海上自衛隊の軍艦旗である旭日旗

 今年に入ってから2度の南北首脳会談を実現させ、すっかり終戦ムードを醸し出している韓国。

 文在寅大統領は米朝首脳会談を“仲介”するなど、国際政治をリードしているようにもみえる。イギリスのブックメーカーの「ナイサーオッズ」や「ラドブロークス」は、北朝鮮の金正恩委員長と文大統領のノーベル平和賞共同受賞を最有力と予想するに至った。

 しかしながら念願のノーベル平和賞受賞は実現しなかった。しかも国内では大統領支持率は就任後初めて50%を割るなどガタ落ちだ。

 そうした不調を外交で挽回しようとしているのだろうか。目下のところ、同国は日本に対する風当たりを特に強めている。

2015年に作った元慰安婦支援の財団が解体へ

 まずは慰安婦財団の事実上の解体宣言だ。日韓両国は2015年に慰安婦問題について「最終的かつ不可逆的に解決」と表明。韓国政府が元慰安婦支援の「和解・癒やし財団」を設立し、日本政府が10億円拠出した。

 そのうちすでに7割は元慰安婦に支給済みだが、文政権は日本の拠出金を「韓国政府が肩代わりする」と宙に浮かせてしまう。そればかりではない。この財団を勝手に解散しようとしているのだ。

 まずは9月25日にニューヨークで行われた日韓首脳会談で、文大統領が安倍晋三首相に財団の運営がうまくいかないために、「解決する必要がある」と解散をほのめかした。

 康京和外相も9月にベトナム・ハノイで開かれた日韓外相会談で、河野太郎外相に財団の年内解散を伝えたとされる。

 日本政府は西村康稔官房副長官が10月9日の会見でそうした事実を否定した。だが慰安婦問題を担当する陳善美女性家族相は10月11日、元慰安婦のための施設である「ナヌムの家」を訪問して4人の元慰安婦と懇談し、「解散」とは明言しなかったが、「財団をすみやかに処理する」と述べている。

 理由は韓国民の理解が得られないため、財団が正常に機能しないからというが、それは詭弁だろう。

 確かに「和解・癒やし財団」の理事の辞任劇など内部の混乱もあったようだが、前述したように元慰安婦の7割が見舞金を受給済みだ。これを阻止しようとするのは、日韓両国を分断する慰安婦問題を永続化させようという意図がうかがえる。

 振り返ると、1995年に創設された「女性のためのアジア平和国民基金」が元慰安婦に「償い金」や「内閣総理大臣によるお詫びの手紙」を支給しようとしたが、これらを受け取った元慰安婦たちが支援団体から強く弾劾されたことがある。

そうした団体は反日をあおることを目的としているが、いわば「慰安婦問題」や「歴史認識問題」を“ビジネスモデル”として展開しているため問題の根が深い。

あえて竹島に上陸、敵愾心を丸出しに

 日韓に横たわるのは慰安婦問題ばかりではない。

 韓国国会の教育委員会は10月10日、李燦烈教育委員長ら10名余りが国政監査のために10月22日に竹島に上陸することを発表した。

 今回の竹島上陸は政府関係者として2012年8月10日に初めて上陸した李明博大統領(当時)から数えて12例目に当たる。文大統領も2016年7月に上陸した。

 李委員長らは韓国教育部と反日で知られる東北アジア歴史財団から日本の教科書問題などについて説明を受けた後で竹島に向かう予定で、その政治的な意図は見え見えだ。

 ちなみに韓国教員団体総連合会は10月25日を「独島の日」とし、その前後1週間を「独島週間」に指定。全国的な運動に発展させるための竹島アピールに余念がないが、この時期の竹島上陸はこうした運動に乗じようとするものだろう。

 これに対して日本政府は早速、東京で長尾成敏北東アジア第一課長から呉盛鐸在京韓国大使館参事官に対し、ソウルで水嶋光一在韓国日本国大使館総括公使から金容吉韓国外交部東北アジア局長に対し、さらに北京で田村政美アジア大洋州局参事官から崔鳳圭外交部東北アジア局審議官に抗議し、計画の中止を求めた。

 これに対して李委員長が所属する「正しい未来党」(野党第2党)は「日本は独島の草、石、ひとつもむやみに触ることはできない」と過剰に反応。

「あきれる日本の反応は後にして堂々と独島を訪問し、当然すべきわれわれの領土考証を実施して守備隊の激励活動を展開する」と敵愾心を丸出しにしている。

 10月11日に韓国・済州島で行われた国際観艦式で、日本の海上自衛隊の旭日旗掲揚を拒否された問題も忘れてはならない。韓国国防省は艦船の中央マストに韓国旗と国旗を掲揚することを要請したが、海上自衛隊は国内法で旭日旗の掲揚が義務付けられるため、派遣を断念している。

 ところが国旗以外の掲揚を禁止したはずの韓国海軍自身が、李舜臣旗を使用していた。

 李舜臣は文禄の役と慶長の役で豊臣秀吉の軍と戦った韓国の英雄で、「抗日」のシンボルとなっている。その旗がたなびく艦船上で文大統領は「韓国海軍は李舜臣将軍の精神を受け継いだ最強の海軍だ」と演説をぶったのだ。

 また参加国の中でもオーストラリア、ブルネイ、カナダ、インド、ロシア、シンガポール、タイの艦船が韓国が禁じた軍艦旗を掲揚した。日本に対してだけ締め付けが厳しかった疑惑は払拭できない。

一方で、韓国は日本に大きな期待を寄せている

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 その一方で、文大統領が当初延長に消極的だったGSOMIA(軍事情報包括保護協定)に基づいて、韓国が日本に寄せる期待は大きいことも事実だ。9月には韓国海軍が海上自衛隊に新型潜水艦の技術や運用に関する情報提供を極秘に求めたという。

 こうした隣人にどう対処すべきか。日本政府は長年韓国を「自由、民主主義、基本的人権などの基本的価値と地域の平和と安定の確保などの利益を共有する最も重要な隣国」として接し、その文言は2014年まで外交青書に記されていた。

 1998年には小渕恵三首相(当時)と金大中大統領(当時)が日韓共同宣言を採択し、日韓間に存在するすべての問題について解決に至らないまでも、両国が親善を求めて近寄ろうという姿勢を見せた。

 そうした風潮に韓流ブームが重なり、21世紀に入った当初は日韓関係は極めて良好だったといえる。

 しかし日韓共同宣言から20周年に当たる今年、そうした雰囲気はまるでない。東アジアは金委員長と北朝鮮にシンパシーを寄せる文大統領を中心に動いているようにみえることに日本は警戒しなくてはいけない。


安積 明子(あづみ あきこ)◎ジャーナリスト 兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。1994年国会議員政策担当秘書資格試験合格。参院議員の政策担当秘書として勤務の後、各媒体でコラムを執筆し、テレビ・ラジオで政治についても解説。取材の対象は自公から共産党まで幅広く、フリーランスにも開放されている金曜日午後の官房長官会見には必ず参加する。2016年に『野党共闘(泣)。』、2017年12月には『"小池"にはまって、さあ大変!「希望の党」の凋落と突然の代表辞任』(以上ワニブックスPLUS新書)を上梓。