁長雄志前知事(享年67)が7月、前任の知事による辺野古の埋め立て承認を「撤回する」と表明し、現在、辺野古では工事が停止したまま。今後、政府は工事再開のため法的対抗措置に打って出るとみられている。
強行策を続ける国に対峙する玉城新知事。沖縄県知事選挙史上、最多の39万6632票を獲得、翁長前知事の後継者として沖縄のかじ取りを任されたが、問題を解く方程式を見つけだせるのか。
ジャーナリストの大谷昭宏氏は、
「ありとあらゆる方法を使って辺野古に基地を作らせない、というのが大前提だと思う」
と新知事にあらためて注文する。前出の前泊教授は、
「辺野古を止めるためだけに選ばれた知事ですから」
とお手並み拝見の姿勢だ。
玉城氏がすべき8つのこと
現在、承認撤回がきいている辺野古だが前出・大谷氏は、
1【埋め立て中止を求める裁判を再び起こすこと】
を第一の策として訴える。
「埋め立てにゴーサインを出したときと今では状況が違います」という理由からだ。
飛行場周辺に高さ制限に引っかかる学校や民家などの存在が明らかになり、埋め立て海域に「軟弱地盤」の存在が確認された。前出・大谷氏は、
「埋め立て予定地の土壌がマヨネーズ状の軟弱地盤だったり新事実が次々に出てきています。埋め立てをするなら最初から調査をやり直しなさいとし、埋め立て中止を求める裁判を再び起こすことです」
と訴える。さらに大谷氏は、
2【周辺道路を封鎖する】
を打ち出す。
「これまで国が非常に不当なことをやってきたわけですし、ケンカは手段を選ばない。県民の“工事を止めてくれ”という意思を反映させること」
と注文。具体的には、
「周辺道路を含め県が管轄している部分の使用を許可しない。そうすると工事車両は通れない。ほかにも向こう3年間、県道の工事をするなど、知事の権限でできるわけです。それくらい強硬でもいい」
玉城新知事の当選を受け、菅官房長官は「日程が合えばお会いしたい」と呼びかけ、玉城氏も4日の就任記者会見で、早いうちに政府と面談していく考えを示している。
しかし前出・大谷氏は
「会ってしっかりと意思を伝えることは大事。ただ、国の真意に変わりがないのであれば、会っても意味はない」
と、ばっさり。面会の主導権は新知事にあると主張する。
3【アメリカとの直接交渉】
また、会見などで玉城氏が訪米の意思を示していることには、
「価値は十分にあると思います。政府がアメリカ政府に伝えてきたことと異なる話もわかりますから」(前出・大谷氏)
4【観光客の誘致と航空運賃の値下げ要求】
「県民が玉城さんを選んだ理由は、今、沖縄の経済が好調ということもあります」
と勝因をあげるのは前出・前泊教授だ。
「政府の振興予算に頼らなくても、民間経済に元気がある。そのために今回、自己決定権を示せた。好調な経済を維持するのも、新知事の課題です」
前出・大谷氏も、
「沖縄経済のボトムアップをしていく必要がある」
と経済を重視する。
「例えば観光。ビザを取って、宿泊なしで他県に移動する海外の観光客も少なくない。宿泊したくなる宿泊施設、滞在したくなる観光施設を整備してほしい。そして、空港運賃も下げてほしい。そうすれば成田空港や羽田空港、関西国際空港などを経由して世界中からお客さんが来ます」
玉城知事が経済自立のために何をするかは未知数だが、前出・保守政党関係者は、
「政治や経済の分野で引っ張っていける人が知事を支えていく必要があります」
と訴え、そのために、
5【ブレーンの配置】
「沖縄の行く末を心配する人たちを集めて審議会を作り、これからの“沖縄像”を真剣に考え、政策的に沖縄をどう持っていくべきか考えること。与党も野党も関係ない。さまざまな人を集めること。政府が恐れる人たちをブレーンとして布陣に加えることです」
カギになるのは、選挙で機能した「オール沖縄」が維持できるかどうか。前出・前泊教授の訴えは、
6【オール沖縄勢力の信頼とチームワークを維持】
「内紛を起こさないで、関係をうまく維持できるか。相乗り所帯ですから、意見の対立でゴタゴタする。一枚岩であり続けられるかがカギ」
さらに組織がうまく機能し、基地問題に対峙するためには、
7【手の内を明かさない】
前出・前泊教授の主張だ。
理由は、翁長県政が安倍政権に弱体化された際に感じたことだ。
「こんな手がある、あんな手もあると、メディアに答えた結果、政権に先回りされてつぶされた。大失敗でした」
と翁長前知事のミスを指摘。前出・前泊教授は続ける。
「国との情報戦になったら負けるんです。策は、しかるべき時が来るまでは出さない、言わないことです」
そして最終的には、
8【翁長氏から学ぶこと】
と前出・保守政党関係者が指摘する。その真意は?
「翁長氏は言っていました。“保守・革新関係なく、沖縄の人たちの知恵を集めて、沖縄の問題をみんなで心配して片づけていこうや”と。その問題点の延長にあるのが基地問題です。基地問題は、保守と革新が対立している限り解決しません。政府に頼ってもうまくはいきません。
どんな沖縄にしたいか、他の都道府県と違う新型の沖縄政策が作れるのかが大切です」
県知事が代わろうが、安倍政権の辺野古移転の強硬姿勢に、今のところブレはない。
「沖縄は民意を示してきたのに、国は踏みつぶしてきた」
と前出・前泊教授。そして、
「辺野古NOを実現できるよう、揺さぶりをかけられても屈しないような政治が行われることを願っています」
辺野古をめぐっては、県議会で県民投票条例案が審議されている。10月中旬に可決されれば、6か月以内に実施される。前出・大谷氏は、
「県民投票は法的な効力はありませんが、結果次第では政府に圧力をかけられるという意義があります」
辺野古の海を、自分たちの代で食いつぶすことが許されるのか。
翁長雄志前知事が命を賭して実施した“埋め立て撤回”の決定は、重い。