'94年に芸能界デビュー。その可愛らしいルックスもあり、人気ゲームを実写化した映画『ときめきメモリアル』などに出演するなど、10代のころはアイドル女優として人気を博した山口紗弥加(38)。
今秋、デビューから約25年でドラマ『ブラックスキャンダル』(読売テレビ・日本テレビ系)で念願の初主演。しかし、1度は本気で引退を決意するなど、順風満帆な芸能人生ではなかったようだ。
バラエティー出演と女優業
「デビューしたときは14歳だったので、アイドル的な活動をすることも、そんなものなのかな? と特に悩むことはなかったです。
その後、女優として幅を広げるためにとバラエティー番組に出るようになったのですが、それが結果として、女優としての自分を苦しめることになってしまって……」
今でこそ俳優がコントに挑戦したり、ぶっちゃけトークをするのが珍しくなくなったが、当時は女優がバラエティー番組にレギュラー出演することはまれ。そのため、経験値を積むために始めた活動が幅を狭めることに。
「バラエティー番組を見ることは好きでしたが、実際に出てみると面白いことも言えず、ただ笑うことしかできなくて。
それでもどうにかなじもうと、“コマネチ”とかいろいろ挑戦してたんです。でもある日、テレビ局のドラマ担当の方に“バラエティー色が強すぎて、使いづらい”と言われてしまって。
バラエティーに出るようになってから、女優としてのオファーもコメディー色の強い作品ばかりになって。
もともと、鈴木保奈美さんに憧れて、ラブストーリーを演じられる女優を目指してこの世界に入ったのに、夢からどんどん遠ざかっていることにそのとき気づいたんです」
慣れない仕事を続けたことで、高熱が続くなど体調も崩すように。しかし、訪れた病院で運命の再会を果たす。
運命の再会
「体調が優れないし、'03年に出演した野田秀樹さんの舞台『オイル』を最後に引退するつもりで、前の事務所も辞めていたんです。
そしたら病院で、最初のマネージャーになる予定だった現在の事務所の社長に偶然会って。それで経緯を話したら、舞台を見に来てくれたんです。見終わるなり、楽屋に来て“一緒に頑張ってみないか?”と誘ってくれて。
実は私も舞台に出たことで、芝居の面白さを初めて知って、芝居を続けたいな……と思い始めていたこともあり、お世話になることを決めました」
その舞台では、もうひとつ運命の出会いが。故・蜷川幸雄さんが彼女の演技を見て、大竹しのぶ主演舞台『エレクトラ』に起用してくれたのだ。
「蜷川さんには毎日ひたすらダメ出しをされて、かなり鍛えられました。そのときは本当につらくて、稽古場のトイレで泣いたことも。
トイレから出たら、蜷川さんが近づいてきて、“才能はいつ花開くかわからない。その瞬間はいつ来るかわかんないから、辞めるなよ”と言ってくださった。
当時は“辞めさせようとしているのは誰だよ”と内心、思っていましたけど(笑)」
そして、現在の事務所社長やスタッフの励ましも、芸能活動を続ける大きな支えになったという。
「“主演ができる女優を目指して頑張りましょう”と、言い続けてくれたんです。蜷川さんの言葉と、この言葉がなければ挫折していたと思います」
20代後半から30代前半は“暗黒期”だったと本人は語るが、34歳でワークショップに参加したことで、考え方が一変したと振り返る。
「そこで芝居は嘘をつくことではなく、いかに自分を投影して、役をどう生きるかということを教えてもらったんです。それを生かせたのが、'15年に出演した『ようこそ、わが家へ』からです」
役を生きること
池井戸潤原作の同名小説を、相葉雅紀主演でドラマ化。寺尾聰演じる主人公の父親の部下役で、昼間は事務員。夜は母親の介護費用を捻出するために、熟女パブで働く正義感の強い女性を演じた。
「台本を読んで、彼女は下着でひそかにプライドを維持しているんじゃないか、と役を解釈。真っ赤なTバック、ブラを購入して着用し、臨戦態勢で演じていました。
また監督とも話し合い、“脱いだらスゴい”という設定も加えて、バストも1キロほど増量したんです。そうすることで自然と重心が下がり、声も低くなり、怒りの表現に説得力のようなものが出たんです。
蜷川さんの舞台に出たとき、“肉体と精神はつながっている”と教わったのですが、そのときに身をもって知って。そこから、役を生きることが楽しくなりました」
ひとつひとつの作品に体当たりでぶつかり、もがくようになったことで女優としての評価もうなぎのぼり。オファーの絶えない実力派女優へと成長し連ドラ初主演のチャンスをつかんだ。
「主演ができる女優を目指し再出発しましたが、それすら忘れかけていた30代後半で、私に期待をかけてくれる方がいるということがうれしかったです。
頑張っていたら、こうしてどこかで見てくれている人がいるんだなと思うと、芸能界も夢あるなって(笑)」
そして、NHK BSプレミアムで放送中のドラマ『主婦カツ!』では憧れの鈴木保奈美との共演も果たした。
「同時に夢を叶えられ、毎日が幸せすぎて、もう仕事を辞めてもいいと思えるほど(笑)。
『ブラックスキャンダル』は文字どおり身を削るほど、回を重ねるごとに衝撃的な展開が待っています。チーム全員が一丸となって戦っている作品なので、役者たちの生きざまを見てもらえたらうれしいですね」
スタッフに言われたアドバイスで心に残ったものは?
「バラエティーの失敗がトラウマになっていて、番宣に出るのが今でも怖いんです。
でもマネージャーに、“僕はそのままの紗弥加さんが好きなので、そのままで出てください。はっきり言って紗弥加さんは面白くないから、面白いこと言おうとしなくていいです”と言ってもらえたら、すごく楽になって。
今は番宣でいろいろとお邪魔するのが楽しくてしかたないです。」