永遠に変わらないものと、時代とともに変わっていくものがあるとすれば、美しさの定義は多分永遠に変わらないけれど、女の年齢観は、時代とともにどんどん変わっていく。とりわけ今この時代、年齢観は激しく動いているといっていい。
もうみんな忘れているはずだし、若い人はそんなこと信じられないというかもしれないが、わずか20年ほど前まで、“30代はもう中年、もうオバサン”というイメージがはびこっていた。実際に約20年前、女性誌は「30代はまだ若い」的な記事をたくさん作っていた。それがあっというまに、“アラフォーの時代”といわれるようになり、40代からを基準にする“美魔女”がもてはやされたりした。
そうこうするうちに、40代にしか見えない60代がコマーシャルなどに出て、この人はいったいいくつに見えるでしょう? 実は65歳ですといって世間を驚かす。それどころか、この数年でいきなり書きかえられたのが、人間の寿命。ついこのあいだまで人生80年といっていたのに、去年はあらゆる生命保険会社が「人生100年」を訴えた。
実際に、医療の進歩によって、がんなどの成人病でも人が死ななくなれば、まもなく“人生100年”は現実のものになる気がする。そうなると、今度は40代などまだ大人の子ども、女盛りが60代になるような、そんな構図さえ生まれてしまうのかもしれない。
古い年齢観にとらわれるのは損!
いずれにせよ、女性の年齢観はそんなふうにあっというまに変わっていく。古い年齢観にとらわれていたら、もうそれだけで損をしてしまう、そういう時代なのである。20年前までの“30代はもうオバサン”は、おそらく戦前から続いてきた非常に古い概念。そういう悪しき固定観念があったために、30代でわざわざみずからオバサンになってきた女性たちがどれだけいたことか。そう考えると、年齢観そのものが女性の年齢印象を決めているといってもよい。50代はまだまだ全然若いといわれたら、多くの50代は見違えるほど若返るだろう。
年齢とはそういうもの。年齢観の変化によっていくらでもポジションを変えていってしまう。つまり50代は、“人生100年”ならば、まだ折り返し地点にすぎない。ほんの少し前まで、50代はそろそろ人生のまとめに入るような年齢だったはず。それがまだまだ折り返し地点といわれたら、これはもう劇的な変化。意識をしっかり変えなければいけない。今そうしなければ、すぐにまた新しい年齢観に置いてけぼりになるはずで、ともかく今後は50代が折り返しなのだと、ぜひ心に刻みつけてほしいのだ。
とはいえ、生物学的にアラフィフの体が若くなるような変化が起きるわけではない。単純に寿命が予定より延びただけ。つまり、50代前後で更年期がくることに変わりはないのだ。
先入観なく自分の体を見つめて
そう、更年期といえば、今でもどこかで“閉経すると、もう現役の女ではない”ような言われ方をしている。これこそが思いこみ。閉経が訪れても、正直何も変わらない。たしかに女性ホルモンの分泌量は減るけれども、人間の体はとても神秘的で、そうなると女性ホルモンのかわりをしようとする別のホルモンが働きかけて、人が一気に衰えるの防いでくれる。それどころか、女性ホルモンは減っていく過程でバランスがくずれたときにさまざまなトラブルを起こしやすく、30代40代、言うならば女性ホルモンが暴れるような時代があったはずで、逆に閉経後は女性ホルモンが低下しながらも安定するので、トラブルが一気に減ったりする。ニキビや肌あれがなくなるのだ。だから、閉経後のほうが、むしろ肌がキレイになったと証言する人も少なくない。
実際、自分自身も閉経後にトラブルがなくなり、正直以前より肌がキレイになった。今まで言われていたことと、まったく逆じゃない? と驚いたもの。人はそんなに簡単には衰えない。そんなに簡単には枯れていかない。そういう確信をもったもの。
もちろん、年齢は確実に進んでいく。いくら肌が安定したからといって、年齢対策を怠ってはいけない。もっと言うなら更年期の前と後で考え方を少し変えたほうがいいのかもしれない。
気力と体力を高めるエイジングケアを
自分自身の場合をいえば、外から与える化粧品だけに頼ることなく、内側から働きかけるインナーケアの比重を多くした。たしかに、コラーゲンは簡単には補えない、体の中でコラーゲンを生み出すのはとても時間がかかるといわれるが、保湿としてのコラーゲンであれば、やはり与えない手はない。さらに、酵素サプリでもヨーグルトでも、自分に合った方法での、毎日のお通じを考えた腸活は迷わず習慣にすべきだろう。
しかし、いちばん大切なのはやはり“元気をつくるエイジングケア”だ。更年期症状として、ホットフラッシュや肩こり、頭痛とともによく聞かれるのが、気持ちの落ちこみ。意味なくふさぎこむことが多くなるというのだ。実際自分もそれを体験したからよくわかる。なんだかネガティブになり不安になる。
つまり、更年期からもし一気に老けていくとしたら、この心の問題が大きいような気がする。前向きにものを考えられなくなることが、自分はもう若くないと決めつけてしまう要因となるからである。だから「疲れてない?」と聞かれるのは問題。なんとしても「元気そう」とほめられなければいけないのだ。それがアラフォーからの若さだから。
そこで50代からは、気持ちを前向きにし、元気をつくるインナーケアがマストとなる。かつて一大ブームとなったコエンザイムQ10などのように、細胞エネルギーを高めて元気をくれる成分をサプリでとるような。
今や多くのサプリが、ひとつの手ごたえとして“朝すっきり起きられる”というものをあげているが、まさにそれでいい。それは、細胞エネルギーが高まったひとつの証だから。
そうやって気力と体力を高めることが、アラフィフ以降のアンチエイジングの基礎になる。そのうえできちんとスキンケアをすること。経験上ひとつ確かなのは、アラフィフからはやはり毎日毎日肌をふくらますようなお手入れをしなければいけないということ。言いかえれば、閉経以降からはただ化粧品を塗って効果を待っているだけではダメ。その日その日の肌を潤いでふっくら潤わせ、キメを整えハリをつくる、そういう手作りのスキンケアが必要になるのだ。インナーケア+手作りのスキンケア。新しい習慣にしてほしい。
50代からは新たなステージに
一方、50代はまだ人生の折り返し。最長あと50年を、いったいどう生きるのか? それを今から考えることがもうひとつのアンチエイジングになると思う。
これからの時代、おそらくは人生の第二部をどう生きるかということがとても大きなテーマになる。子育ても一段落し、仕事をもっている人もひとつの節目を迎える時期なのかもしれない。そのときにもうひとつ、“何か人生でやっておくべき、もうひとつのこと”を見つけるのが、若々しく生きる大きなカギとなるのではないかと思うのだ。
趣味を極めるのもいい。ボランティアでも何かのサークルでもいい。もちろん新しい仕事を始めることかもしれないし、何かもっと別の、新しい物事に取りかかることかもしれない。なんでもいいのだ。セカンドステージのテーマをもつこと。それが若々しく美しく年を重ねる絶対のカギになる。
くしくも今、あえて白髪を染めないグレイヘアのオシャレが脚光を浴びつつある。いかに人生が2回営めるとしても、加齢は今までどおりやってくる。でも、それさえも前向きに考えようとする時代がもう始まっているのだ。どうしたってやってきてしまう衰え。なかでも白髪は、正直いまだに原因や対策がすべては解明できていない謎の多い衰え。そういう意味でも少し前は、あえてグレイヘアにしたいと思う人は少数派だったかもしれない。しかしそれが今やひとつの憧れとなっているのだ。自分もあのエレガントなグレイヘアになれるのなら、年をとるのも怖くない、そこまで思う人がふえている。
しかも、グレイヘアにすると、がぜんオシャレが楽しくなる。まるでブロンドのように黒髪では似合わないような髪型や服が不思議に似合うようになるのだ。だから今まで挑めなかったオシャレにもどんどん挑めるようになり、ましてや全女性の憧れとなりつつあるグレイヘアならば、街へ出てもあらためて視線を浴びるようになるかもしれない。
それもまた、美しさのセカンドステージがやってくることにほかならない。アラフォー以降、あらためてこれからめざせる美しさが待っているなんて、やっぱり今まで考えられなかったはず。でも本当にそういう時代がやってきたのだ。もちろん今その一方で美容医療がどんどんポピュラーになってきているが、それ以上に、化粧品が美容医療に肩を並べるのではないかというほどの勢いで、目覚ましい進化を遂げつつあることも、ちゃんと知っておきたい。
たとえば、皮膚のシートのようなものを肌に貼って、シワもたるみも見えなくしてしまうような新しい提案が発売を待っているのだ。人生が100年になるならば、化粧品の進化もそれに合わせて対応するはず。しかも最先端ケアがまるでクスリのジェネリックのように、どんどん低価格で手に入るようになってくる。そういう若返りも目覚ましい時代に生きる今のアラフィフこそが、先頭に立って次の時代を担っていくことになるはず。
だから絶対にまとめに入らないで。むしろこれからもうひとつの人生が始まるのだから。むしろこれからセカンドステージの美しさが始まるのだから。
さいとうかおる/美容ジャーナリスト、エッセイスト。女性誌編集者を経て独立。女性誌において多数の連載エッセイをもつほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなど幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。新刊『大人の女よ!もっと攻めなさい』(集英社インターナショナル)ほか、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。
(「新春すてきな奥さん 2019年版」より転載)