凰稀かなめ 撮影/森田晃博

役作りのために家具を全部捨てちゃう

 オードリー・ヘップバーン主演で映画化もされた名作サスペンス『暗くなるまで待って』が、10年ぶりに上演される。ロンドンのアパートの1室を舞台に、盲目の若妻と彼女の家に持ち込まれた人形を奪いにきた悪党3人が繰り広げるスリリングな駆け引きが見どころだ。

 ヒロインの盲目の若妻スージーを演じるのは、元宝塚宙組トップスターで、退団後も舞台を中心に活躍する凰稀かなめさん。

私は『暗くなるまで待って』のことを知らなかったんですね。でも盲目の女性の役でサスペンスものの舞台があるというお話を聞いたときに、あまり経験のないサスペンスということで、ぜひ挑戦したいと思いました

 事故で失明して精神的ダメージが大きかったはずのスージーだが、支えてくれる夫の存在もあり、境遇に負けず前に進もうといろいろなことに挑戦する「すごく芯の強い女性だと思う」と凰稀さんは語る。舞台で盲目の役を演じることについては?

「すごく大変だと思いますね。現に私は、目が見えているのですから、目に障害を持つ方がどの様な日常を送っていらっしゃるかもわからないのと、目が見える方の恐怖感と、目の見えない方の恐怖感では全く違うのでどう演じるか考え中です。

 リアリティーあるものは作っていきたいと思いますが、まったく目が見えないからといって共演者のことをまったく見ないでやったらお芝居がかみ合わないので、最初のお稽古ではちゃんと共演者の目を見て、相手がどうするのかインプットしたら、たぶん一切見ないというふうにはなると思うんですけど

 宝塚時代から続けているというこだわりの役作りがある。

「今回は、たぶん自宅では真っ暗な状態でアイマスクをして歩くと思います。基本的に今までどんな役でも、役柄の設定を常に家の中ではしてきているので。例えば牢獄にいる役だったら、家の中の物を全部ひっくり返してぐちゃぐちゃにして、スープだけをずっと飲み続けるとか。冷水を真冬に浴びせられる役だったら、水シャワーを浴びますし(笑)。

 実体験で感じたときの自分はどういうふうに思うのか、感覚が身につくまでやり続けますね。過去には、家の家具を全部捨てちゃったり、引っ越したり(笑)。バンパイア役をやったときには、そういう雰囲気のシャンデリアをつけたり部屋のインテリアも替えてました。そこは徹底してますね。そのほうが落ち着くというか」

 ちなみに今は?

「家の中は真っ白です。宝塚を辞めてからいろいろな役や歌の仕事などを並行してすることが多くなって、ひとつのことにばかり集中できないので。だから真っ白な状態にしておいて、常にどこにでも属せる状態にしていますね」

悪役・加藤和樹さんとの駆け引きが楽しみ

 スージーが戦う悪党のリーダー、残忍で凶悪なロート役をW主演で演じる加藤和樹さんとは、ミュージカル『1789-バスティーユの恋人たち-』で2度共演している旧知の仲。

凰稀かなめ 撮影/森田晃博

「でも、『1789』では絡みがまったくなかったんですけどね。加藤さんってすごくいい人ですごくまじめなので、どれだけ悪になれるのかなって。この前、取材でお会いして、ずっとやりたかった役だと熱く語っていらしたので、加藤さんとの駆け引きとか心理戦がどういうふうになっていくのか、すごく楽しみです。

 会うといつも“姉さん、どうも!”って感じで気を遣ってくれるので、遠慮せず自由にやってもらいたいなと思いますね

 宝塚時代から多くのミュージカルに出演してきた凰稀さんだが、実はストレートプレーが好きだという。

芝居をしているときがいちばん楽。その役の人生を生きているときが楽なんです。だから凰稀かなめではなく、本名の自分の人生のほうがどうしていいかわかんない(笑)。本名の私はあんまり活発な人間じゃないし、すごいネクラですし、家にこもりますし(笑)

 プライベートで癒しになることや何かを楽しむ時間はそんなに必要ではない?

「特に何をするっていうこともなく家にいるのが好きなので。癒し……、あ! でも部屋に観葉植物は飾ってます(笑)。ただ、枯れるんですよ(笑)。2か月に1回、水をあげればいい植物なのに。日に当ててあげたり、窓を開けて風通しをよくしてあげたりしても、いつもしおれて元気がないんですよね。

 今年の誕生日プレゼントでも大きな観葉植物をもらったんですけど、それもまたしおれてきちゃって(笑)。植物から気を取ってしまってるのかもしれませんね。もうすぐ舞台が始まるから、栄養補給してる感じで(笑)

 実際、舞台に上がると、かなり気を持っていかれるそうで。

「観客全員とお芝居をしている感覚で常にやっているので、お客様の空気の動きとか呼吸とか息遣いが、全部、空気ですぐに察知できるので、その打撃はすごいんですよ。千秋楽の後は全力使い果たして、その日の夜から翌日の夕方まで絶対寝てます。それで起きて、2時間ご飯食べてまた寝るっていう(笑)」

 この舞台にも、もちろん全身全霊で臨む。

クライマックスで最後ステージが真っ暗闇になるので、音や息遣いで何が繰り広げられているのか、お客様が常にスージーと同じ感覚でそれを共有していけるように全体を作り上げていきたいと思います

 最後に読者へのメッセージをお願いします。

「みなさんの脳を刺激するような舞台になると思います。駆け引きであったり心理戦であったり、そこには愛もありますし、友情みたいなものもありますし、いろんな要素が含まれている作品になっていると思うので、現実を忘れてサスペンスの世界へ来ていただけたらうれしいです」

<公演情報>
『暗くなるまで待って』
ロンドンのアパートの1室。盲目の若妻スージー(凰稀かなめ)の夫サムが持ち帰った(麻薬が仕込まれた)人形を奪いに、残忍で凶悪なロート(加藤和樹)とその仲間2人が次々とやってくる。彼女をだまそうとする悪党3人組と盲目のスージーとの人形をめぐる密室での攻防を描いたスリリングなサスペンス劇。
東京公演:2019年1月25日~2月3日@サンシャイン劇場
兵庫公演:2月8日~10日@兵庫県立芸術文化センター
名古屋公演:2月16日~17日@ウインクあいち
福岡公演:2月23日@福岡市民会館大ホール
【公式HP】wud2019.com

<プロフィール>
おうき・かなめ 1982年9月4日、神奈川県出身。2000年、宝塚歌劇団に入団。2012年7月に宙組トップスター就任。『ベルサイユのばら』ほか数々の名作に主演し2015年2月に宝塚歌劇団を退団。退団後も舞台を中心に活動。今後は、舞台『銀河鉄道999』さよならメーテル~僕の永遠(東京:2019年4月20日~29日/大阪:5月10日~12日)出演。

<取材・文/井ノ口裕子>