小渕恵三官房長官(当時)が「新しい元号は『平成』であります」と発表してから30年。その平成が幕を閉じようとしている。平成を彩った言葉たちをナビゲーターにして、30年を振り返ってみよう。まずは平成元年から平成10年まで。
平成元年~10年(1989~1998)
昭和天皇が崩御し、その年に昭和を代表する歌手の美空ひばりが亡くなり、世界ではベルリンの壁が崩壊して、平成がスタート。
この年に登場したのがセクシャルハラスメント。「セクハラと短縮されていないところに、言葉の新鮮さを感じますね。言葉は定着すると短くなる(笑)。当時、新しかった言葉が30年たった今は“セクハラ”“パワハラ”と普通に使われている」
というのは、自由国民社の清水均さん。
すっかり日常語となった○○ハラスメントという言葉。今年刊行された広辞苑第七版にもモラルハラスメント、マタニティーハラスメント、アカデミックハラスメントが加えられた。
「新しい言葉が生まれ、広がることで自分だけが苦しんでいると思ってきたことが、社会的によくある問題だとわかったり、その問題を共有できたりします。セクハラやパワハラという言葉で、問題のありかが理解されやすくなったはずです」(岩波書店・平木靖成さん)
平成に登場したセクハラという言葉は、私たちの意識を大きく変えた。今まで泣き寝入りするしかなかった問題を共有認識したことで対抗する手段を手に入れたのだ。
さて、世の中の景気は、まだまだバブル。言葉も元気いっぱい。
厚かましくて自分を押し通すオバタリアンや、髭が生えているのではないかと揶揄されオヤジ化したオヤジギャルといった言葉が躍っていた。
「象徴的なのが、栄養ドリンクのCMから生まれた24時間タタカエマスカやDODAするという言葉。24時間働くなんて、働き方改革が叫ばれている今では考えられないことです」(清水さん)
平成3年に刊行された広辞苑第四版でも、単身赴任、過労死といった頑張っているお父さんたちの姿を映し出す言葉が新収された。
礼宮文仁親王が川嶋紀子さんと結婚されたのも、世の中がまだ元気だったこのころ。
景気よくスタートした平成。それもつかの間、バブルははじけ飛ぶ。流行語のトップテンにも損失補てん、カード破産、複合不況、就職氷河期といった言葉が現れるようになる。
スポーツ選手からもらった勇気
そんななんとなく行き詰まってきたときに明るい話題は若花田と貴花田の兄弟力士、若貴ブームの到来だった。
そして貴乃花と宮沢りえの婚約。当時、国民的な人気を誇っていた2人の交際が大きな話題になったのは、覚えている人も多いはず。
ところが婚約発表からわずか2か月で解消され、宮沢りえ出演CMの言葉『すったもんだがありました』が流行語大賞となってしまった。婚約もまたバブルだったのか……。
平成の終わる今、また何かと世間を騒がせ、にぎわせている元・貴乃花親方の姿を見るのは、感慨深いものがある。
「若貴ブームは、閉塞する社会の中で、人々が明るいことを求めていたからなのでしょうか。Jリーグ、イチロー、NOMO、有森裕子の『自分で自分をほめたい』、長嶋巨人軍監督(当時)のメークドラマ、ハマの大魔人とスポーツから生まれた言葉が流行語になりました」(清水さん)
スポーツ選手の言動から勇気をもらう、これも平成の特徴だといえるだろう。
そして冷え切った経済の中で起こったのが、阪神・淡路大震災。
その予兆は流行語にもノミネートされた雲仙岳の火砕流。バブルで浮ついていた私たちに冷や水をかけるように起こった雲仙の火山噴火。その4年後が阪神・淡路大震災だ。
「震災は人々の意識を大きく変えましたね。プロ野球オリックスの「がんばろうKOBE」に励まされ、さらにライフライン、安全神話という言葉が日常的に使われました」(清水さん)
こうした流れの中で、元気だったのがアムラーのみなさん。今年で引退した安室奈美恵は、まさに平成を駆け抜けたといえるだろう。
平木靖成さん 岩波書店 辞典編集部副部長 辞書編集者歴が20年を超え、広辞苑第五版から今年1月に刊行された第七版まで携わり、すでに(10年後に刊行されるであろう)第八版の準備に取りかかっている。
清水 均さん 自由国民社「現代用語の基礎知識」シニアディレクター『新語流行語大賞』は今年で35回目を迎え、「年々注目されています。時代が閉塞しているからこそ、流行語が求められているのでしょうか」