近年はSNSの充実で、地方からも全国的な人気を獲得するコンテンツが誕生している。これからも確実に地方からスターは生まれ、それらの命は、東京のエンタメ観では見つけられない場所で産声をあげています。そんな輝きや面白さを、いち早く北海道からお届けします。(北海道在住フリーライター/乗田綾子)

映画『そらのレストラン』札幌・完成披露試写会 鈴井貴之と大泉洋 撮影/乗田綾子

 例年より遅く初雪のたよりが届いた、こちら北海道札幌。そんな北の地にて11月27日、大泉洋さんの主演映画『そらのレストラン』の完成披露試写会が行われたので、ちょっとお邪魔してまいりました。

 2019年1月25日から公開予定のこの映画は、北海道の食と、そこに生きる人々を題材にした“北海道映画シリーズ”の第3弾。

 2012年公開の『しあわせのパン』、2014年公開の『ぶどうのなみだ』(いずれも大泉洋主演)に続き、今回は北海道南西部の小さな町を舞台に、チーズ工房を営む夫婦と、食を通じて共に生きる仲間たちの姿が描かれています。

 会場となったこの日のユナイテッド・シネマ札幌には、取材関係者だけでなく、抽選で選ばれたファンの方も多数来場。

 11月下旬ということもあり、外は冬を間近に控えた北海道ならではの肌寒さでしたが、上映前に主演の大泉洋さん、本上まなみさん、深川栄洋監督が登場すると、会場は一瞬にして暖かい拍手の音に包まれていきました。

映画『そらのレストラン』のパンフレットより (c)2018『そらのレストラン』製作委員会

北海道にある不思議なお話

大泉「パンを作り、ワインを作り、チーズを作り……まぁいつも何か作ってるわけでございますけれども(笑)。

 今回の『そらのレストラン』は過去2作のほっこりとしたテイストは残しつつも、深川監督ならではの人間を色濃く描く部分、ストレートなんだけど心にジンとくる、そんな作品に仕上がっていて。人、友情がよりクローズアップされて、今までの作品とはまた違うものになったなという感覚を持っております」

本上「撮影しているときから、早くこの作品をみなさんに見ていただきたい、この楽しい仲間たちの営みをぜひ見ていただきたい、と本当に思っていました。

 作品の中には驚くくらいファンタジックなエピソードもいくつか出てくるんですけども、それはほとんどが(映画の舞台となったせたな町の人たちの)実話をもとにしているものなんだそうです。そんな不思議なお話が北海道にあるんだなと思いながら、ぜひ見ていただけたらと思います」

 夫婦役を演じた2人の言葉で始まった舞台挨拶は、澄み渡る青空が印象的な劇場用ポスターの雰囲気とどこか通ずるように、ずっと笑顔が絶えない雰囲気。

 ホームグラウンドの北海道に帰ってきた大泉さんの名調子(?)に、劇中さながらの優しいほほ笑みで華を添える本上さん。

 そして“雨男大泉”に泣かされ続けたロケの思い出を語る深川監督と、キャスト・スタッフ陣のチームワークも見事で、この作品が良い環境で製作されていたんだなぁということが、みるみるうちに伝わってきます。

ミスターの “離婚トーク”

 そして今回、北海道の完成披露試写会で一番の盛り上がりを見せたのが、劇中に大泉さん演じる主人公の愛車として登場するバイク・スーパーカブの紹介シーン。

 司会に呼び込まれる形で劇場にカブを押しながら登場したのは、なんと『水曜どうでしょう』(HTB)でもおなじみ、ミスターこと鈴井貴之さん!

映画『そらのレストラン』札幌・完成披露試写会 鈴井貴之 撮影/乗田綾子

 あまりにもカブが似合い過ぎるこのサプライズゲストは、『そらのレストラン』に鈴井さんが友情出演しているということもあり、実現したもの。

 鈴井さんによればこの映画への出演はそもそも、鈴井さんや大泉さんが所属する芸能事務所・CREATIVE OFFICE CUEの社長であり、同映画のプロデューサーでもある伊藤亜由美さんから直接電話でオファーがあったことで決まったそう。

 そこで大泉さんから“友情出演”の意味を改めて問われた鈴井さんは、

鈴井「この映画のプロデューサー直々に、直接電話をいただきまして。“ちょっといい役があるんだけど出てくれないか”と。あの……まぁ……離婚しましたから!! もうモメたくないんで!! ここで断ったらまた厄介なことになるからすぐ“わかりました”と、そういう“友情”なんです!!」

(※鈴井さんと伊藤さんは2017年に離婚を発表した元夫婦)

 しかも今回ノーギャラで撮影に協力しているという鈴井さんは、その伊藤プロデューサーの気遣いにより、撮影中は毎晩、食事をごちそうになっていたというエピソードを披露。

 そんな不思議な会食の場には、やはり旧知の仲である大泉さんも参加していたそうで、

大泉「それこそ私も鈴井さんが撮影に参加してくれた日に、ご飯でも食べましょうって声をかけたら、鈴井さんが“この後プロデューサーが来ます……”って。

 “なんだよその微妙な会! なんで元夫婦と一緒に飯食わなきゃいけねぇの俺!”みたいな。でもおかしなもんでねぇ、夫婦だった頃には一言も口きいてんの見たこともなかったのにねぇ、別れてから仲がいいんですよ(笑)」

 そして会場に響き渡る大きな笑い声の中で、「……なんでこの離婚した夫婦の話ばっかりしなきゃいけないんだ! ほっこりとした良い家庭の映画の話をしていたいんですよ! だいたいなんで呼ぶんですかこの人! ちょっとしか出てないのに!」と突然、我に返ったようにボヤきだす大泉さん。

味わい深い、仲間の存在

 しかしそこは北海道が生んだスターであり、いまや日本でも屈指の人気俳優となった大泉さん。最後の最後にはやっぱり主演らしいしっかりとした言葉で、この賑やかな舞台挨拶を締めてくれました。

映画『そらのレストラン』札幌・完成披露試写会(左から)鈴井貴之、大泉洋、本上まなみ、深川栄洋監督 撮影/乗田綾子

大泉「本上さんもおっしゃっていたとおり、この映画はほぼ実話といいましょうか、北海道のせたな町に実在する若手農家・酪農家のグループ『やまの会』というモデルが実在するんです。ですからそういう生産者の方たちが実際に北海道にいるんだな、と思って映画を見ていただけると面白いと思います。

 そして映画を通して、いろんな食材があるんだなっていうことを知ってもらったり、その中から映画を見た皆さんが北海道のいろんなものを食べてくれることで……今年は大きな震災もございましたので、この映画がそういった意味でも何かお役に立てればいいな、北海道が元気になるといいな、と思っております」

 この舞台挨拶の後、私も『そらのレストラン』をひと足早く観せてもらったのですが、観終わって真っ先に思ったのは「仲間という存在って、そういえばこれくらい味わい深いものだったかもしれない」という気づき。

 その場の楽しさや目に見える絆だけではなく、時に厳しいこと、苦しいこともわかち合うからこそ、人はいつしかもっと強くつながっていく。そんな大事なことを、「そらのレストラン」は実にさりげなく、だけど確かに思い出させてくれました。

 キャッチコピーにもなっている、《笑顔も涙もおいしいも ひとつにとけあい分かち合う》。その意味は映画を観るとより深く、自然といつまでも心に残るはずです。

 ただし空腹時の鑑賞にはご注意を。目にも心にも美味しい映画を見た後は、きっと誰もがその濃厚な余韻を、胃袋でも味わいたくなるはずです!

映画『そらのレストラン』
2019年1月25日(金) 全国ロードショー
公式サイト:http://sorares-movie.jp/

乗田綾子(のりた・あやこ)◎フリーライター。1983年生まれ。神奈川県横浜市出身、15歳から北海道に移住。筆名・小娘で、2012年にブログ『小娘のつれづれ』をスタートし、アイドルや音楽を中心に執筆。現在はフリーライターとして著書『SMAPと、とあるファンの物語』(双葉社)を出版している他、雑誌『月刊エンタメ』『EX大衆』『CDジャーナル』などでも執筆。Twitter/ @drifter_2181