凶器と見られる林業用のナタは寝室で発見された。
その部屋に血まみれで倒れていたのは、世帯主の飯干保生さん(72)と、同居する次男の長男で孫の建設会社従業員の拓海さん(21)。両者とも複数か所、切りつけられていた。
脱衣所では、次男の妻でパート従業員の美紀子さん(41)と、その長女で孫の唯ちゃん(7)が首を絞められていた。
保生さんの妻の実穂子さん(66)は敷地内にある牛舎付近で絶命。首はナタでばっさり、胴体についていなかった。
血に染まった惨殺現場
宮崎県高千穂町で同居する2世帯6人のうち5人が遺体で発見された惨殺事件。
そしてもう1人、事件が明るみに出た11月26日の前夜に「昌大さん夫婦のケンカを仲裁してくる」と妻に言い残し飯干家に駆けつけた同県五ヶ瀬町の農業・松岡史晃さん(44)も、遺体で見つかった。ナタの一撃だった。
合計6人の遺体。
その場にいなかった次男の昌大さん(42)は、26日午後4時ごろ惨殺現場から約2・5キロ離れた五ヶ瀬川で遺体で発見された。すぐ上を通る神都高千穂大橋から飛び降り自殺したとみられる。宮崎県警捜査本部は、次男が6人を殺害した後、自殺したと見立てている。
天孫降臨の地といわれ、天照大神伝説が残る神話の里、高千穂町。その中心から車で約25分ほど走ったのどかな山あいで事件は起きた。高齢者が多く住む13戸の限界集落に2世帯同居の飯干家はある。
昌大さんが出社しなかった日のことを、勤務先の木材会社の女性従業員が振り返る。
「これまで無断欠勤はなかった。本人に連絡をしたんですが、音信不通でした。昌大さんの弟(三男)に連絡がついたのでその旨を話し、警察に家に行ってもらったそうです」
駆けつけた警察官が目にしたのが、血に染まった惨殺現場だった。
「仲裁してくる」という松岡さんの発言から、昌大さん夫婦はケンカしていたとみられる。一部近隣住民は「昌大さんの女性関係、いわゆる不倫が夫婦間のトラブルの原因らしい」と話した。
不倫トラブル説
松岡さん宅近くに住む女性(68)は、
「父親も奥さんも“行くな”と止めたって聞きました」
「行くな」という理由が、呼び出された時間が夜9時近くと遅かったためか、トラブルが抜き差しならないものだったからなのかは、今のところ不明だ。家族から止められてもなお向かうほどの事情とはどのようなものだったのだろうか。
松岡さんを知る人物によると「頼まれたら嫌と言えない人」(近隣の70代女性)、「消防団や地域でも後輩から人望があり、困ったことがあったらほおっておけないタイプ」(幼なじみの男性)
面倒見のよさが災いし、事件に巻き込まれてしまったとも考えられる。
不倫説が事実ならば、なぜ責められる側の昌大さんがキレたのか。一般的に、不倫されたほうが逆上し、凶行におよぶ、というケースは時折、起こるが……。
昌大さんは、
「急にキレだす人ではなかった」(小・中学校時代の同窓生40代女性)
しかし、両親や子どもたちも手にかけたとみられる。しかもナタで惨殺というむごいやり口で。
親戚の女性(77)が明かす。
「保生さんは穏やかな人で働き者。トラブルもない。実穂子さんは宮崎の洋裁学校出身で、手先が器用。地域活動にも積極的で、いつもニコニコしていました」
保生さんはしいたけ、米などを栽培する一方、土木作業員として働いていた。
次男夫婦の不仲、不倫についても「聞いたことがなく根拠がわからない」(近所に住む40代女性)との声がある一方、「飯干さんの奥さんと松岡さんの仲を怪しんで、旦那が松岡さんを呼び出したって話です」(五ヶ瀬町の70代男性)と流言飛語が行き交っている。
昌大さんの会社の同僚女性は、
「会社の飲み会に奥さんが一緒に来たり、迎えに来たりしていました。仕事が終わると“家族との時間を過ごしたい”と、いつもさっさと帰っていました」
と昌大さんの家族思いの一面を明かす。
事件前日から当日にかけて昌大さんは妻と娘を伴い社員旅行に参加していた。
「熊本・阿蘇にある温泉旅館に行きました。いつも一緒に行動し、食事のときも3人で並んで座っていました。帰りがけには“楽しかったね”“来年も来たいね”と唯ちゃんと奥さんは話していました。昌大さんはその様子をニコニコ見ていました。解散は25日の午後3時ごろでした……」(前出・同僚女性)
そしてその数時間後、惨殺事件が起きることに……。
溺愛する娘まで……
前出・同僚女性が話す。
「昌大さんは“息子に彼女がいるとよ”とうれしそうに話してくれたことがありました。“早くじいちゃんになるね”と言うと“困りますよ”と言いつつも、はにかんでいました。
唯ちゃんも可愛くてしかたない感じで溺愛していましたね。道連れにしたのであれば残された先のことを考えたのかもしれません」
不倫を疑われていた可能性がある松岡さんは今年5月ごろ、長年付き合っていた女性と再婚したばかり。
「先月の祭りでは初めて奥さんを連れて来て、とても仲睦まじい様子でした」
と、知人女性(68)。
今年初めごろ、熊本のトラック運転手を辞め“親も年とって大変、いずれは家を継ぐ”と専業農家になった。
「両親も喜んでいました。おまけに集落を担っていく、中心になる人だとみんなで話していました」(前出・知人女性)。幸せ絶頂のところでかわいそう、と目を潤ませる。
昌大さんは夫婦トラブル解決になぜ松岡さんを呼んだのか。第三者が口を挟めばよりこじれる可能性は高い。
昌大さんと松岡さんはそれぞれ熊本県で働いており、2人の妻はともに熊本県出身で何らかの接点があったのか、ひも解くべき謎は依然多い。
「この辺りは年寄りが1人か2人で生活している家ばかりなので、三世代で同居は珍しい。息子さん夫婦と孫に囲まれて生活している保生さんはうらやましいなと思っていました」(前出・親戚の女性)
そんな両親まで殺し、母親の首を切るほどの憎しみはどう醸成されたのか。
押方小学校には唯ちゃんの机が生前のまま教室に残る。
「唯ちゃんの掲示物や荷物は担任が少しずつ片づけています。一気にやるとみんなショックを受けますからね。みんなひどく悲しんでいます」
と、教頭。
真相究明が待たれる。