杉本彩

「日本のペット流通の最大の問題は、すべて生体展示販売に尽きるといえます。これだけ店頭で子犬子猫を買えるペットショップが街にあって、ビジネスが巨大化している国は珍しいです」

 こう切り出したのは、公益財団法人動物環境・福祉協会Evaを設立して動物愛護活動に取り組む女優の杉本彩。

「ペットブームは、さまざまな虐待を呼び起こしています。それは経済効果のみを求めて、動物を商品としか扱っていないから。そこに問題の根源がありますね」

小さなゲージに閉じ込め糞尿もほったらかし

 Evaの事務局には、さまざまなペットショップから内部告発の情報や写真が送られてくる。

「告発されたペットショップのバックヤードの悲惨さに驚きます。犬猫が段ボールに入れられたままだったり、身動きもできないような小さなケージに入れっぱなしで、糞尿もほったらかしだったり。命としての扱いなんてまったくしていない。病気になっても獣医にも見せない。それが店舗の壁1枚隔てたバックヤードで普通に起きているんです」

 海外ではどうなっているのだろうか。

「もちろん国や州によって違いますが、繰り返し繁殖させる場合、メスが最後に出産したときから1年以上、空けるとか、具体的なケージなどの広さや高さをペットショップの許可要件にしていたり。

 アメリカでは保護された動物以外はペットショップで販売を禁止している州もある。最低限の法律を守りながらやってるし、厳しい規制がかかっているんです

 一方、諸外国のような規制のない日本。ブームとなると、さらなる悲劇が巻き起こる。

「経済効果の話題に乗っかってメディアがブームを広げるから消費者がそれに踊らされてしまう。犬や猫の場合、昔からいろいろな種がブームの犠牲になってきました。ブームが去ってしまうと、売れ残ってしまった、たくさんの同じ種が殺処分になったり、遺棄されたり……。消費期限がとても短いんです」

“引き取り屋”による新たな虐待も発生

 現在、動物愛護管理法は、「犬や猫などの愛護動物をみだりに殺傷した者は2年以下の懲役または200万円以下の罰金など」と定められているのだが、

「検挙数は8年前の倍以上になっているとはいえ、去年はたったの68件。'17年に起きた埼玉の6匹の猫虐待殺傷でも執行猶予つきの判決でした。

 動物愛護法が改正されて、保健所は業者からの動物の引き取りを拒否できるようになりましたが、受け皿を失って困っている業者を狙った“引き取り屋”というビジネスが生まれ、新たな虐待も起こっています

 1匹あたり数千円~数万円程度の費用を受け取り、売れる犬猫は自分の店で転売し、繁殖能力が残っていれば子犬子猫を産ませて販売する。それ以外の犬猫は世話をすることもなく放置……。法の目をかいくぐり、悪質ビジネスがまかり通っている。

 今年は5年に1度の動物愛護管理法の見直し年にあたる。法改正に向けて杉本たちも積極的な活動を展開している。

「とにかく厳格な法律に変えなければいけない。人のモラルってそれほど信用できるものじゃないですから。やっぱり法律が大切なんですよ」

 活動の中で国会議員と向き合うことも少なくない。

「法律が変わらないのは、利権があるから。動物愛護法は議員立法だから、どこかの先生がおいしい思いをしているのでしょう。結局、議員立法って最終的にはどれだけ根回しできるかなんです。

 超党派議員連盟の先生方はみなさんとても頑張っていて、中には各党協議になったら自分が党内の意見をまとめるよ、と言ってくださる先生もいますが、各条文案について全党一致となるかはなかなか難しいところです」

 さらに都道府県の各首長にも働きかけている。

「今後は地方から変わってもらって、どんどん意識が高くなれば、最終的に国がいちばん遅れていると証明されます。国がやらざるをえない、そういう流れにしていきたいと考えています。

 おそらくとても時間がかかるし、想像を超える大変な作業でしょう。けれども、ずっとやり続けていたら、いつかは必ず何かがフッと変わるときがある。そう信じて自分を励ましながら取り組んでいます」


《PROFILE》
杉本彩 ◎女優、歌手、小説家など多方面で活動しながら、動物愛護活動として公益財団法人動物環境・福祉協会Evaの理事長を務める