寒くなって、日照時間も短くなり、生物学的にも気分が落ち込みやすいこの季節。この時期に無理を重ねると、「冬うつ」に陥ってしまうことも! 悪化する前に対処すると効果バツグンな、今を心穏やかに乗り切るコツを伝授します。
原因も症状も1つじゃない
誰にでも起こりうる現代病
かかる人が増えているといわれるうつ病。意外と知られていない詳細について、改めておさらいを。うつ病とは気分障害(感情障害)の総称で、ひと言でいうと心のエネルギーが欠乏した状態のこと。憂うつな気分や意欲の低下といった心理的症状が続くだけでなく、身体的症状が伴う場合も。どんな人でも日常生活の中で、憂うつな気分を味わったり、食欲が落ちたり眠れないことはあるもの。しかし、心のエネルギーが欠乏していなければ、時間の経過とともにまた元気になれます。それに対し、時間が経過しても改善しない、あるいは悪化して日常生活に支障をきたすようになると、治療が必要な病気としてとらえられます。
また、うつ病は、症状の現れ方や重症度、病型などにより、いくつかに分類できます。病型による分類では「メランコリー型」、「非定型」、「季節型」、「産後」などがあり、典型的な「メランコリー型」は仕事や責務、役割に過剰に適応しているうちに、心のエネルギーが枯渇(こかつ)してしまうタイプを指します。一方、「季節型」は、特定の季節にうつ病を発症し季節の移り変わりとともに回復がみられるもの。特に冬季うつ病が有名です。精神科医の奥田弘美先生によれば「秋から冬は、多くの人が意欲の低下を感じやすくなりますが、実際に冬季うつ病と診断されるのは人口の4%程度。症状が連続している、日常生活が障害されているなどが、病気かどうかの判断の基準になります」
病気ではなく自然現象である場合も多いものの、つらい症状を自覚している人にとって、傾向や対策を知っておくのはメリットになるはず。そこで、これから多発期を迎える「冬うつ」について掘り下げていきます。
・メランコリー型うつ
・非定型うつ
・季節型うつ
・産後うつ
常に落ち込みが続く「メランコリー型」に対し、いいことに対しては気分がよくなる「非定型」、ホルモンの変化や授乳による睡眠不足などが影響する「産後」など、うつにはいくつかの種類があり、その原因もさまざま。
寒い冬に起こりやすい
憂うつや倦怠感の正体とは
秋になるともの悲しい気分になったり、冬は運動や外出がおっくうになる……という感覚は、誰しも1度は感じたことがあるはず。しかし、それが数週間も続くなら身体的要因があるのかも!?
「近年、10月、11月あたりから気分の落ち込みや倦怠(けんたい)感などのうつ症状が現れ、3月になると回復するというサイクルを持つうつがあることがわかってきて、それを冬季うつ病や季節性感情障害といいます」と奥田先生。その主な原因は、日照時間の減少と体内時計の乱れ。
「日照時間が短くなるとセロトニンが分泌されにくくなることや、体内時計がうまく作動しなくなることで起こるといわれています。また特徴としては、一般的なうつは食欲が落ちて眠れなくなるのに対し、冬うつは逆に睡眠時間が長くなって朝起きられなかったり、食欲が非常に亢進して炭水化物が欲しくなるという症状があります」
ただし、病院での治療が必要なのは、こうした症状が2週間以上続き、日常生活に支障が出る場合。
「生き物にとって冬は冬眠の時期であるため、春夏のようにエネルギッシュに物事に取り組めなくなる傾向はどの人にもあります」
つまり、憂うつだけど仕事や家事はそれなりにこなし、外出も人付き合いもできているなら深刻にとらえる必要はないそう。
「さらに季節性感情障害の大きな特徴といえるのが、気分が落ちる明らかな原因がないこと。たまたま冬に嫌なことやトラブルがあって滅入るのではなく、何も原因がないのに気分が落ち込む。しかも1回だけでなく、冬のたびに起こる、というようにサイクル化するのも特徴です」
季節や日照時間がこんなにも心身に影響を及ぼすのは意外だけれど、環境や生活リズムの調整により予防やある程度の改善は可能なので、冬との上手な付き合い方を工夫していきたい。
冬うつ2大原因
日照不足
十分な日光を浴びることができないと、気分の安定を司るホルモン・セロトニンの分泌量が減り、落ち込みなどの症状が起こる。それゆえ、季節性感情障害は緯度が高く極端に日照時間が少ない北欧や日本では北陸や東北地方に多い。
運動不足
冬は気分がふさぎこむだけでなく身体を動かすことも面倒になるため、家にこもりがちに。すると、ますます太陽の光を浴びる機会が減り、運動不足からホルモン分泌や体内時計の働きが低下するなど、悪循環に陥ることに。
・ぐったりとして倦怠感がある
・何に対しても興味や喜びを感じない
・気力がなく外出できない
・ちょっとしたことでイライラする
・集中力が低下し、今までできていた仕事や家事がスムーズにこなせない
・朝起きられない
・気分が落ち込み、何も手につかない
・10~11月ごろから急激に食欲がアップし、特に炭水化物の欲求が強い
・人間関係や仕事など、特定の理由がないのに気持ちが晴れない
・毎年冬になると心身に不調が現れる
上記の症状が2週間以上続く場合は、季節性感情障害やうつ病の可能性があるので、心療内科などの医療機関で受診を。一方、症状があっても断続的で日常生活に支障がなければ深刻にとらえる必要はナシ。次から紹介する対策を試してみて。
うつの対策と心がけ
しっかり日光を浴びリズムに沿う生活を
冬うつの対策は、まず日光に当たること。
「日光を浴びることで体内時計が整い、セロトニンの分泌を促すことができます。そもそも人間は、朝日とともに目覚めて活動し、夕日とともに眠りにつくという生体リズムで生きています。そのリズムに沿った生活をするだけでも、自律神経の乱れが整いやすくなります」
また、脳内物質の原料となる食事も重要なポイント。
「バランスのよい食事を最低でも1日2食はとっていただくのが基本。特にタンパク質は不足すると脳内物質の生成も円滑にいかなくなるのでしっかりとるようにしましょう」
さらに、慌ただしくなりがちな年末年始も無理は禁物。
「環境ストレスがきつくなるので、年末年始に無理をすると、うつの症状が本格化しやすく注意が必要です。特に12月から2月あたりの厳寒期は、~するべき、~ねばならないという考え方を少し緩めて、スローな生活を心がけていただきたいですね。年末年始も、のんびりする時間を増やすといいと思います」
日光を浴びるor照明を活用
日照時間の減少がネガティブな気分に影響するため、とにかく家の中を明るく! 日中はカーテンを開けて日光を取り込み、日当たりが悪い部屋の場合は、朝日と似た波長をもつ蛍光灯を活用して。ただし、夜も明るく照らしてしまうと不眠体質になるおそれがあるため、夕方からは照明をランプ色にして落としぎみにするなど、生体リズムに合わせた調整を。
バランスのよい食事をとる
睡眠を司るメラトニンや気分の安定に関わるセロトニンといった脳内物質=ホルモンの原料となる食事はとても重要。肉、魚、卵、大豆などのタンパク質、緑黄色野菜、ほどよい炭水化物からなる「バランス食」を1日最低2食はとること。特に、セロトニンの原料となるトリプトファンという物質が豊富に含まれるタンパク質はしっかり摂取を。
休息日を用意する
旅行の翌日は自宅でゆっくりするなど、スケジュールを詰め込みすぎない。身体の疲れは心の不調を招くので、日ごろから無理のない生活を心がけて。人との約束も「もしかすると行けないかも」とキャンセルの余裕を残しておくのがベター。
軽い運動を心がける
生体リズムを整えるためにも、ウォーキングやサイクリングなど、日光を浴びながらの軽い有酸素運動を取り入れると◎。寒さが苦手な人は、ショッピングセンター内を歩くなど屋内での運動と窓辺での日光浴を組み合わせても。
しっかり眠る
仕事も家事も無理をせず、ゆったりと過ごすのが大切。ただし、冬うつは長く眠りすぎてしまうのも特徴なので、無理のない範囲で日光を浴びたり身体を動かして夜しっかり眠れるよう生体リズムに沿う生活を心がけて。
年々増加!? 高齢者うつとは
年齢を重ね精神的に安定するイメージがある一方、意外と多いのが高齢者のうつ病。高齢者のうつ病有病率は人口の13.5%といわれ実はうつ病は認知症と並んで高齢者によくみられる病気のひとつ。
高齢者のうつ病は、体力や気力の衰え、健康への不安、親しい人との死別、ひとり暮らしの孤独感など、さまざまな喪失体験が原因になりやすいことが知られており、抑うつ気分のような精神症状よりも耳鳴り、めまい、ふらつき、頭痛といった身体の症状が現れるのが特徴的。「物忘れが増えた」と訴えることもあるため認知症と間違われたり、「年だからしかたがない」と放置し、重症化することがあるため注意が必要です。
・することがなくなり寝てばかり
・配偶者が亡くなって孤独
・家計や身体に関する強い不安があるなど
・趣味をする気力がなくなってくる
・子どもの独立で張り合いをなくす
さまざまな喪失体験がきっかけに。しかし主に身体の痛みや不調を訴えることが多いため、見過ごされてしまいがち。
<プロフィール>
奥田弘美さん
精神科医、産業医(精神保健指定医)、作家、日本マインドフルネス普及協会代表理事。精神科医と18か所の企業の嘱託産業医を務めながら、作家として執筆活動も行う。マインドフルネス瞑想の普及活動もライフワークとしている。著書に『ストレス・疲れがみるみる消える! 1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジネントセンター)など。
(取材・文/當間優子)