「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。ライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「良いヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
上原多香子

第9回 上原多香子

 2013年に放送されたドラマ『半沢直樹』(TBS系)をご覧になったことがありますか? 初回から高視聴率を記録しつづけ、最終話は42.2%という驚異の数字をたたき出した伝説のドラマです。

 ご覧になっていない方のために、超簡単に説明しますと、銀行員・半沢直樹は上層部の派閥争いに巻き込まれ、融資を焦げ付かせた責任をなすりつけられそうになります。もし回収できなければ、責任を取って出向させられてしまいます。半沢は周囲の助けを借りて、自分を追い込んだ黒幕が大和田常務であることをつきとめ、復讐(ふくしゅう)を挑むというストーリーです。「やられたら、やり返す。倍返しだ!」という半沢の決めセリフは話題になりました。

 銀行という、特定の職種のドラマがこれだけの高視聴率をたたき出したのは、言い換えれば、視聴者が「悔しい思いをしている」「復讐したい人がいる」ということではないでしょうか。ドラマでは鮮やかな復讐劇が繰り広げられますが、現実の世界ではそうはいかないものです。

 しかし、やり方によっては、相手に確実にダメージを与えるという意味の復讐がないこともないのです。

 2015年に起きた東海道新幹線における70代男性の焼身自殺を覚えていますか? 新幹線という密室で、灯油をかぶって男性が自らに火をつけ死亡、巻き添えになった乗客の女性1人が死亡、28人が重軽傷を負った痛ましい事件です。

『週刊朝日』(朝日新聞出版)によると、この男性は年金の少なさを不満に思っており、「区役所に縄を持っていって首をつってやる」と周囲に話していたそうです。命を絶ったことを見せつけることで、役所の人の罪悪感と不快感をあおるという“あてつけ”でしょう。つまり、自殺というのは一種の復讐と考えることができるのです。

 それでは、復讐としての自殺は本当に効果的なのでしょうか?

TENNさんの復讐は成功したのか?

 2014年、ET-KINGのTENNさんが、車の中で首をつって亡くなりました。当初は、当時の妻であった元SPEED・上原多香子との収入格差が原因と言われましたが、首をひねったのは私だけではないはず。若い上原の将来を思い、TENNさんのご遺族が遺骨を引き取ったことを「美しい姑の愛」と『女性セブン』(小学館)が報じた記事を読んだ覚えがあります。

 しかし、2017年に事態は思わぬ展開を見せます。TENNさんのご遺族が、自死の真相を『女性セブン』に打ち明けたのです。上原が共演者である俳優と不倫をしており、TENNさんの携帯には、上原が妻子ある俳優とキスをしている写真、肉体関係をほのめかすLINEのやりとりといった「不倫の証拠」が残されていたそうなのです。また、ご遺族が公開したTENNさんの遺書には、

《多香子へ/ありがとう そして さようなら/子供が出来ない体でごめんね/本当に本当にごめんなさい。/幸せだった分だけ、未来が怖いから 何も無さそうだから/許してください。/僕の分まで幸せになってください。/(中略)次は裏切ったらあかんよ。お酒は少しひかえないとあかんよ。/嘘はついたらあかんよ。/多分、僕の事を恨むでしょう? でもいつかは許してくださいね/最後はいろいろと重荷になるけど…ごめんなさい。/(後略)》

 と書かれています。恨まれることはわかっていて、あえて恨まれる道を選ぶあたりに、TENNさんの愛憎が表れているように感じます。『女性セブン』によると、ご遺族は当初、TENNさんのために事実を公開することを控えており、上原に慰謝料を要求することを考えていたそうですが(上原も分割での支払いに同意)、上原は恋人ができたらすぐに籍を抜こうとしたり、連絡もとれなくなるなど不誠実な態度だったため納得がいかず、公表することにしたそうです。

『女性セブン』の報道を受けて、上原は夫を死に追いやったヤバい女として、バッシングを浴び、芸能活動休止に追い込まれます。それでは、この復讐は成功したのでしょうか?

 上原は芸能活動こそしていませんが、演出家のコウカズヤ氏と同棲が報じられました。今年の10月には『FLASH』(光文社)が上原の妊婦姿を掲載し、それを受けてコウ氏が再婚と妊娠を公式にアナウンスしました。周囲がどれだけバッシングしようと、上原を愛する男性はいますし、新しい命を迎えようとしている。今すぐは無理でしょうが、芸能界復帰も絶対ないとは言い切れないでしょう。

 恋人や配偶者に自殺されても案外けろっとしているのは、上原に限ったことではありません。歌手・藤あや子、女優・荻野目慶子も不倫相手との別れ話がこじれて、相手の男性が女性の自宅で首をつるという事件に巻き込まれています。しかし、二人ともそれからバリバリ仕事をし、再婚もしています。

 これは決して偶然ではないと私は思っています。

誰もが持っている「上原的ヤベぇ部分」

 人間に与えられた最大の能力は、忘れることです。人は忘れる能力を持つために仕事でミスをしたりするわけですが、忘れる能力があるからこそ、仕事の失敗や失恋の痛みをのりこえて生きていけるのです。往々にして、傷つけられた側は忘れることができないのに、傷つけた側はけろっとしているということはよくあることです。

 具体例で考えてみましょう。自分をフッた人、暴言を吐かれて疎遠になった同性の友達、パワハラめいた指示をしてくる先輩がいたら、何年経ってもそう簡単に忘れることはできないでしょう。しかし、自分が傷つけた「誰か」について、思い出すことはめったにないのではないでしょうか。私たちの誰もが「加害者は忘れてしまう」という上原的ヤベぇ部分を持っているのです。

 加害者は忘れるものだから、上原のしたことが許されると言いたいのではありません。命を絶つ復讐というのは、加害者に有利で、被害者のほうが損ではないかと思うのです。

 それでは、相手に敗北感を味わせる復讐とは何かといえば、被害者が生きて自分の幸せな姿を相手(加害者)に知らしめることではないでしょうか。そのためには、復讐する側、される側の双方が健康に生きていなければなりません。復讐こそ、正々堂々と公平な条件で成し遂げなくてはいけないのです。

 生きているということは、挽回のチャンスを持つということです。生きているかぎり、やり直しはききますし、嫌なことを忘れることもできます。人生の中で誰でも一度くらい乗り越えられないほどの経験をすることはあると思いますが、それでも、やはり生き抜いてほしいと思うのでした。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に答えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。他に、男性向け恋愛本『確実にモテる世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」。