「本当は苦手なんですよ、こういう役」
苦笑いする遠藤憲一(57)。犯罪エンターテイメント映画『アウト&アウト』で、無愛想だが心優しい元ヤクザの探偵・矢能を演じている。
「役作りをしていないと思われるかもしれないけど、普段の自分とは真逆。ただ、昔いっぱい演じてきたから、試行錯誤しながら見つけたスタイルってあるんです。でも、今回の作品は特に“どしんとしていてほしい”と監督に言われて大変でした。放っておけば、チャカチャカ動いている人間なので(笑)」
ある日、拳銃で撃たれ死体となった依頼人を発見する矢能。その場にいた男は「凶器の拳銃には、あんたの指紋だけがついている」とだけ言い残し、去っていく。このピンチを矢能はどうやって切り抜けるのか―。
強面&イケメン共演者たちの中で存在が光るのが、ある理由から矢能が預かることになった小学2年生の少女・栞。白鳥玉季ちゃんが演じる栞と矢能の掛け合いに、ホンワカさせられる。
「この作品でいちばん惹かれたのが、実の子じゃない少女とバディを組むっていうところ。栞がいない作品なら、出なかったかもしれない。極道みたいな役はやり尽くした感があるから」
大人びた口調で話す栞がとても可愛かったと伝えると、劇中では見られなかった満面の笑みを浮かべ、
「可愛いでしょ(笑)。役みたいに、すごく精神年齢の高い子。オレにあめ玉とか手紙をくれるの。そのあと、ほかの人のところにも行くと真顔でこっち見ながら“(遠藤が)傷ついちゃうかな? でも、あなただけじゃないのよ”って顔して相手に渡してる(笑)」
完成披露舞台挨拶で「泣くシーンで泣けなくて困っていたときに“(遠藤が)大丈夫だよ”って言ってくれた」と話していた玉季ちゃん。
「監督は、子どもに対しても相当深い話をする人。(撮影当時)まだ6歳の子だから、セリフを覚えるだけでも精いっぱいだと思うのね。それを、ここが違うって言われて、演技を修正していくって本当に大変なこと。本番中、いっぱいいっぱいになっちゃったときに“うっっ”って感情を抑えながら、乗り越えようとしている姿を見て、すげーなと思いました」
いつもとは違う撮影現場に…
メガホンを取る、きうちかずひろ監督は、大ヒット作『BE-BOP-HIGHSCHOOL(ビー・バップ・ハイスクール)』を手がけた漫画家であり、小説『藁の楯』の著者で、本作の原作・脚本も務める人。これまで、数々の作品で自らのアイデアを提案してきた遠藤だが、今作は違ったそう。
「以前、自分で書いて監督する人と一緒に仕事をしたときに、アイデアを出して大変なことになったことがあって用心はしていたんです。
衣装合わせのときに初めて監督にお会いして、“セリフの語尾を変えてもいいですか”とお聞きしたら、そんなに積極的な感じではないけど“いいですよ”と言ってもらえて。
オレ、現代劇ではセリフを一言一句覚えないようにしているんです。実際に撮影が始まったときの気持ちもあるし、相手に言われて変わってくることもあるので。
今作でも、初日から思いつくことを全部話して、数日たった、ある日に監督が“遠藤さん、これ以上、アイデア出さないでくれるかな。キリがないから。予算も日数もない。任せてください”って。それで全部任せることになったら、セリフも一言一句、変えられなくなっちゃって(笑)」
クランクアップの数時間後には、次の作品の撮影が入っていたこともあり、監督にきちんと挨拶ができなかったそう。
「完成した作品を見るまで、オレもそうだけど、監督も不安だったと思う。試写で見たら、すごく力のある作品になっていて。すぐに監督のところに行って“よかったです”って、笑顔で握手しました(笑)」
今作には、情報屋の役で竹中直人も出演している。その竹中を見て驚いたというのが、
「竹中さんって、ふざけるのが好きな人でしょ。自分の感性をありのままに表現するというか。それが、竹中さんの撮影初日を見たら、セリフを一言一句、違えずに言ってるの。
それで、“監督と初めてじゃないの?”って聞いたら、“もう何度もやっている”って。あぁと思って(笑)。竹中さん、自分から出演したいって言ったらしいから。監督のことが好きなんだと思う。オレも次は、頭から信用して、セリフを一言一句、覚えていきますよ。そうじゃないと、“だったよ”じゃないです“だった”ですって言われちゃうんだもん。そのくらい言葉にもこだわる監督なんです」
休日の過ごし方
「午前中はウォーキングをして、その後、喫茶店で本を読む。束の休みは、しばらくないです。でも、ガッツリ休むのは、あんまり合わないような気がして。
57歳なんですけど、まだ、なんて言うかな、実験で試験管を高速回転させたら何かが生まれるときがあるじゃないですか、その過程ですね(笑)。“20代じゃないだろう”って言われるんだけどね。
とにかく、やれることは全部やって、だんだん絞り込んでいって。でも、絞り込まれている感覚もない(笑)。どっか、まだ、なんか物足りなさを感じているんですよね」
バイプレーヤー仲間の大杉漣さんのこと
「今は、少し時間がたったから。直後は、みんなパニクっちゃって。まして、一緒にドラマで共演していた夜に亡くなったっていうのがあまりにも衝撃すぎて、わけがわからなくなりました。
ドラマ『バイプレイヤーズ』のメンバーってタイプが似ていて、みんな役者をやり続けている。そういう意味じゃ、仕事を終えた数時間後に亡くなったのが、すごいなと思います。あのときは、ものすごい悲劇が起きた感じだったけど、みんなやっぱり言ってたのは「幸せだったね」って。
あっという間に、人に迷惑をかけず、やりたいことをやって、亡くなっていく。確かに幸せな人生なのかもしれません。学ぶことばかりでした。お疲れさまでした、ありがとうございましたと伝えたいです。漣さんには」
<作品情報>
映画『アウト&アウト』
11月16日(金)よりTOHOシネマズ 新宿ほか全国ロードショー