「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。ライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「良いヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
三田佳子

第8回 三田佳子

 女優・三田佳子(以下、ヨシコ)の38歳になる次男が、覚せい剤取締法違反で逮捕されました。次男の逮捕はこれが初めてではありません。最初の逮捕は、高校生の時(未成年、かつ初犯なので保護観察処分)、2度目は大学生の頃、3度目は2007年、そして今回と、10代に薬物と出会ってしまい、抜け切れないまま現在に至っていることがわかります。

 覚せい剤を一度でも使うと、脳はその快感を覚えてしまうそうです。人間には食欲、睡眠欲、性欲という三大欲求がありますが、覚せい剤を使ったときの快感はそれよりも大きく、脳に直接作用するそうです。薬物を使わなくなると脳はパニック状態を起こし、それが再使用の欲求につながってしまうそうです。

 クスリをやめられないのは意志の問題ではなく、依存症という病気のせい。なので、覚せい剤の再犯率は高いわけですが、次男についての報道を見ていると、息子へ与えていた小遣いの金額ばかりが書かれています。子どもに高額の小遣いを渡したヤバい母親、だから息子がこんなことになったと言いたいのでしょうが、問題はそこなのかと首を傾げてしまうのです。

 だって、スターの家庭なんだから、庶民と金銭感覚が違うのはしょうがないのでは?

 スターの家庭というのは、往々にして経済感覚が違うようです。

 読売ジャイアンツ終身名誉監督・長嶋茂雄氏の息子、タレントの長嶋一茂は『今夜くらべてみました』(日本テレビ系)で、「小学生の時、もらったお年玉のトータルは50万円だった」と話していましたし、高校時代、後輩に食事をおごるための費用として、常にお母さんが預金通帳の残高が100万円になるように振り込んでくれていたなど、庶民の感覚からすると仰天エピソードは多い。

 故・松方弘樹さんと女優・仁科亜季子の長男で、俳優の仁科克基も『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)で、月の小遣いは100万円で、足りなくなるとお父さんの財布からお金を抜いていたと話していました。

母親なんだから、仕事をセーブして家にいるべき?

 総じてスターの家庭は、子どもに庶民の常識とはかけ離れたお金を与えているようですが、長嶋家、仁科家とヨシコの違いは、ヨシコが働いていてトップ女優だったこと。

 大河ドラマの主役、数々のCMに出演、『NHK紅白歌合戦』で司会を務めるなど、ヨシコの全盛期の活躍ぶりはすさまじく、高額納税者ランキング4年連続第1位と、まさに「日本一の女優」でした。これだけ仕事をしていたら、そりゃ、子どもと接する機会は減るのは当たり前です。

 ヨシコとて、何もしなかったわけではありません。自分が留守がちな分、子どもを寂しくさせないようにしようと思ったのでしょう。次男が最初に逮捕された時、『週刊文春』で、ヨシコの実母が一緒に住み込み、お手伝いさんもいて子どもたちの面倒を見ていたという記事を読んだ覚えがあります。

 しかし、思春期を迎えた男の子数人が家に出入りしていたとして、腕力と体格の成長いちじるしい彼らを、非力なおばあちゃんが叱ったら、彼らは素直に言うことを聞くと思いますか? 雇われている身の家政婦さんが「最近、次男の素行が悪い」と子どもの悪行をヨシコに言いつけると思いますか? どちらもNOでしょう。母親と息子、父親と娘のように異性の親子関係では接する際に、おのずと限界があります。こういう時こそ、男親の出番ではないでしょうか。

 母親なんだから、仕事をセーブして家にいるべきだと言う人もいるでしょう。しかし、女優のようにオファーがあってはじめて成立する仕事で、かつヨシコのように売れっ子の場合は何年も前からスケジュールが決まっていて、そう簡単に動かせるものではないでしょう。ヨシコの夫はNHKのプロデューサーだったわけですから、そういう業界の掟をよく知っているはず。それなら、協力してくれよと言いたい。家庭の不祥事で、いつも母親だけが責められるのは、どうしてなのでしょうか。

 考えてみると、次男も気の毒な部分がないとは言えないのです。なぜなら、世間知らずに育ってしまった上に、ヨシコというブランドが更生をはばんでいる可能性があるのですから。

 上述したとおり、覚せい剤は再犯率が非常に高い。NHK『おかあさんといっしょ』の歌のお兄さんだった杉田あきひろが覚せい剤取締法違反で逮捕されていますが、『AbemaPrime』(AbemaTV)に出演した際、覚せい剤という名前を聞くと「脳からよだれが出る感じ」と話しています。それくらい、薬物の快感は強く脳に刷り込まれているのでしょう。悪い人からすると、背後にヨシコが控えている次男は、薬物を売りつければ金づるになることが確実の絶好なカモで、狙われていると見ることもできます。次男は更生に関しては一般人の何倍ものハンディを背負っているともいえるのではないでしょうか。

昭和の高度成長期で止まっている家族の価値観

 次男が逮捕されたのは、9月11日です。ヨシコが出演する『過保護のカホコ2018〜ラブ&ドリーム〜』(日本テレビ系)の放送予定日は9月19日で、この騒動の余波を受けてお蔵入りかと思われましたが、予定通り放送されました。すでに大女優として数々の代表作を持つヨシコですが、若い世代にとっては、カホコのおばあちゃんとして認知されているかもしれません。

 昨年放送された本編では、ホームドラマでありながら、しょうもない女性が複数登場します。娘の自立をはばむ過干渉な母、覚せい剤を使って子どもを捨てた母、他人に対し、愛情を持てないと感じるバツイチ女性。母親の愛は間違うこともある、母だから真人間になれるわけではない、女性だから愛情深いわけではないことを、うまくキャラ分散して描いていると思います。

 しかし、ヨシコ演じるばあばは医師に余命宣告されても、「じいじがかわいそうだから」という理由で夫に打ち明けることをしません。それを思いやりだと感じる人もいるでしょうが、大事な問題を打ち明けないのは、じいじを一人前の大人と認めていないからではないでしょうか。「男を家庭に介入させない」ことで女性の負担が増え、結果的に「家族を守れないオンナ」が生まれてしまうのです。

「オンナだったら、家族を守れ」「家族はオンナがまとめるもの」

 平成も終わろうとしているのに、家庭に関する価値観は昭和の高度成長期で止まっているのはどうしてなのでしょう。またヨシコが大女優の貫禄で、さらりと「家を守る、強く優しいオンナ」を演じてしまうものだから、「オンナとはそういうもの」というメッセージを視聴者は受け取ってしまう。

 絶頂期には「理想の母」とも言われたヨシコ。よき母を演じてしまったがために、そのイメージから逸脱すると叩かれる。女優というのは、つくづく因果な商売だと思わされるのでした。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。他に、男性向け恋愛本『確実にモテる世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。