高杉真宙 撮影/佐藤靖彦

 四方を舞台に囲まれ、客席が360度回転することで話題のIHIステージアラウンド東京で、劇団☆新感線・いのうえひでのりが仕掛ける大胆なステージ。『髑髏城の七人』シリーズに続いて観客を熱狂の渦に巻き込んだ『メタルマクベス』シリーズも、いよいよ『disc3』で最終章を迎える。

 この作品で、ランダムスター(マクベス)に父王を殺され濡れ衣を着せられる王子レスポールJr.と、'80年代日本のレコード会社御曹司・元きよしの二役を演じるのが高杉真宙さん。劇団☆新感線に憧れを抱いていたという高杉さんは、今回の出演を「夢のようですね」と微笑む。

まさか自分が劇団☆新感線の舞台に立てるなんて、まだ信じられません。

 『disc2』を見たときも“あそこに立つんだ”と思って緊張してしまったのですが、自分のことをどこか俯瞰で見ている自分も同時にいて。きっと自分をあまり信用できていないんですね

 とはいえ「僕の中の士気は日に日に高まっています」と、やる気は十分。この舞台が持つ楽しみのひとつが、高杉さんがレスポールJr.&元きよしとしてキャラクターの成長を見せながら、高杉さん自身も成長していくという入れ子状態なのだ。

 まずは彼に、レスポールJr.について語ってもらおう。

「父親の王が、笑顔でみんなのことを考えている人なんですよ。そんな父親のことをずっと見てきたからこそ、まっすぐで正義感が強く、明るい子なんだろうな。

 でも父親が殺されたことによって復讐者になっていくんです。このキャラクターは、最初はそんなに強くない。台本にもあるんです、“王位継承にはまだ早い”って。

 しっかりしていないこの子が、復讐を決めて闘っていくうちに、どんどん強くなっていく。そういう成長が見えるようにと、殺陣もつけてもらいました」

 そして、初演では森山未來さんが、今回も『disc1』では松下優也さん、『disc2』では原嘉孝さんが、各々の個性を反映したまったく違うバージョンで魅せてくれた元きよし役。今回はどうなる!?

元気じゃない元きよし(笑)

高杉真宙 撮影/佐藤靖彦

「演出のいのうえひでのりさんが、演じる人の色でこのキャラクターの個性を塗り変えていて。“僕だからこういう役になったんだろうなぁ”というところがたくさんあります。

 僕が見た『disc2』で原嘉孝さんの元きよしがああなったというのは“アイドルとしてはギリギリだ”って原さんは言ってました(笑)。

 僕のバージョンは、言ってしまえば病弱な、元気じゃない元きよし(笑)。いままでにないパターンです(笑)

『メタルマクベス』は音楽劇なので、当然、歌う。ミュージカル経験がない高杉さんにとっては挑戦だ。

「歌は今回、立ち稽古が始まる前から(劇団員で歌唱指導の)右近健一さんにレッスンをしていただいているんです。

 歌による見せ場があって、そこが今回の挑戦だと思っていますので、頑張らなきゃ。もともとの脚本にあるカッコよさみたいなのも、歌から伝わるようにできたらいいですね」

 密度の濃い稽古場で、何か新たな発見は?

“演技をしていてこんなに汗かくんだ!”ってことです(笑)。1回だけで、メチャクチャ汗かくんですよ。みなさん熱量がすごい。

 この1回にこれだけ込めるというのが稽古にも出ていて。本番になったらもっとだと思うんですよ。その熱がどこから、どんなふうに生まれて昇華されていくのかをこれから実感できると思うと楽しみです。ちょっとした恐怖もありますけど(笑)」

“傾く”という言葉

高杉真宙 撮影/佐藤靖彦

 もうひとつの発見は、共演者たちのオーラだという。

「僕は数年前に舞台をやらせていただいたとき、歌舞伎の語源になった“傾く”という言葉を初めて知ったんですね。

 この現場に入ってすごく思ったのは、“ここにいる人たちってみんな、普段の生活から傾いている人ばっかりなんじゃないかな?”ってこと(笑)。

 振り返る動きや立ち居振る舞いがみなさん、きれいなんですよ。もう、その人が存在している場所がステージ、みたいな感じがする。“これなんだろうなぁ、俳優として僕がもっと学ぶべきところは”と思いますね」

 高杉さんは今、主演映画が引きも切らず、最も期待される若手俳優のひとりだ。そんな彼が、演技をするうえでこだわっていることは。

「僕は演技をするとき、地面に立っていることが自分で気持ち悪くならないようにしたい、と思っているんです。そこは映像も一緒ですが、舞台では見えているもの以上をイメージしてもらわなきゃいけないですよね。

 劇団☆新感線はセットもすごいのでイメージも湧きやすいんですけど、さらに、そこから先が見せられるようにしたい。それには、自分の立っている場所や状況を自分自身で認識していることが大事だと思っています」

 まさに俳優としての成長期まっただ中にいる高杉さんは、闘志を燃やしている。

「今回は、自分の中でもすごく大きな階段を上っているという気がしています。演じる役と二人三脚で成長していければいいですね。まっすぐ純粋に、千秋楽の12月31日までこの役たちのことだけを考えて生きていけたら。

 1月1日に見える自分は、成長した姿であってほしいですから。そしてみなさんに“また一緒に仕事がしたい”と言っていただける存在になるのが、今の目標です

ONWARDpresents新感線☆RS『メタルマクベス』
​disc3 Produced by TBS

■ONWARDpresents新感線☆RS『メタルマクベス』​disc3 Produced by TBS
 2006年に劇団☆新感線が脚本家・宮藤官九郎と初タッグを組み、シェークスピアの『マクベス』をメタルロックの生演奏に乗せて大胆に翻案。2206年の荒廃した未来と、バンドブームに沸く1980年代の日本が交錯する熱い世界観が大評判をとった。今回は劇場やキャストに合わせた新演出で、3パターンのキャスト版を連続上演。シリーズ最終章を飾るのが本作だ。上演期間は11月9日~12月31日。詳しい作品情報はhttps://www.tbs.co.jp/stagearound/metalmacbeth_disc3/

たかすぎ・まひろ■1996年7月4日、福岡県生まれ。舞台『エブリ リトル シング'09』でデビュー。以後、テレビ『仮面ライダー 鎧武』『明日もきっと、おいしいごはん~銀のスプーン~』、舞台『闇狩人』、映画は『カルテット!』『ぼんとリンちゃん』『逆光の頃』『世界でいちばん長い写真』『虹色デイズ』などに出演。劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』では声優にも挑戦した。今後も主演などの映画がめじろ押しで『ギャングース』『笑顔の向こうに』『賭ケグルイ』が公開予定。

(文/若林ゆり)