今年から世帯にかかる税金に関わる「配偶者控除」と「配偶者特別控除」の条件が改定されました。“主婦のパートは、夫の扶養の範囲内でした方が良い。扶養を外れると、社会保険料や所得税住民税を払わないといけなくなるから”とは、よく聞く話です。しかし、いちがいにそうではないようです。モデルで税理士の日沢新が、主婦は扶養の範囲で働くべきか否かを、今回はやさしく解説します。
妻は扶養の範囲で働かないと損をする?
先日、Tさんという50歳の女性が、税金相談にいらっしゃいました。
Tさん「私はあるスーパーで、年収98万円くらいのパートで働いています。先日、店長さんから、『Tさんはうちのエースだね。もし可能なら、もっと働く時間を増やすことはできないかな?』と言われました。
それを夫に相談したら『(妻が)働きすぎると扶養から外れてしまう。扶養を外れたら、社会保険料も上がるから損をする』と言われました。私としては、今の職場は好きなのでたくさん働きたいのですが……。やはり難しいのでしょうか」
なるほど。扶養の問題ですね。
日沢「わかりました。実は、Tさん夫婦のようなご相談、よく受けるんですよ。まず、ご主人のおっしゃることは間違っていません。Tさんの収入が増えると、下記のような負担がのしかかってきます」
<負担>
(1)夫の扶養から外れるので、夫の税金が上がる。
(2)夫の社会保険の扶養から外れるため、Tさんは自分で年金や健康保険料を支払うこととなる。
(3)Tさん自身も所得税や住民税を納めることとなる。
ざっと説明をすると、曇った顔のTさん。
Tさん「これだけ負担が増えるなら、やっぱりパートの時間を増やして働くことはあきらめたほうがよいですね……」
でも、果たしてそうなのでしょうか?
日沢「実は扶養のままでいるよりも、フルタイムでしっかり働いたほうが圧倒的によいのですよ」
Tさん「それは、いったいどういうことですか?」
年収によって変わる!4つの壁をチェック
日沢「結論をお話する前に、まずは年収には重要な“4つの壁”があるので、その説明をしましょう」
(1)年収100万円の壁
まずは、“住民税の壁”です。Tさんが年収100万円を超えると、Tさん自身が所得の約10%の住民税を払うことになります。
(2)年収130万円の壁
これは、“社会保険の壁”と言われています。Tさんの年収が130万円を超えると夫の扶養から外れ、Tさんは自分で社会保険を払わないといけなくなります(※1)。
(3)年収150万円の壁
これは“配偶者の壁”です。これまで年収103万円の壁といわれてましたが、今年から年収150万円の壁に変わりました。
Tさんの年収が150万円以下の場合には、夫がTさんを収入的に養っているものとして、夫の所得税と住民税が下がります(※2)。
(4)年収201.6万円の壁
(3)の続きです。実はTさんの年収が150万円を超えた場合でも、年収201.6万円までであれば、夫の所得税と住民税がさがります。ただし、下がる税金額は(3)と比べて少なくなります(※2)。
4つの壁について説明を終えると、頭を抱えるTさん。
Tさん「ええと、つまり、私の年収が多くなれば、払わなくてはいけないものが増えていく、ということですか?」
日沢「おっしゃる通りです。それでも働いたほうがよいのですよ」
Tさん「???」
Tさんの年収が増えると、どうなるのか?
日沢「旦那様の年収が800万円として、どのくらい負担が増えるのかざっくりと計算しましょう」
Tさんが年間、100万円働いた場合
Tさんには、税金や社会保険はまったくかかりません。加えて、夫の扶養として所得税が約5万円軽減されます。
つまり、Tさんに100万円の年収がありますから、プラス約5万円で約105万円が家計のプラスになります。
Tさんが年間300万円を働いた場合
Tさんは社会保険や税金を支払うようになります。住民税約16万円、所得税約7万7000円、社会保険約39万円払うことになり、合計62万7000円を払うことになり、さらに夫の扶養の範囲外となります。
ですが、Tさんは300万円稼いていますから、そこから、62万7000円を引くと、約238万円が家計のプラスになります。
働くなら、思いっきり働くこと
日沢「よく勘違いされる方がおりますが、ご家庭の資金繰りで一番重要なのは、入るお金をいかに増やすかということです。何が何でも扶養に入ることではありません」
Tさん「なるほど、扶養が外れてしまうデメリットよりも、私が働かないデメリットのほうが大きいということですね」
日沢「ただし一点、注意しなければいけないことがあります。それは、ちょっとだけ壁を超えるような働き方はしないこと。1万円でもオーバーすれば、下記のように、一気に負担がかかってきますからね」
(1)年収130万円の場合は、社会保険負担は0円です
(2)年収131万円の場合は、約17万円も社会保険負担がかかります
日沢「いっぱい働ける状況なら、しっかりと働くことです。もし厳しいという事であれば、扶養の範囲内にセーブし、壁を超えないようにしっかりと管理することが重要です。Tさんは前者ですから、扶養を気にせず大いに働いてください」
説明を終えると、だいぶすっきりした顔のTさん。
Tさん「扶養を気にして働かないのは、もったいない。実はしっかりと働いて、お金を稼いだほうが得なんですね。夫に話してみます! 私、がぜんやる気になってきました」
<補足>
※1 本人の働き方次第で106万円の壁に縮小します。
<条件>
(1)週の労働時間が20時間以上である
(2)賃金月額月8万8000円以上(年収106万円以上)
(3)1年以上の継続勤務
(4)従業員501名以上の企業
(5)学生は除外とする
※2 配偶者の年収が大きい場合には、年収が150万円以下でも受けられないことがあります。その基準は年収1120万円であり、ここから控除額は段階的に減少し、年収1220万円をこえると控除額がなくなります。
日沢新(ひざわ・しん)◎税理士 1987年生まれ。2013年に、税理士の国家資格を取得。税理士事務所NEO FRONTIER TAX OFFICEの代表税理士(https://hizawa-tax.com/)。おもに個人や中小企業、そして相続に関する相談に乗っている。身長185cm、70kg、体脂肪率8%。日々のジムトレーニングで、鍛え抜かれた肉体美を目指す。好きな言葉は「黄金の精神」。