テレビを見ていて「ん? 今、なんかモヤモヤした……」と思うことはないだろうか。“ながら見”してたら流せてしまうが、ふと、その部分だけを引っ張り出してみると、女に対してものすごく無神経な言動だったり、「これはいかがなものか!」と思うことだったり。あるいは「気にするべきはそこじゃないよね〜」とツッコミを入れたくなるような案件も。これを、Jアラートならぬ「オンナアラート」と呼ぶことにする。(コラムニスト・吉田潮)
オンナアラート #23 ドラマ『獣になれない私たち』
ブラック企業のパワハラ上司に悩まされる女性、ちゃっかり要領のいい同僚や、使えない若い男に仕事を押し付けられて疲労困憊(こんぱい)している女性、線路をみると飛び込んでしまいそうな自分が怖い女性、なかなか同棲に踏み切らず、結婚も煮え切らない彼氏に悩む女性、DV父に殴られたことのある女性、マルチ商法に手を出した母親に貯金を使われて会社にまで来られたことがある女性、ビッチな女友達に彼氏を寝取られた挙句に「普通だったよ、ヤってみたけどあれくらいの男ならそのへんにごりょごりょいる」なんて言われちゃう女性……。
これ、全部、ひとりの女性が背負っている。『獣になれない私たち』(日本テレビ系・毎週水曜夜10時)の新垣結衣だ。
なんてドラマだ!
こうしてまとめてみると、ガッキーが不憫(ふびん)でならないし、あまりに救いのない状況だ。まさしくオンナアラート案件でもあると言いたいところだが、NOと言えない・言わないのは誰のせいでもない。自分の責任である。
主語が自分じゃない人生を送ってきたのは、ほかならぬガッキー自身なのだ。自分で自分の人生を放り投げていたことに気がつき、ようやく自分の足で方向転換をした。そんなガッキーにエールを送りたい段階まで物語は進んでいる。
では、誰にオンナアラートを鳴らしたいか。ひとりはガッキーの元彼氏になってしまった田中圭。そして、その母である田中美佐子だ。今回はW田中の役どころに発令したい。
優しさは裏返せば自分かわいさ
田中圭が演じる京谷はそこそこエリートで、マンションも購入している。ガッキーのことが好きで、付き合って4年にもなるのに、なかなか煮え切らなかったのは、元カノの黒木華が自宅を占拠していたからだ。
別れ際に「仕事が見つかるまでは家にいていい」と優しさと度量の広さを見せたからこそ、居座られた。別れた女にいい顔したい、嫌われたくないっつう自分可愛さが見える。そこにまず激しくオンナアラートである。
なぜとっとと追い出さない? なぜ4年も許していた? その貴重な4年、ガッキーを待たせた罪は重いぞ。もっといえば、黒木に対しても中途半端な同情をするからこじれたわけで。そこに「男の器、盛り増し」を感じる。「寛大な自分」に酔ってただけでしょ。
まぁ、黒木もかなり図々しいうえに、すべてを人のせいにする性格の悪さは問題だ。が、ここまで意固地にさせてガッチガチに固めてしまったのは、田中圭の中途半端な優しさでもある。
優しくてお人好し、というのもここまでくると、罪深い。ただ単に、嫌われたくない、悪者になりたくないという「自分がかわいい」人にしか見えない。
実は細かい部分でも、厄介な男だった。
菊地凛子が履いていた強気モード系のヒールを見て、「ああいう靴、どこにアピールしてるんだろう?」と言う。松田龍平にお持ち帰りされたものの、ぞんざいな扱いを受けて怒る女性を見て、「女の子のほうも軽そうだったもんなー」と言う。
女性からすれば「はぁ?そこじゃないでしょ」という観点。なんか、たった一言なのに、致命的で絶望的。女は、男ウケするために服を選んでると思ってる? 男目線で軽そうに見えれば何をしてもいいとでも?
さらには、菊地に誘われるままにセックスしちゃうわ、スマホ忘れるわ、脇甘すぎるし。かといえば、ガッキーの苦悩を知っているからこそ、あえてヒールを演じた松田を殴りつけたりして。
妙なところで男気出すわりに、「(ガッキーを)幸せにしてくれるなら」と身を引くそぶりも見せる。責任逃れ。偽善。優しいフリして結局は自分のことが一番かわいい。
つまり、田中圭は「男のイヤなところとズルいところを凝縮した権化」である。そこそこエリートで、いい身体していて、外ヅラよくて優しくて、かなりの優良人材に見えるが、こういうのにほだされちゃいかんぞ、と奥歯でぐっと噛みしめた次第。
家族にひとり、頑張りやさんがいると迷惑
さて、そんな田中圭の母親役の田中美佐子も、アラート案件だ。寝たきりの状態である夫を自宅で献身的に介護している。
もうひとりの息子・金井勇太からは入院を勧められているが、拒み続けている。劇中では、美佐子と夫との若かりし頃の出会いが郷愁たっぷりに語られるシーンがあった。夫を心の底から愛している、という背景なのだが、心を鬼にして、大声で言わせてもらうぜ。
家族の中にひとりだけ、介護を頑張っちゃって背負いこむ人がいると、他の家族はめっちゃ大変! クッソ迷惑! 愛しているのはわかったけれど、愛があるなら専門知識と技術をもったプロフェッショナルにまかせなよ!
「お父さんがかわいそう」「お父さんの介護は私が!」なんつって、頑張り過ぎて身体を壊しちゃったりすれば、共倒れ。もっと大変な状態になる危険性もある。息子の嫁(青山倫子)も結局介護をするハメに……。え、それでいいのか? 幼子抱えて、それでいいのか?
私事だが、今年の春、父をようやく特別養護老人ホームに入れた。母がひとりで頑張るタイプで、その結果、ふたりともが倒れて、どうしようもない状況になった。そこでようやくホーム入居を決断した経緯がある。
ところが、「お父さんを家に帰そうと思うの。あんなところにいてかわいそう」と定期的に言い出す。老々介護は不可能な状況だと何度も言っているのに、世話焼きの頑張りやさんは自分で背負いこもうとする。父をホームにおいやった私がまるで悪者扱い。
悪者上等。血も涙もないと言われようと、母の健康状態と残りの人生を考えれば、父は安心して暮らせるホームにいるほうがいい。そんなこともあって、田中美佐子にちょっと舌打ちしてオンナアラートを鳴らしたいのだよ。
なんで介護っつうと、女が背負い込む形で、美談にされちゃうのかなぁ。
吉田潮(よしだ・うしお)◎コラムニスト 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。テレビ『新・フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターも務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)ほか多数。新刊『産まないことは「逃げ」ですか?』に登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/