一般常識から大きく逸脱したような奇抜な名前、それが“キラキラネーム”。12万人以上の名づけ相談にのってきた牧野さんによると、
「平成に入ると、候補名に奇抜なものが少しずつ見られるようになりましたが、それでも100に1つくらい。ところが、いまや候補名の3割は奇抜ですね」
キラキラネーム、実は昔からこんなにいた!
牧野さんのもとに真剣に持ち込まれたキラキラネームをタイプ別に見てみよう。
「これらの名前の難点は指摘したので、実際にはつけられていないと思います。また、挙げたもののすべてが絶対タブーというわけでもありません」
(1) 間違った読み方
星(あかり)、夢露(めろん)、族(やから)、銀河(はるか)、雪精(りた)、小夜(せれな)、世翔(せしか)など。
(2) 読み方は正しいが、あまりに奇抜
百万石(ひゃくまんごく)、日の丸(ひのまる)、北海道(ほっかいどう)、歩論(ぽろん)、燃史(もやし)、会子(えこ)など。
(3)外国の言葉を無理やり、漢字にした名前
大雅須(たいがーす)、新千絵(にーちぇ)、代羽(よはね)、里羅楠(りらっくす)、卓留(たっくる)など。
(4)意味と読みを混同した間違った読み方
王(きんぐ)、天使(えんじぇる)、業(かるま)、原子(あとむ)など。
さらには、別の熟語になってしまう名前【海月(みづき→くらげ)、心太(しんた→ところてん)など】、普通の名前なのに読み方を変えたために奇抜になった名前【英寿(えいず)、立樹(りっきー)など】など、もはや何でもアリ!?
「そもそもキラキラネームは、名づけの新しい流れだと思っている人が多いんですが、実は昔もありました。大正・昭和初期までは、キラキラネームは多かったんです。意外でしょ? もちろん、ランキングに入るほどの数ではありませんが」
有名どころでは、明治時代の文豪・森鴎外の子どもたち。
「杏双(あんぬ)、於菟(おと)、真章(まくす)、半子(はんす)、不律、茉莉、類です。そして与謝野晶子の子どもも、八峰(やつね)、エレンヌ、麟、宇智子、アウギュスト。現在のキラキラネームとまったく変わりませんよね」
昔はどんな奇抜な名前でも支障はなかった
有名人の子どもだから特別、というわけではない。人名辞典から選出した、昭和初期までのキラキラネームの例は、一覧表のとおり。
「これでも、ごくごく一部です。ただ、昔は奇抜な名前をつけても、周りがそれほどまねしなかったので、あくまでマイナーな名前でいられたんです」
当時は自分が生まれた村を出ることなく、生涯を終える人も多かった。
「むしろ、都会に働きに出るほうが少数派。だから、自分の村で暮らしていくぶんには、どんな奇抜な名前でも、支障はなかったんです。コミュニティーが小さいうえ、何十年も同じ人と付き合っていく。だから、みんながその名前を覚えてくれたんです」
ただ、現代は違う。社会生活を送るうえでは、不特定多数の人と必ず接する。
「名前の原則は、1人ひとつ。誕生して14日以内に出生届を役所に提出します。現在、名前に使用できる漢字は2999文字と決まっています。その範囲の字が使われ、空欄がなく、捺印されていれば、窓口で受理されます」
つまり、読み方(ふりがな)は問われない?
「名前の漢字の読み方は、法律の定めがありません。そのため、“どう読ませようと親の自由だ!”とおっしゃる方もいますが、文字は社会の共有物。読み方の約束があるからこそ機能を果たすもので、個人が勝手に作り出すものではないはずなんです」
どうしても嫌だったら、改名することも可能ではあるが、
「軽はずみに変えられないよう、法律で厳しく定められています。本人が15歳になって、“正当事由”があれば裁判所に申し立てができます。それを認めるかどうかは、裁判所の判断になります」
無知やエゴ、間違った個性の出し方によって、わが子に社会的ハンディを背負わせるような名づけは、親として避けなくてはいけないだろう。
(出典:日本人の名まえ、名前の読み方辞典、明解名づけ辞典、名乗辞典)
《PROFILE》
牧野恭仁雄さん ◎命名研究家。30年以上にわたり、12万人以上の名づけ相談に乗ってきたスペシャリスト。『幸せの扉をひらく赤ちゃんの名前辞典』(朝日新聞出版)など著書多数