誰もが知ってる有名企業&商品たちでも、その名前の由来は案外語られていないのでは? 思わず「へえ」と唸ってしまいそうな、名前に関するエピソードを大公開!
おもしろ企業名編
【キユーピー】
1900年ごろにアメリカで生まれたキャラクター『キューピー』。人形が売られるなど、日本でも大人気だった。
「食品工業が1925年に日本初のマヨネーズを発売する際、“キューピー人形のように誰からも愛される商品に育ってほしい”と、創始者・中島董一郎が『キユーピーマヨネーズ』と名づけました」(広報・稲垣雄一さん)
その願いどおり、日本の食卓に欠かせないものに。そんな看板商品にちなみ、1957年に社名をキユーピーに変更。
「キユーピーの“ユ”は、並字です。デザイン上のバランスを考えて、小文字ではなく、並字を採用しています」
【サントリー】
日本初の本格ウイスキー蒸溜所を作ったサントリー。躍進のきっかけは、その前身である寿屋が1907年に発売した『赤玉ポートワイン』にあった。
「赤玉を太陽に見立て、その“サン”と、創始者・鳥井信治郎の姓をつけ、1929年に国産ウイスキー第1号の『サントリーウイスキー白札』を発売しました」(広報部)
その後、『サントリーウイスキー角瓶』など、サントリーブランドを冠した商品を次々に発表。1963年には社名をサントリーに変更した。
【カルビー】
「カルビーの由来は、カルシウムの“カル”と、ビタミンB1の“ビー”を組み合わせた造語です。創業時の松尾糧食工業から社名を変更しました」(広報・荒川美咲さん)
カルシウムはミネラルの中でも代表的な栄養素。そして、ビタミンB1はビタミンB群のなかでも中心的な栄養素だ。戦後の食糧難の時代に、健康に役立つ商品を作りたいという創業者の思いが、社名に込められている。
【シャープ】
まさか、あの文房具が由来だったとは!?
「創業者が発明した繰り出し式鉛筆『エバーレディーシャープペンシル』にちなみ、『シャープ』は商標として使用していました。そして1970年、社長交代の際に社名を早川電機工業から現在のシャープに変更しました」(広報・平野勉さん)
“まねされる商品を作れ”という創業者精神を受け継ぎ、金属加工業から始まった会社は、文房具制作をへて家電メーカーに。
【花王】
「1890年に発売した高級化粧石けん『花王石鹸』が由来です。当時の石けんは高級な舶来品か、廉価で品質の劣る国産品しかありませんでした。この状況を何とかしたいと、創業者・長瀬富郎が、外国産に負けない高品質な純国産石けんを、職人や研究者とともに作ったんです」(広報・青山佳樹さん)
当時は、洗濯用石けんを“洗い石けん”と呼んだのに対し、化粧石鹸は“顔洗い”“顔石けん”と呼んでいた。その“顔”から連想し、香王や華王なども候補だったが、わかりやすい花王に決定したという。
【フマキラー】
まだ衛生環境がよくなかった大正時代。
「害虫に悩まされる人々のために、当社の前身である大下回春堂が世界初の強力殺虫液を開発、販売しました」(広報・川端さん)
そのネーミングは“Fly(フライ) and Mosquito(マスキート) Killer(キラー)”=ハエと蚊を殺すもの。ということで、英語の頭文字を取って『強力フマキラー液』に決定。その後、1962年に社名もフマキラーに変更した。
「人の命を守るため、世界中の害虫と戦う意志がストレートに伝わる社名だと思っています」
【エドウイン】
戦後、米軍払い下げの衣料品を販売していた常見米八商店では、中古ジーンズの輸入をへて、1961年に日本で初めてデニム地を輸入した。
「国産のジーンズを普及させていくために、覚えやすいブランド名をアナグラムの発想で考えました。DENIMの文字を入れ替えつつ、Mを逆さにして『EDWIN』。エド=江戸、つまり日本。ウイン=勝利。印象に残りやすいだろう、と決まりました」(広報・安藤武徳さん)
8年後、社名もエドウインに変更。世界初の中古加工ジーンズ『オールドウォッシュ』は大ヒットに。
【Zoff】
「社名には“究極のオフプライスを”という意味を込めています。究極の象徴として、アルファベットの最終文字“Z”と、オフプライスの“off”を組み合わせて、Zoff(ゾフ)です」(広報・東祐太朗さん)
フレームは1年間保証、レンズ交換も6か月以内なら無料、度数も変えられるという。
「価格以上の購買体験を、みなさまにお伝えしたいと考えています」
こだわりの商品名編
【日清焼そばU.F.O.(日清食品)】
発売は1976年。“焼きそばは皿で食べるもの”という日本人の食習慣になじむよう、カップ麺で皿型容器を初めて採用した。
「企画会議で丸いプラスチックのフタを何気なく投げてみたところ、空飛ぶ円盤にそっくりだったことから、その場で『U.F.O.』という名前に決まったそうです」(広報・松尾知直さん)
若者を中心に、この商品名が大ウケ。ちなみに、U=うまい、F=太い、O=大きい、の頭文字でもあるそう。
【正露丸(大幸薬品)】
「『正露丸』の主成分・木クレオソートの原料“木タール”は古代エジプトでも使用されていました。日本でも、明治時代には軍薬として森鴎外らによって活用されていました」(広報・中島杏子さん)
日露戦争の2年前となる1902年、薬商・中島佐一薬房が木クレオソートを主成分とする丸剤に『忠勇征露丸』と名づけ、販売許可を大阪府にもらう。『征露丸』は日露戦争時に日本軍の常備薬としても使用されていたという。
1946年、大幸薬品が『忠勇征露丸』の製造・販売権を継承。その後、国際関係を配慮し、“ロシアを征する”という意味を示す“征”から“正”へと漢字を変更した。
【フリクション(パイロットコーポレーション)】
書いても消せるボールペン『フリクション(FRIXION)』。特殊なインクを採用し、こすった摩擦熱によってインクが透明になる仕組みだ。
「ですので、摩擦を意味する英語“friction”に由来しています。Xを入れることで革新性や力強さを表現しています」(広報・田中万理さん)
命名にあたり、同社では欧州各国の代表が集まる会議でネーミング案を出し合ったそう。
「第1候補のFRIXIONが、晴れて日本の本社で採用されました」
【ヱビスビール(サッポロビール)】
サッポロビールの前身・日本麦酒醸造会社では“大黒ビール”という名を考えていたが、すでに商標登録されていた。
「なので、同じ七福神の『恵比寿ビール』に変更し、1890(明治23)年に発売。偽商標事件が頻発するほど大人気に」(広報・堀内さん)
その需用に応えるべく、1901(明治34)年には専用の出荷駅“恵比寿停車場”が開設され、5年後には旅客取り扱いが開始。
「現在の恵比寿駅です。さらに1928(昭和3)年には、周辺の地名が恵比寿通1丁目・2丁目と改称されました。駅名、地名にもなったビールなのです」
【ホワイトロリータ(ブルボン)】
1965年発売。ブルボンの袋ビスケットシリーズでもっとも古い歴史が。
「ホワイトクリームの白色が持つ清純なイメージと、ミルク風味が持つ柔らかなイメージを組み合わせ、連想したネーミングです。さらに、製造技術も考慮しています」(広報担当)
『ホワイトロリータ』をよく見ると、表面にねじれた筋が。これを刻むための回転機(ロータリー/Rotary)にも由来しているんだとか。
【源氏パイ(三立製菓)】
日本で初めてパイの量産化に成功した『源氏パイ』は1965年の発売。
「当時はまだ洋風のお菓子が珍しい時代。なじみを持っていただくために、あえて和風の名前を考えていたところ、翌年の大河ドラマが『源義経』と発表されました。その話題性を生かし、『源氏パイ』と命名。ハート型は、弓矢(鏑矢)の矢尻に似ていることにも由来しています」(広報・望月沙枝子さん)
さらに、'12年の大河ドラマが『平清盛』(主演・松山ケンイチ)に決まったことを受け『平家パイ』を発売したというから、ブレがない!
では最後に、記憶に残る独特なネーミングの商品をたくさん世に送り出している、小林製薬のネーミングの秘密に迫ってみよう。
もちろん、ふざけていません
『熱さまシート』『なめらかかと』『髪の毛集めてポイ』『チン!してふくだけ』『トイレ洗浄中』……。独自のネーミングセンスでトイレタリー分野を独走している小林製薬。あの〜、ふざけているわけではないですよね?
「もちろん、ふざけていません。“ダジャレっぽいね”と言われることは多いですね」
笑顔で答えてくれたのは、広報・IR部の鄭利花さんだ。
「ネーミングを考えているのは、それぞれのブランドの開発担当者です。まずは候補名を100〜200個くらい考えます。会議を重ねながら精査し、最終的には社長同席の会議で決まります」
“これ、完全にダジャレじゃん”なんて発言をしようものなら、怒られてしまうとか。
「会議はなごやかながらも、真剣そのもの。本社が大阪なので、大阪のノリはやっぱりありますね(笑)。でも、ウケ狙いだけではダメなんです」
でも、どうしてこれほどまでに独特な商品名をつけているのか?
「そもそも小林製薬のビジネスモデルは“小さな池の、大きな魚を狙う”なんです。例えば、シャンプー業界にウチが参入しても、絶対に売り上げは取れない。もっと大きな企業さんが、すでに取り組みをされていますから。ウチは、まだみんなが手がけていない“すきま”を見つけ、切り開いていくスタイルなんです」
確かに、使用後のトイレのにおいを消す『トイレその後に』、鼻うがい用の『ハナノア』など、従来にはなかった商品でヒットを飛ばしている。
「お客様にとって初めてとなるコンセプトの商品ばかりですので。その名前を聞いて、“何に使うものなのか”が伝わらないと、買っていただけませんから」
大切にしているのは、わかりやすさ。テレビCMも徹底している。
「“15秒の大勝負”と考えています。必ず“あっ、小林製薬”から始まり、まずウチの商品だと知っていただく。そして“こんな症状はないですか?”と問題提起。そして“そんなときには”と、商品を出して問題解決。最後にはさわやかな顔になる……という流れで“問題提起解決型”のテレビCMを作っています」
SNSで大反響を呼んだのは『ハナノアシャワー』。美女が鼻から水を滝のごとく垂らす画が“笑ってはいけないCM”とバズりまくり。それに伴い、商品も爆売れしたという。
「これも全然ウケを狙っているわけではなく、わかりやすさなんです。あくまで、鼻の奥まで洗えることを伝えるための画ですから」
かつて営業だった鄭さんは、入社5年目。うら若き乙女は、他社のおしゃれなCMやネーミングをうらやましく思ったこともあったという。
「“なんでウチはいつもダジャレっぽいんだろう?”と思っていた時期は、正直ありました(笑)。競合他社の営業は、人気芸能人の販促物などを持ってきて、売り場で勝負していましたから。
ただ、ウチがイメージ先行でおしゃれを追いかけてしまったら、結局、何のための商品かが伝わらないんです。伝えるべきは、おしゃれさではなく、商品名と用途と効果。これだけでいいんです」
すべてはお客様のためーー。これからも、世の中をあっと言わせるネーミングに期待!