1920年代に全米を震撼(しんかん)させた凶悪な少年誘拐事件を基にした心理劇ミュージカル『スリル・ミー』が4年ぶりに再演される。登場人物は事件を起こした天、“私”と“彼”のふたり。そしてピアノ1台のみで繰り広げられる繊細で濃密な100分の舞台は、1度見たらハマる人が続出。2011年の日本初演から再演を重ねて、今回が6回目の上演となる人気作だ。この伝説のミュージカルに初参加する成河さんと福士誠治さん。初共演のふたりが作り出す“私”と“彼”はどんな心理戦を見せてくれるのか。
ふたりの共通点はウザい暑苦しさ!?
─以前からの交流は?
福士 飲み会で会ったことがあるくらいで。
成河 ちゃんと話したのはこの仕事が決まってからですね。
福士 でも最初から初めてな気はしませんでしたけどね。僕は成河くんと話すのがすごく好きなんですよ。ひとつの題材に対して、いろんな視点から話せる人だから面白い。でも絶対ふたりで合コンしたらモテないタイプです(笑)。
成河 アハハハハ!
福士 女の子から、その話題、そんなに深くまで聞いてないけどって言われそう(笑)。
成河 わかる! ウザがられるんだよ~(笑)。だから一見、誠治くんはそういうタイプに見えないのにそうだったことが、どれだけホッとしたか。
福士 僕のなかでは、ちょっと似てる感じします。
成河 暑苦しい(笑)。
福士 アハハハハ!
─『スリル・ミー』で共演することが決まったときは、お互いどう思いましたか?
福士 僕は単純にうれしかったですね。なんか根拠のない自信というか、どでかいピースがハマる気がするって思ったのは、勘違いだったかどうかはわかりませんけど(笑)。
成河 それはこれからだよ。
福士 成河くんと演出が栗山(民也)さんでやると聞いたときに、いいパッションが自分のなかで生まれました。
成河 僕もミュージカルってものに足を突っ込んで月日が浅いこともあるし、ぐちゃぐちゃ演劇をめぐる環境について考えちゃう癖があるんですけど、そんなものぜんぜん関係ないところから、誠治くんがバ~ッと来て作品の話をできたことがすごくうれしくて。
福士 芝居に関しての追求は似ているような気がする。土臭いというか、生け花じゃねえぞ俺たちみたいな。大地に咲く花でいたいみたいな。
成河 だって泥臭いものをやるほうが絶対楽しいしね。特にこの作品は、どろっどろした汚いものであるべきだと思うから。こんな無残な姿をさらすミュージカルを、今回、誠治くんとできると思うとすごくうれしいんですよ。
─『スリル・ミー』という作品についてはどういう印象ですか?
福士 いいタイトルつけるなと思いました。
成河 ほんとにそうだね。
福士 スリルっていうのがすごくいい響きで、作品にマッチしている。このタイトルでなきゃこんなにヒットしなかったのではないかという気がするくらい。
成河 変な邦題つけなくてよかったよね(笑)。
福士 この作品の中身は、暗いというか深いというか、そのとらえ方はたくさんあるんですけど、そういう意味でこのスリルっていう漠然とみんなが持っている共通の言葉がイマジネーションを生むのがいいなって思いました。
成河 劇場にスリルを求めて来る観客の叫びでもあるだろうし。誰が言ってる言葉かっていうことが、またこの作品の核にもなってきますし。僕は非常に女性客向けのものなのかなっていう勝手な偏見を持っていたんですね。でも実際はぜんぜんそんなものではなくて、すごく暴力的な作品だったのでギョッとしました。だから偏見を持っていたことを恥じましたし、同じように考えている方にも見てもらえたらと思っています。
見せたくない嫌な部分も丸裸に
─成河さんが“私”、福士さんが“彼”を演じますが、役柄についてはどうとらえていますか?
福士 まあ弱い人間だなと思いつつ、彼も私も子どもみたいですよね。ふたりは表裏一体なキャラクターだというのが僕のなかではあって。似ていないようだけど根本は似ている気がします。依存してるんですよね。
成河 お互いにお互いしかいなかっただろうからね。パワーバランスなんですよ。私は彼によって姿を変えるだろうし、彼も私によって姿を変えるだろうし、言い方も立ち居振る舞いも変えるだろうし。それは稽古レベル、演技レベルでもそうですし。稽古が楽しみでしょうがない。
─演じるうえで大切にしたいと思うことは?
成河 この作品に関しては、人間が丸裸になっていくような部分があるので、僕ら自身も見せたくない嫌な部分も丸裸にしていかなきゃいけないときに、これまで生きてきた人生を見つめなきゃいけない部分って出てくるんだろうなということはすごく思う。
福士 彼は強気なセリフがあるんですけど、セリフは強気なのに顔は弱気なのも面白いかなって。SとMでいったら、私が弱気なSで彼が強気なMみたいな感じもあるので(笑)。
成河 アハハハハ!
─ラブシーンのようなシーンもありますが?
成河 今作はある意味ずっとラブシーンだと思いますからね。
福士 放火もなくて、人も殺さなかったら、いちゃいちゃしているだけだからね(笑)。
─成河×福士ペアとしてはどんな私と彼を見せたい?
成河 僕らは駆け引きの部分、見えるか見えないかギリギリのところで見せていきたい。それが今回は狭い劇場だからできるんですよね。お客さんをそこでハラハラさせたいし。
福士 いわゆるエンターテイメント作品じゃないので思索する部分を与えたい。
成河 わかりづらくしたいね。どっちなんだろうとか。
福士 観終わった後に、私と彼の関係性について、討論してほしいです。
監獄の仮釈放審議委員会。34年前、私(成河/松下洸平Wキャスト)と彼(福士誠治/柿澤勇人Wキャスト)が起こした犯罪について、収監者“私”の5回目の審議が進行中である。19歳の“私”と“彼”に一体何が起きたのか。衝撃の真実が明かされていく。1920年代に全米を震撼させた少年誘拐事件を基にした究極の心理劇。
東京公演:2018年12月14日~2019年1月14日@東京芸術劇場 シアターウエスト/大阪公演:2019年1月19日~20日@サンケイホールブリーゼ/名古屋公演:2019年1月25日@名古屋市芸術創造センター
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PROFILE
そんは◎1981年3月26日、東京都出身。大学時代より演劇を始める。以降、舞台を中心に活動。主な舞台作品は、『BLUE/ORENGE』『春琴』ミュージカル『エリザベート』劇団☆新感線『髑髏城の七人 Season花』『人間風車』など。現在、映画『ムタフカズ』公開中。映画『チワワちゃん』が'19年1月18日公開。
ふくし・せいじ◎1983年6月3日、神奈川県出身。2002年、俳優デビュー。以降、ドラマ、映画、舞台と幅広く活動。主な舞台作品は、ミュージカル『RENT』スーパー歌舞伎II『ワンピース』劇団☆新感線『修羅天魔~髑髏城の七人 Season極』など。現在、NHK土曜ドラマ『ぬけまいる~女三人伊勢参り』(NHK総合・土曜18時5分~)出演中。
(取材・文/井ノ口裕子)