「アニメの経験はあったんですが、洋画の日本語吹き替えは初めて。主人公のジョナサンおじさんを演じるジャック・ブラックさんは大好きな俳優さんだし、挑戦してみようかなと思いました」
数々の作品に出演し、唯一無二の強烈な印象を残す名バイプレーヤーの佐藤二朗。彼が、実写映画の吹き替えに初挑戦したのが『ルイスと不思議の時計』。巨匠スティーヴン・スピルバーグが設立し、『E.T.』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』『ジュラシック・ワールド』など大ヒット作品を生み出してきた製作会社が手がけるマジックファンタジー作品だ。
「この作品で僕的にいいなと思うのが、主人公が3人とも、どこかに負を抱えているというか、心に傷がある少年ルイスだったり、過去に非常につらい思い出がある美人エリート魔女だったり、基本ポンコツの魔術師だったり、みんなダメダメなところがあるところ。そんな3人が大きな敵に立ち向かっていく作品なので、グッとくるところもあるし、笑えるところもあるんです」
今回、佐藤が吹き替えを担当したのが、魔法使いのジョナサン。そのジョナサンとの共通点は“ポンコツなところ”だという。
「僕は、日本でトップ20に入るくらいのポンコツだと思います。嫁からは小3病と言われ、精神年齢は8歳くらいですし、暑さに弱く、寒さにも弱いという面倒な体質で、静電気に弱く、高いところに弱く、方向音痴で、地図が読めません。
あと、心霊写真とかものすっごく怖いです。遊園地でもジェットコースター無理、あとちょっと酔いやすいので、コーヒーカップみたいな乗り物もダメ。怖いからお化け屋敷も無理。“何しに遊園地に来たの?”と、よく言われる、そのくらい弱いものだらけです」
若い俳優たちが、思わずあんぐり
6歳の男の子の父親でもある佐藤。息子さんと遊園地に行くことは?
「今のところ、行ったことがないですね。近く行きたいですけど。でも、何も乗れるものがない……」
今作は、両親を事故で亡くし、ジョナサンおじさんと暮らすことになった10歳の少年ルイスが、奇妙な屋敷に鳴り響く時計の秘密を解き明かしていくストーリー。
ルイスに対するジョナサンのように、佐藤にとって一風変わって映ったおじさんと出会った経験があるかを聞くと、
「いたかな? でも、ある人の、はっきり言えば山田孝之の名言で“思いついたダジャレを口に出さないと気がすまなくなったら、おじさん”という、もう真理だなと思う言葉があるんですけど、まさに僕がそうなんです。思いついたら、黙ってはいられない。
以前、若い俳優たちがインスタグラムの話をしているときに無理やりカットインして“えっ、なに? インスタントラーメン?”ってちょっと、普通じゃ考えられないような低クオリティーのダジャレを言ったら、人ってこんなにあんぐりできるのかっていうくらい、若い俳優たちがあんぐりしていて。その姿さえ、楽しい。若い人から浴びせられる蔑んだ目も楽しむ、という典型的なおじさんです」
佐藤自身こそが、印象的なおじさんだったよう。
息子さんとの日常を綴ったツイッターが話題となり、今や100万人以上のフォロワーがいる佐藤。今後、インスタにも進出する?
「インスタは写真がメインでしょ? 僕は、あくまでも書くのがメインだから、インスタをやることはないと思います。ツイッターも最初は出演作品を宣伝する目的から。そのうちに息子や嫁のことを書くようになって。今年、息子が小学校1年生に上がった時点で、嫁に“もう書くな”って言われて息子のことは書かなくなってきたんですけど。
先輩俳優にも言われて、今もそのとおりだと思ってるのは“俳優は、演じることに没頭して、ほかのことはやらないほうがいい”ということ。プライベートを明かさないほうがミステリアスで、硬派だし、カッコいい。そのほうが絶対にいいと思いつつも、どうしても僕の中に演じることと全くの別腹の、書くことへの欲求がある。
本当におこがましいからプロの脚本家の前では言わないんだけど、地味に深夜ドラマの脚本とかを書いたりしてて。俳優としては、ありがたいことにいろいろとお話をいただくので、演じる欲求はある程度は満たされるんですけど、書くことは、そんなにオファーが来ないので」
今はつぶやくのを控えているという息子さんと、映画のような「魔法が使えたら」なんて会話をする機会があるのかを聞くと、
「……ないですね。申し訳ない。でも、きっと息子が望むのは、お父さんとお母さんが怒らない魔法でしょうね。この間、ツイッターにも書いたんですけど、息子が《こんご、おかあさんは、ぼくのやることにはいっさいおこらない。おとうさんのやることには、ぜんぶおこる》。という謎のルールを作って。なんで、そんなこと急に言い出したのか、まったく理由がわからない。
自分なら、そうですね。息子には“お父さんの堪忍袋は3つしかないんで、3回目に言うこと聞かなかったら怒るよ”って言っているんですけど、ごまかすんですよ。3回目だってわかっているのに、“まだ、2回目だよ~”って。3回目でちゃんと息子が言うこと聞く魔法が欲しい。あと、二日酔いにならない魔法もいいなと思ったけど、それだと際限なく飲んじゃうね。それはいかんね」
佐藤二朗が求められる理由
この取材のとき、佐藤は初のミュージカル『シティ・オブ・エンジェルズ』に挑戦していた。さらに10月からは、特番からゴールデンのレギュラー番組へと進出した、フジテレビ系のクイズ番組『99人の壁』のMCも務める。引っぱりだこの今をどう感じているのか?
「う~ん、僕らは人から請われているときが花だと思うので。なんでオレにクイズ番組のMC? とか、ミュージカル? って思うけども、請われている以上、非常にありがたいし、新しいこともやってみようかなと」
なぜ、これほどまでに世の中から求められているのか自己分析をお願いすると、
「あまり深く考えないです。でもまぁ、すごい人って“ああ、この人に比べたら私はこうで……”とか劣等感を抱かせるけど、たぶん僕は人に劣等感を感じさせないんじゃないですかね。そのへんに親しみが湧くのかな。ただ、お芝居ほどプロがアマに負ける世界ってないんですよ。ゴルフも野球も、スポーツだと絶対にアマチュアはプロに勝てないでしょ。芝居くらいですよ、30年のベテランでも、ワンシーンで子どもとか動物に食われるって言われるのは。だから、面白いっていうのもあるけど。
あえて言わせてもらえば、アマチュアでは絶対に届かないような、松尾スズキさんはこれを“彼岸”と言ったんだけど、向こう側にいたいとは思いますけどね。普段はただの精神年齢8歳の赤ちょうちん好きのおやじなんだけど、芝居に対してだけは特別でありたい。今作でケイト・ブランシェットさんが演じたエリート魔女の吹き替えをやっている宮沢りえさんも言ってたけど、芝居に対してだけは、誠実に、真摯でありたいですね」
吹き替えを終えて
「同業者なので、ジャック・ブラックさんがこういうつもりでお芝居をしているんだろうなとか、こういうところが芝居の肝だなとわかったりする。そこをちゃんと日本のみなさんに伝えたいと思ってやりました。わかるからこそ、プレッシャーでもありましたけど。実は、まだ完成した作品を見ていないんです。息子と見に行くのを非常に楽しみにしています」
<作品情報>
『ルイスと不思議の時計』
10月12日(金)全国ロードショー
配給:東宝東和