犯行現場は病院の4人部屋。犯行後はそこから徒歩5分の交番に向かい、自首した。
「26日午後8時20分ごろに、“祖父を殺しました”と自首してきたんです。いつ、どこで、と聞くと、“10分前に病院で”と答えました。被害者は別の病院に救急搬送されましたが、翌27日の午前4時40分に死亡が確認されました」
と捜査関係者が伝える。
怨念と刺す回数は比例する
同日、宮城県警古川署に殺人及び銃刀法違反の容疑で逮捕されたのは、同県大崎市鹿島台の無職・萩川未貴容疑者(29)。
市民病院鹿島台分院に入院中の祖父・功さん(88)の右わき腹を刃渡り約13センチの果物ナイフで突き刺し、殺害した疑い。
前出・捜査関係者は、
「ほかに外傷はなく、右わき腹の刺し傷は1か所だった」
東京未来大学こども心理学部長の出口保行教授は、犯行から自首までわずか10分という短い時間と、刺し傷の数に注目するが、まずは刺し傷に関する見解をうかがった。
「祖父を1回しか刺していないことから、祖父への怨念ではないかもしれない。怨念と刺す回数は間違いなく比例するものです。祖父以外の家族の影響でストレスをためていた可能性がある」
と容疑者の心理を読み解く。
殺された功さんは10月上旬から同院に入院していた。
病院で功さんを見かけたという近隣の70代の女性は、
「功さんが車いすに乗っていて、息子さんが押していました。ごあいさつした程度ですが、功さんは私のこともわからない様子でした」
事件当夜、萩川容疑者は、ナースステーションの面会カードに記入せずに病室へと向かった。
「午後8時ごろ、何を言っているのかはわかりませんが女性の大声が聞こえたため看護師が病室に行くと萩川容疑者がいたので、面会カードに記入してほしいと促したそうです。萩川容疑者は面会カードに記入し、荷物を持って1階に下りていったと聞いています」
と同病院管理課担当者。
「午後8時10分ごろに看護補助者が功さんの病室をうかがうと、寝具が乱れていたので直そうとしたところ、出血と床に血のついた果物ナイフを見つけたため当直医を呼んだという流れです」
犯行の10分後に自首。初めからそのつもりだったとしか思えない最短時間だ。前出・出口教授がその“ワケ”を説明する。
「殺人は、人を殺すところまでが計画性ではなく、殺害した後に逃げられるかどうかということまで考えるのが計画性なのです。今回は自首が前提で犯行が行われています。つまり、自首するところまでが計画なのです」
「殺すつもりで刺した」
自宅はJR東北本線鹿島台駅から徒歩10分ほど。2階建ての一軒家で、すぐ裏には一家が経営するホームセンターが隣接している。
「とってもいいご家族ですよ。みなさん、すごく優しくて温厚で腰が低い。未貴ちゃんは4人姉妹の末っ子でね。ただあんまり話したこともなければ見たこともないのよ」
と近所の60代の女性。
50代の小売店女性店主は、
「未貴さんがたまに店に出て手伝っているのを見かけました。髪はストレートで地味というか清楚な感じ。かわいらしい顔をしていてね。
姉妹はとっても仲がよくてキャッキャ言いながら、うちにも買い物に来ていました。あの家庭でこんな事件が起きるなんてびっくりしています」
功さんはコンクリートブロックを作る職人で、その長男で未貴容疑者の父親がホームセンターを開いたという。
父親は商工会議所の役員を務めるなど熱心に活動していたと地元の人は口をそろえる。
「自営業で商工会もあったから、忙しかったと思うよ。未貴ちゃんがおじいちゃんの面倒を見ていて、そこに甘えちゃったんじゃないかな。私も介護をしていたけれど、あのつらさは介護をした人にしかわからない。追い詰められていったんだと思うよ」
と近隣の50代の主婦は容疑者の立場を推察する。
「認否については“殺すつもりで刺した”と認めている」
と前出・捜査関係者。一部報道では「刑務所に入りたかった」という趣旨の供述をしているという。
その心理を前出・出口教授は、こう分析する。
「刑務所に入りたいと口にする人はいるが、実際に刑務所入りを望んでいる人はほぼいない。言葉にすればそうなるかもしれないが、本音は、現実社会が嫌になり自分を隔離させたいということなんです。現実を断ち切れれば海外移住でもなんでもいいが、現実味がない。
犯罪行為というのはいちばん現実社会から自分を切り離しやすい方法なんです。犯行後10分で自首していることから、現実社会から自分を切り離したい思いが強かったのだと思いますよ」
萩川容疑者は何から逃げ出したかったのか。あの日から、ホームセンターの明かりは消えたままだ……。