「夫が年々、口うるさくて頑固になってきました。定年が間近に迫り毎日、家にいるかと思うとドーンと気分が下がります」(58歳・パート主婦)。「夫は不潔でだらしないし、家事もしない。子どもが独立したら、ふたりだけになるかと思うとゾッとします!」(53歳・会社員主婦)。
脳の男女差を知れば夫と歩み寄れる!?
11月22日は「いい夫婦の日」。いつまでも一緒にいようと誓ったあの日から数十年、好きになって結婚した相手が今や粗大ゴミ同然。捨てずに、これからも一緒にいるにはどうしたらいい?
「実は50代の熟年こそが“いい夫婦”になる最も適した時期なのです。その理由はあとでお話ししますが、まずは脳の男女差を知って、夫の扱い方をマスターしていきましょう」
こう教えてくれるのは、人工知能研究者で脳科学コメンテーターの黒川伊保子さん。
なんと、“ゴミ”が有益な資源としてリサイクルできるというが、はたして?
「男性脳と女性脳の大きな違いは、認識フレーム(処理、対応)の違いです。同じことが起こっても男性は事実として記憶し、女性は感情で記憶します。女性は心、男性は結果を大切にするということを覚えておきましょう」(黒川さん、以下同)
女性は感情で記憶をするので「あのときもこうだった」とケンカのたびに昔の夫の愚行を引っ張り出す。
一方、男性はすでに謝った過去をなぜ持ち出すのか、まったく理解できない。そんな男女の脳の違いを理解すれば、これからはグッと暮らしやすくなるという。
夫にごはんを作っても「おいしい」と言わないし、掃除や洗濯をしても「ありがとう」なんて絶対に言わない。「私のことなんか家政婦ぐらいにしか思ってない?」と、熟年妻は夫に期待することもなく、あきらめの境地に。
「夫の愛情表現は言葉ではなく“責務を果たす”ことなのです。毎日、働いて給料を家に入れる。これが夫にとっての愛する妻への行動なのです」
ぶっきらぼうで無口な夫も実は愛情たっぷりだったというワケだ。
夫の責務を果たすという習性を上手にコントロールすると、これまで見向きもしなかった家のことに参加する意識が養われるという。
「夫にプロフェッショナルな係をつくりましょう。例えば電球替えなど簡単なところから始めてみては?」
たとえ、妻ができることでも、できないフリをして夫に頼むのがコツ。
「“お父さんがいないと生きていけないの~”という妻の態度が夫を動かします。わが家は、麺ゆでを夫の担当(責務)にしてプロフェッショナルになってもらいました。その結果、いまではそば打ちに興味を持つまでになりました」
また、ルールに沿ってやることが好きなのが男性脳。皿洗いも手順をきちんと説明すれば、ルールどおりにやってくれるのだ。
「皿の洗い方を説明せずに、裏がヌルヌルだったと怒ったりしてはいけません」
妻は自分が忙しいとき「察して手伝ったら?」と思うが、男性脳は「察する」ということがストレスになる。女性は、逆にプロセスをきちんと説明することが苦手だが、そこをクリアすれば、夫はロボットのように家事をしてくれる。
やっぱり“触れ合い”が大事
「最初に男女では認識フレームが違うとお話ししましたが、共通フレームを手に入れることで、夫婦関係は抜群によくなっていきます。そのひとつが触れ合うことです」
夫婦で夜の営みがなくなって、気がつけば何年間も夫に触っていなかったなんてことはザラ。
「7年ほど前から毎朝、夫をハグして見送ることにしたんです。最初は驚いていましたが、今では抱き合ったまま話をしたりしていますよ」
ハグは無理でも手をつなぐくらいならできるかも。
触れ合うことに加え、定番にすることが重要だという。
「男性は理髪店を変えない、同じ店に行って同じ酒を飲むといった定番があると落ち着きます。そのため触れ合いながら定番の作業をすれば、共通フレームが増えます。私はハグのほかに夫を趣味の社交ダンスに誘いました。最近はずいぶん上達してきましたよ」
社交ダンスはハードルが高いかもしれないが、庭やプランターでハーブや野菜を育てるなど興味があるところから始めるのがオススメという。
「園芸のお買い物をしながら、手をつないでみては?」
共通化のカギは「冷静に説明すること」
「なぜ“いい夫婦”をつくるチャンスが熟年なのか。それは50代になると性差が少なくなり、お互いが理解できるようになる時期だからです」
男性は合理的で社会派、女性は感情的で家庭派。これを共通化していくのに50代は最適だとか。
「成功させるためには、まずは夫婦に“あうんの呼吸”は存在しないと思ったほうがいいでしょう。少し難しい話になりますが、ヒトの免疫にかかわるHLA遺伝子というものがあります。
人は自分と違うHLAを持っている異性と生殖相性がよく、お互い惹かれ合います。違うタイプだから結婚したのであって“言わなくてもわかって”というのは、難しいことなのです」
夫との共通化をスムーズに行うには、妻が冷静に説明することが大事だという。
「仕事上でよくいわれるホウレンソウ(報告、連絡、相談)をマスターしましょう。事細かに今日、行った家事を夫に報告してください。最初は聞かないかもしれませんが、次第に夫は上司の気分になって、フンフンと聞いてくれるようになりますよ」
いい夫婦作戦は、脳に受け入れ態勢がある50代前半から始めるのがいいという。
「夫が退職してからでは妻がやることが増えるので、今から始めるのがチャンスです」
これから先の長い人生、少しでも夫が変わることで、ストレス軽減になるなら、試してみる価値アリ!
(取材・文/山崎ますみ)
《PROFILE》
黒川伊保子さん ◎くろかわ・いほこ。1959年生まれ。人工知能研究者。脳科学コメンテーター。感性アナリスト。随筆家。30年以上にわたってAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。著書に『女の機嫌の直し方』など多数。