桜井玲香 撮影/伊藤和幸

 絶大な人気を誇るアイドルグループ、乃木坂46で、容姿・実力・育ちのよさと三拍子そろってキャプテンを務める人気者、桜井玲香さん。彼女がいよいよ、海外発大作ミュージカルのヒロインとして第一歩を踏み出す。記念すべき1作目は、ウィーン発ミュージカルの傑作『レベッカ』だ。

役というより半分自分

「オーディションでは劇中歌の歌唱を、音楽・編曲のシルヴェスター・リーヴァイさんに見ていただきました。でも初めてだと発声もうまくできなくて、息も続かない。最後まで丁寧に歌いきることができず、半ベソをかきながら歌っていました。

 歌は歌としてしか歌ったことがなかったので、歌詞に感情を乗せるのも難しくて。“もっと動きをつけて”と言われても、どう動けばいいのかわからないから棒立ちで。受かったのは奇跡です(笑)

『レベッカ』は、ヒッチコックの映画でも有名なゴシック・ミステリー。桜井さん演じるヒロインの「わたし」は、上流階級のマキシムと恋に落ちて結婚するが、彼の屋敷では事故死した前妻・レベッカの影が「わたし」を苦しめる。

「脚本を読んだときは“重いな”って思いました(笑)。でも美しい作品です。“わたし”は若くて世間ずれしていない子だと思うんですが、ひとりで生きていくたくましさは持っています。

 私はこの役を、役というより半分自分、くらいの感じでやりたいと思っているんです。そのほうが感情も動きやすいだろうし年齢も近く、初めての環境に入っていくところも自分を重ねやすいのかな、と。

 彼女に対しては“なんでこうなるの?”みたいなところがほとんどないので。私自身はあんなに強くはないですけど。私なら、初めに使用人たちから握手を拒否られたりしたら、もう泣いて帰りたいって思っちゃいます(笑)」

いずれは女優になりたい

桜井玲香 撮影/伊藤和幸

「わたし」役は、大塚千弘さん、平野綾さんとのトリプルキャストとなる。

「最初は“こんなにすごいおふたりと!”と焦りました。でも冷静に考えたら、お稽古中はおふたりがやっているところをずーっと見ていられる。何にも知らないゼロ状態の私にとって、それはとっても贅沢なことなんです。

 しかも大塚さんと平野さんがまったく違うカラーをお持ちなので、その両方から学ばせていただけるのは本当に恵まれていると思います」

 乃木坂46に入った当初から「いずれは女優になりたい」という気持ちがあったそう。

「歌と踊りが好きで、小さいころからテレビっ子だったので演技にも興味がありました。でも、小さいころはどちらかというとミュージカルは苦手だったんです。

 でも、先にミュージカル界で活躍しているいくちゃん(同じ乃木坂46の生田絵梨花さん)が出ている舞台を見に行ったら“本当に楽しい”って思えて。“いつか、もっと実力がついたときにミュージカルができればな”と思うようになりました。

 やはりミュージカルって華やかですし、生の迫力ってものすごいですし、何よりいくちゃんがすごくキラキラしていて。見れば、女の子だったら誰でも憧れる世界ですよね

 これまでにも女優経験は何度もあるが、特に話題となったのが、萩尾望都さんと野田秀樹さんの脚本を、中屋敷法仁さんが演出した『半神』。身体のつながった双子の姉妹のうち、醜いシュラ役を熱演した。

「脚本が難解で、とにかく振り回されました。しかも舞台が八百屋(傾斜のあるセット)で肉体的にもつらく、初めて会った妹役の藤間爽子ちゃんと心を通わせて演技をしなければいけなくて、心理的にも難しかったです

 本番中まで中屋敷さんと爽子ちゃんと夜な夜な“あれはどうだ”“シュラ的にはこうです”とか話し合いながらやっていたので、本当に濃い日々でしたね」

女優とアイドル

 舞台に女優として立つことは、アイドルとしてはなかなか味わえない喜びをもたらしてくれたのだとか。

「アイドルだと、いかに可愛く見せるか、みんなでいかにそろえるか、というところが大事なんですね。個性を出すこともありますけど、ひとりだけはずれたことができるかといえば、それはないんです。

桜井玲香 撮影/伊藤和幸

 でも演劇の舞台ではひとりですし、自分の経験を全部投影しながら感情も“うれしい、楽しい”だけじゃなくて“悲しい、悔しい”というところも出さなきゃいけない。だから“常に新しい自分が出てくるな”と感じていました。

 自分を出していいどころか、どんどん出していかないと負けちゃうので、自分を解放できるんです」

『レベッカ』を終えたとき、「わたし」のように変わっていたいと思っている。

「私はひとりっ子で過保護に育てられましたし、いまはグループにいて責任もみんなで分け合ってという状況なので、ひとりでポンと別の環境に出されたときすごく弱いと思うんです。

 そういう心もとなさやウブさは、最初のころの“わたし”とリンクすると思うんですね。でも“わたし”はだんだんと強くなって、しっかりと自分の足で立てる女性になっていく。

 だから私自身も壁にいっぱいぶつかると思うんですけど、それを乗り越えて、“わたし”みたいにドシッと構えられるような存在になりたいなと思っています」

ミュージカル『レベッカ』

■ミュージカル『レベッカ』
 女流小説家ダフネ・デュ・モーリアの原作を、ウィーンミュージカル界の名コンビ、ミヒャエル・クンツェ(脚本・作詞)、シルヴェスター・リーヴァイ(音楽・編曲)がミュージカル化。東京公演は10年前に初演の幕を開けたシアタークリエの開場10周年記念公演として上演される。12月1日~4日 シアター1010(プレビュー公演)、12月8日・9日 刈谷市総合文化センターアイリス 大ホール、12月15日・16日 久留米シティプラザ ザ・グランドホール、12月20日~28日 梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ、 2019年1月5日~2月5日 シアタークリエ。詳しい情報は公式サイト(https://www.tohostage.com/rebecca/

PROFILE●さくらい・れいか●1994年5月16日、神奈川県生まれ。2011年に乃木坂46の第1期生オーディションに合格。2012年『ぐるぐるカーテン』でCDデビュー。乃木坂46のキャプテン。2016年、舞台『嫌われ松子の一生』に若月佑美とのWキャストで主演。2018年には萩尾望都・野田秀樹脚本、中屋敷法仁演出の『半神』でシュラ役を熱演し、話題をさらった。

(取材・文/若林ゆり)