辛くて重い、男の酒……そんなイメージが根強いウイスキー。だが、時代は変わりつつある。糖質は少なく、炭酸水で割るハイボールはスッキリと飲みやすい。そのうえ、ウイスキー独特の風味やコクも感じられるとあって、女性の間でも人気が高まっているのだ。
加えて、NHKの朝ドラ『マッサン』で描かれた、ウイスキー造りに情熱を注ぐ夫婦の愛の物語は、多くの女性たちが夢中に。ウイスキーの存在が身近に感じられるきっかけとなった。
マッサンとリタの愛に涙!余市・ニッカウヰスキー蒸溜所
ご存じのとおり、作品のモデルとなったのは、ニッカウヰスキー創業者である竹鶴政孝と、スコットランド出身のリタ夫人。ドラマの撮影も行われた北海道にあるニッカの余市蒸溜所は、見学無料で土日祝日もオープンしている人気の観光スポットでもある。『マッサン』で描かれた世界を通じて、ウイスキーの魅力を知る旅に出かけてみよう。
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JR余市駅を出ると、まっすぐのびる道路の先に蒸溜所の正門が見える。アーチ型の入り口を抜けると、石造りに赤い屋根をのせた建物がいくつもあり、異国のような雰囲気だ。
「政孝がウイスキー造りを学んだスコットランドの蒸溜所をイメージして造られました。1934年の創業当時に造られた建物が現存していて、9棟が登録有形文化財に指定されています」
そう教えてくれたのは営業部部長の三上博康さん。
余市蒸溜所で造られるのは、大麦の麦芽を原料にしたモルト原酒。その製造工程に合わせて、乾燥棟や発酵棟、蒸溜棟などが正門の近くから順番に並んでいる。
いちばんの見どころは蒸溜棟。貯蔵前の最終段階で、ポットスチルという蒸溜器に液を入れて加熱するのだが、その方法は石炭での直火焚き。熟練の職人がタイミングよく石炭をくべていく。世界的に稀少という技法の迫力に圧倒される。
「伝統的な石炭直火蒸溜を続けているのは、世界でもわずかです。手間はかかりますが、これによって余市モルトならではの重厚なコクと香ばしさが生まれます」(三上さん、以下同)
飽きることない蒸留所めぐり
製造工程の建物を過ぎてしばらく進むと、『マッサン』ファンなら見逃せない旧竹鶴邸が! 見学できるのは玄関とホールのみだが、和洋折衷の造りや、リタの誕生日に政孝が贈ったメッセージ入りの本に、2人の愛の深さが垣間見れる。壁に飾られたリタの写真は女優のように美しかった。
続いて、登録有形文化財の1号貯蔵庫の内部へ。奥にモルト原酒入りの樽が並び、ウイスキーに通じる香りが立ちこめ、心が躍る。
「熟成期間は同時に造った原酒でも樽ごとに違います。ブレンダーが定期的に香りを確認し、決めています」
敷地には長さ50mの貯蔵庫が計26棟、樽はいくつあるのやら。その樽もまた、1つずつ職人の手で造られ手入れをされている。
その向かい側は、貯蔵庫2棟を利用したウイスキー博物館。中へ入ると、まずウイスキーの知識にまつわる展示があり、奥には高級ウイスキーも並ぶ試飲スペースが。博物館では、政孝のウイスキー造りの軌跡をたどることができる。リタとの暮らしも紹介されていて、それを見て「涙する女性も少なくない」と三上さん。『マッサン』放送当時には年間約90万人が、放送から3年がたつ昨年も58万人を超える見学者が訪れる人気ぶりだ。
博物館の奥に位置するニッカ会館の2階には、お待ちかねの無料試飲会場がある。1人につき3杯限定で、現在は(1)=余市蒸溜所のモルト原酒のみを原料とした『シングルモルト余市』(2)=亡くなったリタへ捧げて造った政孝渾身の『スーパーニッカ』。丸みを帯びたボトルは「リタの涙」と称される
(3)アップルワイン=ウイスキー完成前に販売を始めたロングセラー、の3種類。会場で水、氷、炭酸水のサーバーを自由に使え、おつまみも販売されているので、好みの飲み方で楽しもう。
加えて、同・1階にはレストラン「樽」があり、北海道の食材を使ったメニューが好評。蒸溜所内には見どころがたくさんあるので、ここで食事をとり、時間をかけて回るのもおすすめだ。また、ウイスキーはもちろん、ニッカウヰスキーのオリジナル商品、地元の海産加工物やお菓子などの種類豊富な売店もある。
それにしても正門からここまでよく歩いた。聞けば広さ4万坪もあるそうで、竹鶴夫妻の大きな夢を実現し続ける余市蒸溜所は、敷地もまた大きかった。
ウイスキーを存分に味わうには?
マッサンが人生をかけたウイスキーの魅力について、マーケティング担当課長・横山博彦さんは、こう話す。
「同じウイスキーでも、水割り、ロックと飲み方を変えるだけで、味や香りといった表情が変わります。ワインやビールのように急いで飲みきる必要もなく、味の変化もアレンジも楽しめるウイスキーの素晴らしさを実感してください」
ウイスキーの基本を知っておけば、おいしく味わうだけにとどまらず、奥深い世界がさらに楽しめる。
その種類は、大きく分けて2つ。大麦麦芽(モルト)を原料に1つの蒸溜所で造られる「シングルモルト」と、さまざまな蒸溜所のモルトウイスキーに穀物(グレーン)を加えて造る「ブレンデッドウイスキー」だ。
ウイスキー初心者がハイボールを楽しむなら、すっきりした味のブレンデッドがおすすめ。ニッカウヰスキーでは、ウイスキーにさまざまな素材を合わせてハイボールをアレンジした飲み方を提案しているが、それにも飲みやすい香りと味わいのものが合うそうだ。
そして、ウイスキーの魅力をもっと知りたくなったら、少し高価なブレンデッドや、複数の蒸溜所のモルト原酒を混ぜて造られた「ピュアモルト」へ、ランクアップするといいだろう。
マッサン&リタ夫妻に思いを馳せつつ、ウイスキーにトライしてみよう!
“下町の人気酒”のルーツをたどりに!三重・宮崎本店
焼酎甲類『キンミヤ焼酎』、通称“キンミヤ”をご存じだろうか。焼酎甲類というのは、居酒屋でレモンサワーや緑茶ハイを頼んだとき、ベースとして使われることが多い酒のこと。脇役的存在であるはずが、いま、下町を中心にキンミヤへのラブコールが絶えず、圧倒的人気を誇る存在に。
若者の酒離れが語られて久しく、焼酎甲類全体の全国出荷量も年々減っている中、ここ10年で6倍も出荷量が増えるほどの成長ぶりを見せているという。
そんなキンミヤを製造しているのが、三重県四日市市楠町に本社・工場を構える『宮崎本店』である。創業は1846年。2016年に開催された三重・伊勢志摩サミットでは、同社の日本酒『宮の雪 純米酒』が各国首脳に提供されたほどの老舗だ。そんな伝統も実績もある同社を訪れた。
いざ、四日市市の『宮崎本店』へ!
東京から約2・5時間。最寄りの楠駅にはタクシーの姿もなく、人影もほとんど見られない。駅から歩いて約10分で本社までたどり着く。道すがら目につく、そこかしこの電柱に宮崎本店の看板が。そのまま住宅街を歩くと、突如、木造の真っ黒い建造物群が現れた。その一部と趣のある本社社屋は国の登録有形文化財に指定されているという。
かつては「灘の清酒、楠の焼酎」と並び称され、駅の向こうには大手酒造メーカー『宝酒造』もある焼酎蔵元のメッカ、楠町。原材料に使う鈴鹿山系の天然水はミネラル分をほとんど含んでいない、口当たりがやわらかな超軟水。
良質の水に恵まれたこの地には、最盛期には町内に30以上の蔵があったそうだが、それらの蔵が廃業するたびに宮崎本店が引き取り、ついには敷地を8000坪まで拡大しているという。
昨今のキンミヤブームをどう思うか、伊藤盛男取締役に尋ねてみると「東京3大煮込み店『岸田屋』(中央区)、『大はし』(足立区)、『山利喜』(江東区)など、名のある飲食店さんに取り扱ってもらったおかげですよ」と言葉は控えめだ。
しかし、それだけが理由ではないだろう。例えば、人気商品『シャリキン』は、キンミヤをシャーベット状に凍らせ、これを氷がわりに割りものと混ぜて作られている。実は、これは飲食店側が考案した飲み方で、商品化をリクエストされ販売に至ったという。
さらに驚いたのは、キンミヤの本来の商品名。元は『亀甲宮』というのだ。金色の亀甲型の宮の字のロゴが愛され、消費者から「キンミヤ」と呼ばれていたところを「みなさんがそう呼ぶので」と正式名称のほうを『キンミヤ焼酎』に変更したという。
「キンミヤはお客様に育ててもらっていますね」(宮崎由太社長)
顧客を大切にして、飲食店の1軒1軒に顔を出し、要望を聞く。その姿勢がブームの根底にあるのではないか。歴史が育んだ「焼酎の街」を歩き、地元で名高い清酒造りの見学(1日1組限定・要予約)をして、いまをときめく評判の焼酎を手に入れる。そんな旅を楽しんではいかがだろうか。