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 安倍政権下の6年間で、政府が打ち出した子どもや社会保障に関する政策はプラスにはたらいたのか、それともーー? 児童相談所への勤務経験もある沖縄大学の山野教授に、疑問をズバリぶつけてみた。

子どもの貧困率は改善したといえど……

 子どもにかかわる政策のなかで、安倍政権と密接な関係にあるのが、子どもの貧困対策だ。現政権下で「子どもの貧困率(※)が初めて減少に転じた」と、安倍首相みずから成果を強調している。

 子どもの貧困率が初めて発表されたのは、民主党政権時の2009年10月。当時('06年調査)は14・2%だったが、'14年7月には16・3%('12年調査)に上がり、'17 年は13・9%('15 年調査)と、やや改善。それでも、子どもの7人に1人が貧困状態にある。

 児童相談所の勤務経験がある、沖縄大学の山野良一教授が指摘する。

「本気かどうかはさておき、安倍政権は子どもの貧困について“対策しています”と標榜している。しかし、ほかの問題と抱き合わせで打ち出す傾向があります」

 例えば'13年1月以降、生活保護費の基準を2回、下げている。生活保護を受給していない低所得世帯の平均値に合わせたというが、受給者で子どものいる世帯には大きな打撃だ。一方で同年、『子どもの貧困対策推進法』を成立させている。

 また、'15年12月に「多子世帯と自立支援プロジェクト」を開始。ひとり親世帯への支援として児童扶養手当の第2子以降の支給限度額を上げた。折しも、国会が安保法案で揺れた時期である。そして'17年5月には、安倍総理は憲法改正に関して、9条の改正と合わせ教育無償化を加えると発言している。

 憲法や安全保障などの問題と「抱き合わせ」にして議論の時間を減らす、選挙用のキャッチコピーに見える。

 ただ、推進法に対して、山野教授は一定の評価をする。

「理念法であり、実効性を伴うものではありません。しかし、都道府県は推進法をもとに、貧困対策のための計画を作ることになります。自治体職員や市民に貧困な子どもがいることを意識させた意義は大きい」

 推進法ができた1年後には『子供の貧困対策に関する大綱』が作られた。また、政府は寄付を募って「子供の未来応援基金」を創設。設立1年のメッセージの中で、安倍首相は「こども食堂」に言及している。

「こども食堂は意義あるものですが、地域づくりの面が強く、貧困を根本から解消できるわけではありません」


※「子どもの貧困率」とは/17歳以下の子ども全体のうち、貧困ライン(収入から税金や社会保険料などを除いた、いわゆる手取り収入を順に並べ、真ん中になる人の金額の半分。'15年は年収122万円)に届かない収入で暮らす子どもの割合を指す。

 子どもの貧困対策は学校中心。国が示す方針には、高等教育進学時の経済支援と絡めて「学ぶ意欲」「能力」という言葉がちりばめられている。

「“学ぶ意欲と能力がある”子どもが対象となっています。しかし、経済的に厳しい環境下では意欲がそがれたり、自尊感情が低下して、他者への基本的な信頼感が欠けていたりすることも珍しくない。意欲を持てるように、学校が子どものしんどさに、もっと受容的に向き合う必要がある」

懸念される沖縄の子どもの貧困率の高さ

 山野教授は'17年の「沖縄県子どもの貧困実態調査」にも関わっている。沖縄の子どもの貧困率は29・9%という衝撃的な数字だった。

「子どもの貧困率は全国平均で16・3%('14年発表)。沖縄はもっと高いだろうと思われていましたが、県独自に調査すると驚きの数字でした」

 同時にアンケート調査も実施。“過去1年間で経済的理由により家族が必要とする食料や衣料を買えないことがあったか”の質問に対し、「よく」「ときどき」「まれ」を含めると、中学2年生全体で29・4%が該当していた。

「貧困世帯に限れば49・7%で、約半数という結果に。沖縄では、隣近所で助け合う“ゆいまーる”が知られていますが、近所で困っている人がいても気がつかない時代になっている。これは沖縄だけの現象ではありません」

 また、子どもの貧困対策の一環として、消費税が10%になる来年10月、幼児教育と保育が無償化される。幼稚園の預かり保育や自治体の認証保育所、無認可保育、ベビーホテル、ベビーシッターも一定額を限度に対象とする方向だ。

「待機児童の解消が先ではないかという意見もある。現行制度では、保育所に子どもを入所させる際に、フルタイムの人が優先される仕組み。つまり、非正規の所得が低い人の子どもは、待機児が多いほど後回しにされやすいのですが、解消されていません

 一方、保育の質について安倍政権はあまり言及しない。

「保育の質を考えるとき、日本では職員の研修が大切とされるが、世界的に見ると職員の資格が重視される。しかし日本では、無資格の人も働いているのが現状。特に小規模保育の場合、保育士は半分でいいとされています。保育事故が起きる心配があります

 子どもの利益を最優先に取り組むべきだ。

取材・文/渋井哲也(ジャーナリスト)


《PROFILE》
山野良一さん ◎沖縄大学教授。北海道大学卒業後、児童福祉司として神奈川県の児童相談所に勤務。米ワシントン大学留学などを経て現職。『子どもに貧困を押しつける国・日本』(光文社新書)ほか著書多数