かつては展示物を鑑賞するだけという受け身の要素が強かった美術館や博物館。だが近年、ただ見る・学ぶだけのスポットから変わりつつある。企画や催しを体験できたり、“インスタ映え”を狙って撮影できたりと、世代や国籍を問わず親しみやすくなっているのだ。
建物や周囲の自然と融合した施設が人気に!
「知識や教養がないと楽しめないような展示方法だったり、敷居が高いものは、もう古い。訪れる人の誰しもに魅力が伝わる仕掛けを盛り込んだ施設が人気となっています」
こう教えてくれたのは、美術館や博物館に詳しいライターの浦島茂世さん。
その傾向は、訪れた人の評価にも表れている。大手口コミサイト『トリップアドバイザー』が調査した最新の人気ランキングによると、美術館の場合、収蔵作品はもとより、建物や周囲の自然をも含めて総合プロデュースされた施設が上位に。
「1位の『豊島美術館』は島の自然と融合した斬新な作りが美しい。3位の『根津美術館』は新国立競技場を設計した建築家・隈研吾氏による建物と周辺環境の調和が素晴らしい。都心ながら秋には紅葉も見事で人気です」(浦島さん、以下同)
自然の美を取り込む展示や作品は、ここでしか体験できない希少性があると口コミやSNSで話題に。評判を聞きつけて、ミュージアムを目当てに日本を訪れる外国人も増えている。
なかでも6位の『足立美術館』は、5万坪もの庭園が外国人観光客の心をとらえ、2018年4月〜9月は前年同期比39・8%増の約2万2000人が来訪。国際定期便がある米子空港やクルーズ船が寄港する境港からの観光客も急増し、地域経済活性化の一因ともなっている。
「日本庭園の素晴らしさを感じていただけるのは世界共通のようで、今年度の外国人入館者は、過去最高の4万人も見込めると思います」(足立美術館・武田亘さん)
こうした傾向を受けて、文化庁は2020年東京五輪に向けて訪日観光客の呼び込みを強化。文化財の解説に英・中・韓の多言語対応を進める事業を展開している。
また、博物館の2018年ランキングでは、展示方法にすぐれた施設の評価が高い。
「5位の『いのちのたび博物館』の骨格標本展は、リズミカルなパレードを見るような迫力の展示。また9位の『国立民族学博物館』は、生活道具など幅広い展示品が独特です。各館とも、ストーリーがあったりQ&A方式にしたりと、飽きないよう工夫を凝らしています」
エンタメ的要素を演出し、誰もが感覚的に楽しめるよう考えられているのだ。さらに、オリジナルグッズや併設カフェのメニュー開発などを含めた周辺ビジネスも盛ん。
「今後、人口が減少する中、施設を維持するためにも新しいファンを獲得せねばならない事情もあります。とはいえ、質の高い展示が世代や国籍を問わず楽しめたり、カフェが充実したりするのはうれしいですよね」
地域貢献を掲げてバブル期に急増した企業ミュージアムにも、再び注目が。17位の『UCCコーヒー博物館』では3Dラテアートに挑戦できたりと、体験型ミュージアムの人気が高まっている。
まさに大人から子どもまで気軽に楽しめるワンダーランド・ミュージアムの世界。ここからは、今アツい“王道ミュージアム”をご紹介したい。
今年は世界的名作を拝める奇跡の年!
美術館の醍醐味、企画展に行くならいまがチャンス! 一生に1度は見ておきたい名画や大作がそろい踏みだ。先月5日に開幕した『フェルメール展』は、オランダの天才画家、ヨハネス・フェルメールの現存する35作品のうち、欧州の主要美術館から9点が上陸。
『フランダースの犬』のネロが憧れた画家としても著名な『ルーベンス展』、《叫び》で有名な『ムンク展』が開かれるなど、美術史に輝く巨匠たちが東京・上野に集結している。
こういった世界的名作を日本で鑑賞できる機会は、国交樹立を祝う周年事業などの国家的文化交流か、所蔵美術館の改修時期などに限られる。ところが、今年は偶然、これらの時期が重なったため3展同時期開催という奇跡が起きたのだ。
『ムンク展』へ、いざ潜入
日本でも人気の高い画家とあって、いずれの企画展も盛況。なかでも、記者が『ムンク展』を実際に訪れてみると、数々の発見が!
最初にムンクの人物像を紹介してからテーマごとに進む構成で、初心者にもわかりやすい。有名な《叫び》が本当は耳をふさいでいる姿だと知ると、思わず2度見してしまう!
独特の画風から狂気をはらんだ作家と思われているが、100点もの展示作品の中には、自撮り写真や明るい風景画もある。解説も見やすく、孤独を感じ人生に悩む姿に、どこか親近感を抱かせるから不思議だ。
「展示されている《叫び》は現在する4点のうち、日本初上陸のもの。展覧会で解説を読むと、ムンク自身は悩んだり絶望したり、ずっと人生をこじらせていた様子が垣間見られます(笑)。それでもどこかポップで、色使いが意外に明るいのも人気の理由だと思います」
と、前出の浦島さん。
教科書に載るような名画が並ぶとあって、気構える人も少なくないが、
「事前準備は必要なし。作品について予習すると、実際に展示を見ても、その確認作業になってしまいがち。ノープランで行き、気になったことがあれば、あとで調べればOKです」
こうした企画展では、企業や人気キャラとのコラボグッズの販売や、俳優や声優による音声ガイドを導入するなど、より気軽に楽しめる工夫が随所に。
話題の企画展を見逃したり、遠方で見に行けなかったという人は、巡回展に注目。今年5月〜9月に東京・国立新美術館で開催され30万人以上を動員した『ルーヴル美術館展 肖像芸術─人は人をどう表現してきたか』は、大阪市立美術館で開催中。9月22日に始まり10万人以上が来館、関西でも人気を集めている。
「こうした有名画家の企画展は、美術館の収蔵作品による常設展・コレクション展の魅力を知ってもらえる、いい機会になります。海外の大物にも引けを取らない名画にも出会えるかもしれないので、ぜひ気軽に足を運んでみてください」(浦島さん)