最近よく耳にするようになった、保護犬、保護猫という言葉。遺棄、飼育放棄された犬や猫の多くは、各自治体の動物愛護相談センター(保健所)で保護され、引き取り手が現れない場合、殺処分されてしまう。その数は、毎年、10数万頭にもおよぶ。
愛情よりもシステムが足りない
これまでも多くのボランティア団体や個人が、引き取り、里親を見つける地道な努力を積み重ねてきた。彼らの願いは“殺処分ゼロ”。しかし、なかなか実現は難しく、殺処分される頭数は年々減りつつあるとはいえ、達成にはほど遠い状況が依然として続いている。
「殺処分ゼロの実現に足りないのは、愛情ではなくシステムだったんです」
そう語るのは、保護団体NPO法人『東京キャットガーディアン』代表の山本葉子さんだ。
山本さんらは、希望者(里親)が保護猫を譲り受ける新しい流通ルート『保護猫カフェ』を社会に定着させようと活動をしてきた。
東京・大塚に、『東京キャットガーディアン』が運営する保護猫のための“シェルター”がある。保護猫カフェも備えられたビルの5階を訪れると、いくつかの部屋に仕切られ、中には猫用のケージがズラリ。猫たちは部屋の中で気ままに遊んでいる。
現在、ここには100頭ほどの猫たちが保護・飼育されていて、癒しを求めてやってくる猫好きの人たちの姿が絶えることはない。
山本さんが言う。
「活動開始から10年間で、譲渡総数は6500頭を超えました。年間平均600から700頭、月だと60頭くらい。譲渡される猫は子猫が人気なので、愛護センターから子猫がたくさん持ち込まれると譲渡数は増えますね」
飼い主だった高齢者が亡くなり、行き場をなくしたケースなども増えているという。
「猫の保護に特化しているのは、活動拠点が東京で地域的に野犬がほとんどいないうえ、地域猫が多いこと。殺処分のなかでも猫が大多数を占めていることからです」
保護猫を預かるルートは2つ。1つは自治体の動物愛護センターから。このルートが大部分を占め、もう1つは民間からとなる。
「普通の人たちが今日拾っちゃったとか、地域猫で困っているとかで持ち込まれます。5年目くらいから子猫だけを無償で引き受けるようになりました」
「この仕事は“物流”」
山本さんらの団体で保護・飼育できるのは最大450頭。常時300頭以上が大塚のほか、2か所のシェルターで飼育されている。
ここにいる保護猫は、すべて不妊・去勢手術が施され、ワクチン接種、ウイルスチェックなどがすんでいる。そのために、不妊・去勢手術専門の動物病院も運営しているという。
「私は、この仕事は“物流”だと思っているんです。鮮度を落とさず、感染症を出さずに消費者の前にきれいに並べる。そのためにやらなきゃいけないことは、まず病院だったのです」
保護猫たちの里親になるには、どうしたらいいのだろう。
「ホームページにある『里親さんの条件』を読んで、それに同意してもらえなければ里親にはなれません。同意しても断るケースもあるくらい面談は厳しいんです」
月に100件ほどの面談があるが、成約するのは約6割。4割は断るか、里親希望者の側が辞退するのだという。
「室内飼育・終生飼育が大前提。なのに、外で飼うつもりの方がけっこう多いんです。“家の中だけなんてかわいそうじゃないか!”って言われることも多い。でも、外に出したら遺棄したことになってしまうし、迷子になればノラ猫です。地域猫とケンカもするでしょうから危険極まりない。こちらとしては丁重にお断りするしかないのです」
面談を通過すると、いよいよ猫たちとお見合い。通常は、保護猫カフェの中から選ぶのだが、ホームセンターなどに出向いた車に積んだ猫たちの中から気に入った猫を選ぶ移動譲渡会も開催されている。
現在、注目を集めているのが『猫付きマンション』、『猫付きシェアハウス』の事業だ。
「マンションの対応物件は現在、80戸くらい。各部屋に1頭ずつ成猫がいます。単身者の入居が多いですね。シェアハウスは、多頭飼育崩壊などで行き場をなくした成猫の受け皿として始めました。入居待ちが出るほど希望者が集まっています。だから大家さんはホクホクなんですが、ポンポン増やせないんですよ。立地の悪い所は絶対、埋まらないので」
今後は、不動産業も手がけると山本さんは言う。
「宅建を取得したスタッフも採用して、具体的に進み始めています。私は、この仕事をソーシャルビジネス(ビジネスを通じて社会問題の解決を目指す事業)だと思っています。怖さもありますよ。常時300頭以上の保護猫を飼育・管理しているわけですから。
私が倒れてしまったら、歴史に残る多頭飼育崩壊になってしまう(笑)。別に“いいこと”をしているという意識はありません。必要とされているのに、これまで事業化されなかったことに、仕事として取り組んでいるのです」
《PROFILE》
山本葉子さん ◎NPO法人『東京キャットガーディアン』代表。東京・大塚に猫カフェスペースを併設した、開放型シェルターを展開している
保護猫譲渡会に密着
保護猫を救う取り組みのひとつ、『保護猫譲渡会』に週刊女性が密着。ここからは、譲渡会の様子をお伝えしたい。
埼玉県川口市にあるホームセンター。園芸用品や季節の花々が並ぶ敷地内の一角に、黄色の車が駐車している。各地で移動譲渡を行う東京キャットガーディアンの『幸せの黄色い車』だ。
車の周りのテントでは、オリジナルのカレンダーやトートバッグ、缶バッジのほか、キャットフードや猫砂も販売されている。
車の側面には、猫たちが入ったケージを展示。この日は、約10頭の子猫が連れてこられていた。ケージのアクリル板には、その猫の性別、色柄、収容日、推定月数、手術日がそれぞれ表示されている。
「ケージ内は温度調節がされていて、外の音も聞こえないようになっています」
そうスタッフの村上晃清さんが説明してくれた。
家族連れやカップルが立ち寄っては「見て、可愛い!」と声を上げる。
ここで猫にひと目惚れしたら、面談、引き取りもできるのだろうか。
「ホームページにある『里親さんの条件』を読んで申し込んでもらえば、面談できます」(村上さん)
この日は、事前申し込みしていた里親希望者の面談に立ち会うことができた。
川口市で生まれ育ったという市内在住の20代夫婦。マンション住まいで「ペット可」が明記された契約書も持参して来場した。村上さんがさまざまな質問をして、2人がそれに答えていく。聞くと、それぞれ実家で猫を飼っていたために、どうしても欲しくなったのだという。
「この子じゃなきゃダメだ」と思える子を
面談が終わり、村上さんのOKが出た。ここには10匹しかいないが、2人はさっそくケージの猫とご対面。
「妥協するのではなく、この子じゃなきゃダメだと思える子を見つけてください。見つからなければ大塚に行ってもいいので」
と村上さんが話しかける。
「この子、可愛い」「そうだね」「あ。こっちも」
何度も目移りしていたが、どうしても同じ猫が気になるらしく、もといた場所に戻ってくる。どうやら、決まりそうだな、と思ったら村上さんに「この子でお願いします」と、夫のAさんが申し出た。
選んだのは、推定月数3か月のキジ白のメス。なかなかの美人さんである。
なぜペットショップではなく、保護猫を選んだのか聞いてみると、
「ずっと猫を飼っている両親の教えですかね。殺処分になる子を救いたいと思ったんです」(Aさん)
最後に『愛猫手帳』を受け取り、譲渡費用(医療費、飼育費用など含めて3万7000円~)を支払って、いよいよ引き取りだ。
Aさん、購入したばかりのケージを持ってきて、中に猫を入れてもらう。今日から家族が増えるのだ。2人は幸せそうな笑顔で帰っていった。