人気の猫カフェで起こってしまった猫パルボウイルス感染。そこには根深い問題があるようで……。
脅威のウイルス感染、なぜ起きた?
今年8月、東京・立川の猫カフェ『MOCHA』で、一部の猫が致死率の高い感染症を引き起こす「猫パルボウイルス」に感染、死亡していたことが発覚。関東の全店舗を約1か月間、臨時休業する事態となった。
これに先駆けて7月末には、ツイッター上で「ウイルスが蔓延しているのに営業している」などと管理体制を批判するツイートが話題に。同店の運営会社はこれを当初は否定するも、のちに合計5匹のウイルス感染・死亡を公表、ネットユーザーのさらなる批判を集めて「炎上」したことは記憶に新しい。
一連の騒動に対して、
「もともとそういうウワサはあった」
と話すのは、東海地方にある猫カフェの経営者。
「『MOCHA』が最初に池袋にできてから、1年もしないうちに“突然、猫がいなくなる”というウワサが立ったんです。今回、内部告発でパルボ感染がわかりましたが、そのときから隠蔽していたんじゃないかと思われてもしかたがないですよね」
『MOCHA』は都内8店舗のほか、大阪や名古屋にも出店。そんな大手が、なぜウイルス感染という事態を招いてしまったのか。
前出の経営者が続ける。
「猫のことが大好きで、第1に考えていたら、猫カフェは儲かる仕事ではありません。いちばん経費がかかるのは医療費。今回のパルボだって、ワクチンさえちゃんと打っていれば、まず感染しません。
『MOCHA』のように、200匹以上もの猫を飼育して多店舗で経営するには、莫大な費用がかかります。利益を上げていくには、なにかを削らざるをえない、ということ。その結果が今回の事態につながったのでは?」
また、NPO法人『東京キャットガーディアン』代表の山本葉子さんは、猫カフェ・ビジネスの問題点を次のように指摘する。
「猫にとっては見ず知らずの人間に触られたり、抱っこされたりするのは、すごいストレスなんです。そんな場所に、成猫だけではなく、小さい子猫たちまでも長時間にわたって店に出すようでは、免疫力も、抵抗力も落ちてしまいます」
猫はストレスの塊に
猫カフェで、いちばん犠牲になっているのが主役であるはずの猫とは……。それも、人間のために。
「要はキャバクラの構造に近いんです。キレイな女性に会いに行きたい、かまってもらいたい(笑)。でも、そこでいちばん負担がかかるのは、お客をもてなすホステスですよね。
人間なら、それがお金という対価になるけれど、猫カフェだとすべて経営者のフトコロに入ってしまう。猫は触りたい放題、抱き放題されて、ストレスの塊になってしまいます」(山本さん)
猫にかかる負担を減らしつつ、ビジネスとして成り立つだけの利益を上げるのは、そう簡単なことではない。前出の猫カフェ経営者は、今後の見通しについて悲観的だ。
「実際、猫カフェの数が増えすぎたということはあると思います。猫以外の動物カフェ、フクロウとかもできて、お客さんがそちらにも移ってしまっているし。
これから新規オープンするのは、殺処分をなくすための保護猫カフェばかりになるんじゃないですかね。猫を“商品”としてしか見ない、商業猫カフェではやっていけないと思います」
可愛さや癒しだけを追い求めてカフェに通うことの“意味”や、猫カフェのあり方について、利用する側も考えなければいけないときなのかもしれない。
《高い致死率──パルボウイルスとは?》
非常に感染力が強く、致死率の高いウイルス。潜伏期間は2~10日ほどで、感染すると嘔吐や下痢、脱水などの症状がみられ、最終的に免疫系が損なわれる『猫汎白血球減少症』を引き起こす。別名、猫ジステンパーとして知られている。
酸やアルカリ、摂氏50℃までの熱に耐性があり、6か月から2年は感染力を持ち続けるといわれている。予防法はワクチンの接種で、未接種の子猫が感染した場合、致死率はほぼ100%。成猫でもワクチンを打っていない場合は死に至る危険がある。
「人間を介しても感染するので、猫カフェをはしごして、知らないうちにウイルスの運び手になっている可能性もあります。ワクチンさえ打っていれば感染は防げるので、自宅で猫を飼っている方も、しっかりとやってあげてほしいです」(猫カフェ経営者)
多頭飼育崩壊の要因を探る
飼育環境における問題に続いて、『アニマルホーダー』にまつわる問題についても着目したい。アニマルホーダーという言葉を聞いたことがある方は、どれくらいいるだろうか?
週刊女性の短期集中連載でも報じたように、飼育不可能な数の犬や猫を集め、それを手放せない“多頭飼育崩壊”が日本でも目立つようになってきた。
なかでも注目されるのが、『アニマルホーダー』の問題だ。ホーダーとは、ため込んでいる人という意味。適切に飼育できる数ではないのに、動物を抱え込んでいる状態の人を指す。
実態に詳しいNPO法人『ねこけん』代表理事の溝上奈緒子さんが解説する。
「アニマルホーダーは精神的な疾患のひとつ。正確な定義はまだありませんが、私は精神的に動物に依存した生活をしている人だと考えています。アルコール依存症やギャンブル依存症などと同じように、専門的な治療をすれば治る病気です」(溝上さん、以下同)
ゴミを捨てられないゴミ屋敷の住人になぞらえる人もいるが、
「確かに現行の動物愛護法では、動物はモノ扱いですが、飼い主は動物をモノとは思っていません。ゴミ屋敷の問題とは成り立ちが異なります」
アニマルホーダーには、ペットの幸せを思い、実際に可愛がっている人が多いという。だが、行き着く先は悲惨な多頭飼育崩壊だ。
「捨て猫などを次々に保護していると、経済的な困窮に陥って不妊手術代が払えない。増えすぎると、ご飯もあげられず、掃除もできなくなる。最後は猫にとって最悪の環境、虐待にもなってしまうのです」
アニマルホーダーは孤立との関わり大
アニマルホーダーのなかでも、こうしたタイプをレスキュー型という。ペットにとって自分の側がいちばん幸せだと思っているので、他人には渡せない。しかし、自身の経済的基盤を顧みず、身の丈に合ったやり方ではないため、次第に劣悪な状況に陥ってしまうのだーー。
「高価な宝飾品を集めるのと同じ感覚で、ペットを抱え込むコレクション型もいます。社会的地位のある人に多いといわれています」
このほかに、いかに理想に合ったペットをつくり出していくかに情熱を注ぐブリーダー型もいる。
「これら3つのタイプの共通項はいくつかあって、だらしない、高齢、幼少期に何かしらの問題があった、などといわれています」
しかし溝上さんは、アニマルホーダーは孤立とのかかわりが深いのではないかと指摘する。
「世間とつながりがない、友達が少ない、孤独、親戚付き合いをしていない、コミュニケーション能力が低い……。そうした傾向を強く感じますね」
ペットの飼育に適正な頭数は、家族構成や飼い主の年齢、経済状況、住環境などによって違う。多頭飼育であっても、不妊手術を施し、食事をきちんと与え、掃除も欠かさない飼い主『アニマルコレクター』もいる。どこまでがコレクターで、どこからアニマルホーダーとなるリスクがあるのか、その線引きは難しい。
「ただ、アニマルホーダーが多頭飼育崩壊の要因であることは間違いなく、対策が必要です」
今後、この問題は、いっそう注目されてくることだろう。
《PROFILE》
溝上奈緒子さん ◎NPO法人『ねこけん』理事長。猫の保護、里親探しなど、殺される命を救う活動を通して殺処分ゼロを目指している