「きゃ~! かわいい! こっち向いて!」と黄色い声&大歓声が上がるや、一斉にスマホでパシャパシャと撮影する黒山の人だかり。その先にはイケメン俳優? ハリウッドセレブ? と思いきや、被写体となっているのは愛くるしいヨチヨチ姿のレッサーパンダ。その横からひょっこり顔を出すもう1頭の赤ちゃんが。そう! 来園者のお目当ては、生後4か月の双子の赤ちゃんレッサーパンダ♪
ここは静岡県静岡市にある日本平動物園。7月11日に双子のレッサーパンダが生まれたとあって大きな話題を呼んでいる。同園には、新たに仲間に加わった双子を含めた、9頭のレッサーパンダが生活中。“立ち姿”で一世を風靡(ふうび)した、あの「風太くん」も生まれた国内随一のレッサーパンダの“聖地”として、全国から老若男女が訪れる人気の動物園なのだ。
そんなファンも熱い視線を送る双子の兄妹(名前は現在、応募の中から選考中!)は、風太くんと異父兄妹であるお母さんの「シー」と一緒にレッサーパンダ飼育棟ですくすくと成長中。人間の赤ちゃんと一緒で、1日のほとんどを睡眠に費やすため、なかなか寝室から出てこない。ところが、眠い目をこすりながら(!?)室内展示室に出てくると、冒頭のような大フィーバーに包まれるというワケ。
「(10月13日から)一般公開を始めて以降、統計を取っているのですが、午前中は10時~11時、午後は13時~15時の間に登場する回数が多いですね。1日合計で1~2時間ほど動き回ります」
そう教えてくれたのは、同動物園企画係主査の平田彰一郎さん。1頭が顔を出すと、釣られるようにもう1頭も顔を出すようで、兄妹がひょっこり顔を出して展示室をうかがう様子は、どんなアイドルユニットも勝てないような“かわいいオーラ”が漂う!
「シーが寝室に消える=授乳の時間であることが多い。そのとき双子も目を覚ますので、授乳後にシーと一緒に展示室を動き回るケースが少なくないですね」(平田さん)
つまり双子の赤ちゃんを見るには、平田さんが教えてくれた登場回数の多い時間帯を見計らい、さらにシーが寝室に消えたら大チャンス到来! これは覚えておきたい。
登場した兄妹は、活発にあちこちと動き回る成体のレッサーパンダとは違い、丸太を上って遊ぶにも恐る恐る。
「レッサーパンダの成長は早く、2頭は早ければ年末には飼育棟を離れ、成体のいるレッサーパンダ館に移動するかもしれません」(平田さん)
赤ちゃんならではのゆ~っくりした超絶キュートアクションを見られるのは、あとわずかというわけだ。
実は「絶滅危惧種」指定 動物園が紡ぐドラマ
双子もかわいいけれども、“お兄ちゃん、お姉ちゃん”が暮らすレッサーパンダ館もスゴいんです!
レッサーパンダは、ユキヒョウやテンなどの天敵から身を守る習性があるため、基本的に樹木や竹の上など高いところで生活する。同園は、高い塔や樹木、“あずまや”などを設置することで立体的な生活環境を作り上げ、彼らの自然における行動生態展示を実現しているのだ。
屋外のほか空調が調節された屋内展示場も展開されている。縦横無尽に駆け回る成体のレッサーパンダを間近で、またさまざまな角度から楽しむことができるあたりは、さすがはレッサーパンダの聖地といったところ。が、同園が“聖地”と呼ばれるのにふさわしい所以(ゆえん)がもうひとつある。
実は、野生のレッサーパンダの生息数は約2500~1万頭と言われ、絶滅危惧種に指定されていることはあまり知られていない。現在、日本の動物園では約280頭が飼育されているのだが、そのすべてのレッサーパンダの血統管理、繁殖計画を担っているのが日本平動物園なのだ。
同園では、6年連続で赤ちゃんを誕生させるのに成功し、また双子は実に3年ぶり。レッサーパンダを絶滅の危機から救う、日本平動物園の努力にも注目して園内を散策すると、単に来園者を楽しませるだけの施設ではないことを、しみじみと感じるはず。
繁殖に成功すれば当然、頭数は増えていく。「希望する動物園があれば、繁殖目的で他動物園に飼育をしてもらう形になります」と平田さんが話すように、“日本平動物園生まれ、○○動物園育ち”というケースは珍しくない。
「風太くん」は、日本平動物園にいたときに木に寄りかかって立つ癖があったそう。そして移住先の千葉市動物公園には寄りかかる木がなかったものの、癖を発揮したことで、直立不動ポーズが生まれて超人気者になったのだという。
そんな日本平動物園で生まれ、一躍レッサーパンダ人気を高めた風太くんの“DNA”を、双子の兄妹が紡いでいくに違いない。彼らはどんな顔を見せてくれるのだろう。
「今後、双子の赤ちゃんたちがどんなドラマを作り出すのか、一緒に楽しみながら見守っていただけたらうれしいですね。たくさんの方に、レッサーパンダの魅力を届けていきたい」(平田さん)
12月には名前が命名される双子の兄妹。どんな名前に、どんな兄妹に成長していくのか……、日本平動物園でレッサーパンダの歴史の証人になるしかないでしょ♪
双子の“叔父ちゃん”15歳になった風太くん
今も“たま~に”立ち上がるんです!
'05年、流行語大賞の自然・環境部門にノミネートされるなど、一躍“時の人”ならぬ“時のレッサーパンダ”になった風太くん。10年以上、飼育を担当してきた千葉市動物公園・濱田昌平さんにお話を伺うと――。
「人間で言うと70歳程度に相当する満15歳を迎えて、風太もすっかり“風太さん”といった落ち着きがあります。かつてのように活発に動き回るよりも、今は昼寝を楽しむほうが好きですね。ですが、エサを与えると今でも立ち上がる往年のポーズは健在ですよ。
今年は『風太15プロジェクト』と銘打ったさまざまなイベントを展開中で、現在は風太写真展を園内などで開催しています。風太はレッサーパンダの知名度を全国区に押し上げた功労者なので、節目の年に盛大にお祝いをしてあげたかったという気持ちがありました。当時を知らないお子さんが、風太に手を振ってくれる姿などを見るとうれしいですね。それだけレッサーパンダには人を惹きつける魅力がある。ここで生まれた風太の子どもたちは、現在、全国各地の動物園にいるので、会いに行っていただけると風太も喜ぶと思いますよ」
住所:静岡市駿河区池田1767-6
営業時間:9:00~16:30(入園は16:00まで)
休園日:毎週月曜日(祝日、振替休日のときは翌平日)、12月29日~翌年1月1日まで
料金:一般(高校生以上):610円 小・中学生:150円(未就学児は無料/団体料金は一般ともに別)
その他詳細は http://www.nhdzoo.jp/
(取材・文/我妻弘崇 撮影/渡邉智裕 写真提供/静岡市立日本平動物園)