「クセの強い演技に釘づけ」
「爽やかなイメージだったけど、人をいらいらとさせる演技も天下一品」
「誰だかわからなかったぐらいに役作りしてきて驚いた」
『下町ロケット』で主役を務める名優・阿部寛、代表作多数。もとはファッションモデル界のカリスマと呼ばれ、'87年に映画『はいからさんが通る』で鳴り物入りの俳優デビューを果たした。が、
「190cm近くある身長は、相手女優と釣り合わずラブストーリーに不向きでした。それでも舞台で磨いた演技が認められて、またドラマや映画の出番が増えていったのです。そして転機となった作品が、'00年の『トリック』」(ドラマプロデューサー)
仲間由紀恵の出世作にもなった『トリック』シリーズはコメディー要素がふんだんに盛り込まれたドラマ。阿部自身も助教授「上田次郎」で、三枚目を演じてみせると、
「ウイークポイントだった体形は、コミカルな演技を映えさせる武器になりました。また堅物イメージを払拭して演技の幅を広げたことで、シリアスからコメディー、刑事ものから家族もの、はたまた古代ギリシャ人になったりと引く手あまたの大活躍です」(同・ドラマプロデューサー)
冬彦さんの再来
こちらも身長190cmに届く東出昌大。'13年のNHK朝ドラ『ごちそうさん』は、後に妻になる杏と出会うなど、人生の転機となった。翌年には映画『クローズEXPLODE』でケンカアクションにも挑戦し、キャリアこそ順調に積んでいたのだが、
「お世辞にも“演技がうまい”と形容されることは少なかった。でも、『あなたのことはそれほど』で見せた、妻の不倫を知ってなお執着する夫は、佐野史郎さんの代名詞、マザコン夫“冬彦さんの再来”と、怪演が話題に。目や声で演技ができると評価されましたね」(テレビ誌記者)
近年、すっかり“怪優”になじんだ高嶋政伸。ドラマ評論家の成馬零一氏も評する。
「高嶋さんはこれまで『ホテル』('91年TBS系)以降、健全な役、好青年的ときていました。しかし、世間が求める好青年のイメージが、高嶋さんのようにガッチリした身体の男性から、線の細い中性的な俳優が求められるように変わったのです。
これに適応するかのように、悪役に舵を切り『DOCTORS』で花開いたのだと思います。一見ちゃんとしているんですけどもどこか怪しい、胡散臭い悪役を演じたことで強烈なインパクトを残すことができましたね」
そして生まれたのが、『DOCTORS』シリーズの名物キャラ“卓ちゃん”だ。
「当初はシリアスな役を想定していたのですが、高嶋さんが考えて役づくりしてきたのが“卓ちゃん”。“んんんんっ!”と唸る仕草や、表情も何パターンも用意してきて、“いいものを使って”と(笑)」(ドラマ制作スタッフ)
表情で魅せるといえば、歌舞伎役者の顔も持つ香川照之。『半沢直樹』で、堺雅人と対峙した“大和田常務”は視聴者を引き込んだ。
「憎たらしいほどの“顔芸”はお見事でした。香川さんの転機、というよりも以降の『日曜劇場』は、やたらと顔芸俳優が目立つように(笑)。香川さんが開拓した芸です」(スポーツ紙記者)
いつの間にか“クズ”になっていたアノ俳優
今回の『下町ロケット』でいえば安田顕。ドラマを盛り上げる欠かせない存在だ。
絶対的な存在、SMAPのメンバーだった稲垣吾郎は大きくイメージを変えた。
「『十三人の刺客』と、ドラマ『流れ星』('10年フジ系)で演じた悪役が鮮烈な印象を与えました。それまでSMAPは“全員主演じゃなければいけない”みたいな枷がありましたが、そこからうまくはずれた稲垣さんは俳優としての幅が広がり、おもしろい存在になりましたね」(成馬氏)
もとは『ちゅらさん』('01年NHK)や『白夜行』('06年TBS系)のように好青年イメージで売っていた山田孝之は、いつしか“カメレオン俳優”と呼ばれるように。
「もともと、いろいろな役をやりたかったのでしょう。演技を磨いてキャリアを積み、自ら率先して変な役を演じたことで“何でもできる”俳優像をつくっていったのです。山田さんの親友で、かつてイケメン俳優枠だった小栗旬さんも、同様に壁を壊したひとりですね」(芸能プロ関係者)
NHK大河ドラマ『西郷どん』で熱演中の鈴木亮平は、小栗旬に見いだされたひとりだそう。彼の転機となった『HK 変態仮面』。
「もとは小栗さんが“映画にしたい”という話から、抜擢されたのが鈴木さんだといいます。見事に役づくりで体重や体形を自由に変えられる肉体派に変身しました。実は鈴木さん、勝地涼さん、そして綾野剛さんらは映画『シュアリー・サムデイ』('10年)で監督を務めた小栗さんがピックアップした俳優。今では全員が主演級になっています」(同・芸能プロ関係者)
山田や小栗と同年代の藤原竜也も、いつの間にやら“クズ”になった。
「映画『デスノート』('06年)での役もわりと“クズ”でしたが、カリスマ性のある悪役でした。そんなクズキャラを『カイジ』で完成させたという印象です。もともと蜷川幸雄さんの舞台で見いだされた演技派、実力派俳優。本来はドラマや映画に出るタイプではなく、また主役というよりも悪役のほうが光る人なのだと思います」(成馬氏)
10月の映画『億男』では怪しい教祖を演じている藤原。これが真骨頂なのかも!?
昨年の『奪い愛、冬』で、“不倫される妻”を演じた水野美紀。そして今年、『あなたには帰る家がある』で“不倫する妻”を演じたのは“薄幸系”女優の木村多江だ。
「水野さんのぎょうぎょうしい狂気と木村さんの静かに入り込んでくる狂気は、それぞれ違った怪演でした。10月にはNHK『チコちゃんに叱られる!』で“メスの蚊”になりきり迫真のひとり芝居を披露した木村さん。また新しい扉を開いていました(笑)」(テレビ局ディレクター)
彼女たちは、もとは正統派、また“よき妻”としての演技が評価されていた─。
「今は、不倫ものが増えていますよね。不倫ドラマに付きものなのが、ヒロインを追いつめる“いやな女”枠です。かつて正統派として活躍した女優さんが30代後半から40代になり、妻、母親役を演じるようになったことで枠に入ってきています。“不倫する・される奥さん”を悪役として演じるのは自由に暴れられるというか、振り切った演技ができるので本人も楽しくやれるのかも」(成馬氏)
これは、小沢真珠の演技が話題になった『牡丹と薔薇』('04年フジ系)のような、“昼ドラのノリ”に通じるのだとも。不倫ドラマは“昼メロ”化がトレンドなのだろう。
そして、女優の転換期を迎えるのが30代なのかもしれない。20代前半までは正統派を演じられるものの、以後は仕事や恋に悩む女性を演じたり、個性派や演技派に移行する人もいる。また脇役、主役として進む道が分かれる時期でもある。
当然、男性俳優にも言えることだが、人生における変化が多い女性だけに、演じる側にも相応の変化が求められる。さらに下の世代からの押し上げもあるため、生き残る手段として“変身”は不可欠なのかも。
かつては映画『世界の中心で、愛をさけぶ』('04年)で一躍、正統派の代表格になった長澤まさみ。そんな彼女でさえ、『都市伝説の女』を機に路線を変更し始めたのだった。
「ミニスカートやショートパンツをはきセクシーな一面ものぞかせたのです。すると男性だけでなく、おしゃれな着こなしが女性支持層を広げました。同年代の新垣結衣さんや石原さとみさんらも同じで時代に沿ったさまざまな女性像を表現できる女優さんは残りますね」(編成スタッフ)
それも女優としてキャリアを積み、演技の場数を踏んできたからこそ、だ。
かつて高倉健や吉永小百合ら昭和の俳優のように、ひとつのイメージをずっと守っていくことも男優・女優の“美徳”とされた。今はというと、
「積極的に“いろんな役をやりたい”俳優さんが多いように思います。でも、その人に求められる役割や需要など、なかなかかなわないのが現状ですね。ただ、そんな中でも、キャラ変して新たな新境地を開いて成功できた俳優さんは、今後もいろいろな役を演じていくことができるのだと思います」(成馬氏)
「誰だかわからなかった」そう言われることは、演技に打ち込んできた男優・女優にとって、役者冥利に尽きる言葉なのかもしれない。