顧客と接する飲食やタクシー、ホテルなどのサービス業で働く人が、不条理な暴言、クレーム、脅迫、拘束、暴力行為を受けている実態が先日、明らかになった。
外食や流通・小売業などの労働組合が加盟する産別労組『UAゼンセン』は今年の2月から5月にかけ、飲食店や医療機関などで働く従業員にアンケートを実施。業務中に顧客から迷惑行為を受けたことがあるか? という問いには、4人に3人、約73・8%が「ある」と回答した。
言葉を失う悪質クレームの実態
暴言は日常茶飯事で、「介護サービス中に体形について何回も何回も口にされる。『太っている。汗かきなのにやせないのがフシギ』」(介護職)といった嫌みっぽいものから、「町であったらぶっ殺すぞ」「殺したろか」といった恫喝まがいのものまで。
飲食店では「サラダバーに小バエが飛んでいたという理由で6時間以上拘束」「生本マグロをおすすめしたら、生が好き、お姉ちゃんはマグロか?と言われた」「ゴキブリを踏みつけたからふけ! と言われ、はいつくばってゴキブリを取り、そのまま土下座して謝れ! と言われゴキブリを持ったまま土下座した」
「店内にハエがいることを指摘され、席の移動を提案。1時間以上説教、3発殴られ、タバコの火を手首につけられる」などなど。ゲームセンターでは「200円使っても景品が取れない! 詐欺だ」と警察ざたになったという。
モラルのリミッターがはずれてしまっているのか、やり場のない不満を店員にぶちまけているのか、ちょっとしたミスで相手をつるし上げるクレーマーが増殖している。
週刊女性の取材でも、リアルなクレームが明らかになった。
証券会社に勤務する40代の女性は、数年前の出来事が今も耳に残っているという。
「70代の男性顧客に電話をしたら“今、トイレにいるんだよ”と言うので“かけなおしますよ”って伝えたんです。返答がなくて、勝手に切るわけにもいかないので受話器を持っていたら、おしっこの排泄音が聞こえたんです。あれは気持ち悪かったですね」
「ひと晩どう?」とニヤリ
セクハラという概念がわからない高齢者が多く入院している病院となると、
「暴言は日常茶飯事。“殺してやる”“警察に突き出してやる”“訴えてやる”“お前の顔は2度と見たくねえ”、中には風俗店と勘違いし“チェンジ”って担当看護師の変更を要求する人もいます」
そう報告するのは総合病院の整形外科に勤務する女性看護師(30)。可愛らしいタイプの看護師は、エロジジイのかっこうの餌食になっているようで、こう報告を続ける。
「患者さんのベッドに様子を見に行ったら、おじいちゃんほどの年齢の男性がパンツを下ろしていて、男性器を見せつけられて“ひと晩どう?”ってニヤリとされたり、手を急につかまれて股間に持っていかれたりいろいろあります。
手を握るところから始まって、徐々にほかのところに移動させて、胸やお尻を触る……。注意をすると患者さんは“手が滑っちゃった”とか言ってね。“何でそんなことをするの”と怒鳴ったり“むかつく”と怒る看護師もいます」
退院後に気に入った看護師にプレゼントを届ける元患者、男性看護師につきまとう女性患者……病人だからといっておとなしいわけではない。
30代の男性コンビニ店員は、“説教被害”が今も忘れられない。深夜だったという。
「キャバクラで働く20代の女性にお釣りを渡したんですが、レシートにのせて渡したのが気に入らなかったようで、“レシートを下敷きにすんじゃねぇ”とすごい剣幕で怒り始めたんです。それから、2時間説教です。
こっちは言い返せませんから、ひたすら謝りながら聞きましたね。途中から、品ぞろえが悪いとか店の不満に変わっていって……あれには参りました」
酒が入ることで、客のクレーム度がアップするケースがあるというのは、飲食店の30代女性従業員だ。
「30代男性で最初はいいお客さんだったんです。それがほかのお客さんと話していると “俺のことを邪魔者扱いする”って何度も言うんです。いけないと思い私が話しかけても無視。だんだんムカついてきて、最終的に接客するのが生理的に無理になりました」
オーナーからは「接客が悪い」と責められ、女性従業員は店と客の板挟みになり、つらい時期を過ごしたという。
普通の人なら怒らないこと、笑って許せることでも、中には許せない人もいる。どんな瞬間に怒りのスイッチが入るのかは人それぞれ。
「スーパーのレジでヨーグルトを横向きに袋に入れようとしたレジ係に説教をして、レジに行列ができてもおかまいなし」(50代主婦)といった悪質なクレーム現場に出くわすことも珍しいことではない。
金さえ払えば客という歪んだ考えが、犯罪的なクレーマーを生む。いろんな場面で寛容さがなくなっている。